第9話
ギデオン・クェンティンは魔術師である。
素質を認められたのは産まれてすぐのことで、両親は躍起になってその才能を伸ばそうとした。
それこそ金も時間も惜しみなく注ぎ込み、……そのことについて、ギデオン自身は何かを語る気はすでにない。兄も同じく、だ。
ただ、期待された通りには生きていはいないとは思っていて、鬼籍に入った親たちに対してざまあみろという感情が僅かばかりもないわけではないというだけ。……傭兵という職に従事し、世間から与えられる評価に、ギデオンも兄もどこか、しっくりくる感じがあるからそれでいい。
生活をするということ、糧を得るということが、どうにもこうにもすべて辻褄のあう、整って、すみずみまで自分の意思の行き届いた、矛盾のないものであるなどと、……幻想だ。
自分たちの頭分であるハーヴェイはそのことをよくよく理解していて、それがどうにも可愛げのないくせにやけに可愛さがあって、ギデオンはそれでハーヴェイをいたく気に入って、ひっつき回って、人生を浪費していた。
「役に立ちたいなら金勘定でもできるようになれ」
魔術しか学んでこなかった己は凡そ世間知らずで、兄は自分とは違って、わりと何でもできるのが羨ましい。
このところ、ふたりはずっとつまらなそうな顔でつまらなそうな話をしている。
……この生活もそろそろ終わりだろうかと、ギデオンはなんとなく察していた。
やけに童顔というか、外見が老けないのは魔力のせいである、兄と並ぶと兄弟というよりも親子に見える。
でも自分はもう四十に届くいい年齢のおっさんだ。いい加減、惚れた相手の尻を追いかけ回し続けるのも限界なのだろう。
「ハーヴェイさ、いい加減、俺と所帯、持とうよ。お前ひとりくらい家族に入れても養えるよ、兄貴ならさ」
「なんでユリシーズも一緒に暮らす前提なんだよ」
呆れたようにハーヴェイが返す。
「兄貴だってお前のこと好きだからだよ、三人で暮らしたらいいじゃん、俺は冒険者にでもなるし、王都でギルドやったらいいよ」
いつもいつも疲れきった表情をする赤毛だと、ギデオンの方こそ呆れていた。
「そんなになんでもかんでも抱え込むなよ、……ぶっ倒れて、人間とか、魔物やらにやられる前に死んじまうぞ。ここの連中だってお前が集めたくて集めたわけじゃないんだし、赤ん坊じゃないんだ、勝手にどっかで野垂れ死ぬまでなら生きていけるだろ」
「……それができりゃ苦労はねぇよ」
責任感の強さは美徳ではなく欠点だと思う。
ハーヴェイの顔には辛苦はない、傷痕と、わざとらしい髭があるだけだ。瞳はいつだって、目の前の片付けるための厄介事を見ることにしか使われない、……ギデオンのことを見ることは、ない。
「王都についたらしばらく留まる、……そのあいだに、諸々、……決めるつもりでは、いる」
「お前のそれってお人好しとかじゃないだろ、ほんとに、いい加減にした方がいいぞ」
髪が、焚き火の熱の籠った明かりに照らされて秋の木の葉のような穏やかな色に見えた。
「老けたな」
「お前が老けなさすぎるんだよ」
たとえ、神様とのあいだに生まれた英雄とかでも、伝説の剣を授かった勇者とやらでも、そんなやつらなんかはさっさと死んでしまって、そいつらの後始末をするのは、きっといつだってハーヴェイのような人間で、世の中はそれをあまりよくわかっていなくて、……こいつが笑っているところなんか、もう随分、拝めていないと思った。




