第2話
すごい音がした、まるで雷が落ちたような音だ。
ひりつく空気が鼻腔の擽った気がするが、五感が追えたのがそこまでで、頭はよくよく混乱していた。
剣を受け止めたおっさんが動いて、青年は吹っ飛ばされた。
次、理解できたのはとりあえずそれだけで、自分には、彼がどう負けたかすらわからなくて、……そのことに気づいたのも、かなりあとになってからだった。
パヴェルはどこにでもいる若者だった。
べつに有名人でもなんでもない、特筆するところのない一般人、ちょっと声が大きくてノリがいい青年。それが自分で、そのことにすら何か感情をのせることもない、そんな人物。
そんな彼の唯一の自慢が友人だった。
どうやって仲良くなったかなどもうとうに忘れたが、彼には同い年の、際立った存在感の、友がいた。
容姿も性格もいい、多少、生意気な性質ではあるが、有り余る魅力の一部だと誰もが認めざるを得ない、なにより強い、そんな男だ。
強さは重要だ、男に生まれたからには、無敵とか豪傑とか伝説とか勇者とか、そういうものに無条件で憧れるだろうと、パヴェルはずっと思ってきた。
今でもそれは変わらない、パヴェルにとってその友人は英雄だった。田舎から出てきた美丈夫は、まるで物語の主人公のようでいて、つくりもののような気さえした。
連んでいると誇らしかった、女にもよくモテる、自然と人々の中心にいられて、いいことだらけだった。
酒場で人助けをする友人を小馬鹿にしていた。
その日の記憶はそれが最後で、しこたま飲んで酔っ払って、翌朝に目覚めてまた小言を言われた。酒をしこたま飲むな、夜通し遊び歩くな、いいかげんにまともに働け、父親は年々、口ばかりうるさくなっていく。
昨夜はあんなに楽しかったのに、二日酔いとあわせて最低な気分の中、ぬるい朝の光すら苛立ちを煽る。
何も食う気になれず、惰性で家で紅茶を飲んでいると、連れのひとりがやって来た。昨晩、何があったかそこでようやく知って、慌てて訓練所へ向かう。
どうして声かけてくれねーんだよと、友に軽口を叩こうとして、……その気配に引いてしまった。はじめて感じた、圧というか、迫力というか、自分にはどう言っていいものかわからない、でも彼の友人は確かに浮き上がっていた、おいそれと近づけなくて、眺めるに留めた。
相手をするというおっさんを見て、ようやくこんなおっさんだったと思い出す。
それ以上は何も思わなかった。
ふたりが撃ち合った。
すべてが終わって、終わったことすら気づけないでいた友人を見て、それまで積み上がった何かが、壊れたのだと思った。




