第11話
「よお、性悪魔女、相変わらずせこせこ労働してるようだな」
どかりと音を立ててカウンターに陣取ると、そいつは草臥れた顔をこちらに向けた。
「あなたこそ随分、相変わらずの働き者じゃないのぉー……過労死するわよぉ」
憎まれ口に軽く返すと、うねった癖のある赤い前髪と同じ色の眉のあいだに、しわが寄った。
「なんだそれ」
「働き過ぎで死んじゃうことよぉ」
「へぇ、博学だな」
お互い、目の下にくまがあった。ヴァシリッサはあえてそれには触れなかった。実は年齢が近いので、人生における悩みは似通っていると思っていた。
「今日はなんの御用ぉ?」
ヴァシリッサは切り出すと、あわく視線が揺らいだ。めずらしい、ハーヴェイはいつだって、会話のときは人物を直視する、……なにかあったのだろうと、ほのかに身構えて顔に力を入れた。
「……前から話してただろ、何人か、ここで引き取れねぇか……って」
その話かと、ヴァシリッサは目元をかすかに動かす。動揺したのは悟られているだろうが、……ならばと、開き直った。
「無理かなぁ、……引き取ってもすぐ、死んじゃうようなひとたちの面倒、うちじゃ見れないしぃ」
「……知ってた」
なら聞かないでくれとは、言えなかった。
「本格的に後始末にはいってるんだねぇ……もぉ」
「辞めどきだとさんざん、言われ続けて……辞めるなら辞めるで、こうも引き取り先に困る連中ばっかりだ、……ぜんぜん若くねぇし、腕も中途半端だしよぉ……学も品もねぇ、挙句に手癖も悪ぃ、……クソだな」
ハーヴェイはそう言いながら、ひどく寂しげだった。
「……しばらくはこのあたりにいるんでしょぉ?」
「どこにも行きようがねぇからな」
切り捨てるように告げると、ハーヴェイはだらしなく頬杖をついて、身体を長机に寄りかからせる。
「最近、新しいの入れたんだろ」
「えぇ、……うち、去る者追わず、来る者拒まずって方針だからぁ」
ハーヴェイが呆れたように笑った。
「……ジジイどもじゃだめか」
「……ここを棺桶がわりにされるのはさすがに嫌かなぁ、ごめんねぇー」
他に比べて、ヴァシリッサのギルドは、かなり審査……という建前の、登録料を払えば誰でも所属できるガバガバ組織であるが、……彼の連れ歩いている人々では、ここには適応できないだろうと、なんとなく勘が働いていた。
こんなところ、来るのはだいたいが、理由ありの中年か、夢見がちな無鉄砲の若者である。
前者は身の程を知っているから無理はしないし、後者は厳しさに揉まれて逃げるか辞めるか……たまにここに居着くようになるのだが、……長年、人間相手に武器を取り、そこそこ年齢を経てプライドもある連中を数人でも受け入れれば、諍いの種を抱え込むことになるのは目に見えている。
……ただでさえ、微温湯の居心地のよさに浸っている者ばかりなのに、揉めたらどうなるかわからなくて、厄介だからと、ハーヴェイから打診されたときに断った。
申し訳なさはある、彼らには何度か世話になったこともあるし、だがその度に小競り合いが起きていたことも事実なのだ、……ヴァシリッサはため息をついた。
「お互い、すこし休みたいわねぇ」
「まだまだ無理だな」




