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爆発系発明令嬢、アフロで王子に求婚される  作者: あざみへび
一章 アフロで王子に求婚される

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 ダンスタイムの曲の狭間。

 涼やかな笑顔とともに、手を差し伸べてきたアルヴェリオ王子。

 その手の先には、驚き立ちすくんだ私が。


 ザワザワザワザワ……。


「なんであんなヘンテコ頭に?」

「私なんて、まだ王子と踊っていただいてないのに……」

「そもそも彼女は誰なの?」


 周囲が戸惑っているのはわかる。

 だが、一番戸惑っているのは私だ。

 なぜ、私に?


 が、第一王子のお誘いだ。

 黙っているわけにはいかない。


「では、是非」


 疑問に思いつつ、王子の手を取る。

 と、力強く手を引かれた。

 抵抗する余地もなく、ダンスフロアの中央に引っ張り出されてしまう。


 ジャン、ジャジャジャーン!


 そして、楽団が大きく音を響かせた。

 社交ダンスなど、それほど難しいものではない。私とて貴族の端くれ。幼少期に習っている。踊るのは数年ぶりだが、間違えるようなものでもない。


 目の前にはアルヴェリオ王子の顔が。

 まじまじと王子の顔を見る。


 赤みがかったアッシュブラウンの髪に、切れ長の眼。

 女性のようにキメ細かい肌でありながら、男性らしく彫りの深い顔立ち。

 良くできてるな、この顔。彫刻か何かな。

 思わず見惚れてしまった。


 一方で私の方は、金髪アフロを舞踏会場に漂わせていた。

 ワン、ツー、スリー。

 ステップを踏むたび、ふわり、ふわりと金髪アフロが揺れる。


 まずい。

 これは目立つ。

 いや、目立つどころではない。舞踏会場の中央で、第一王子と踊る金髪アフロ令嬢だ。


 背中に無数の視線が刺さっていた。

 令嬢たちの視線。

 貴族たちの視線。

 たぶん物珍しさからであろう、楽団員の視線まで。


 だが、目の前の王子だけは平然としていた。

 私の頭ではなく、私の目を見ている。

 この状況で、それはそれで怖い。


「どうして話しに来てくれなかった?」

「私がアルヴェリオ王子と話してどうするんです? それに王子は女性に囲まれていて、入り込む隙間もありませんでしたよ?」

「確かに……。だが、貴女とは少し話したかったのだ」

「……私と?」


 ステップが一拍遅れた。

 王子の手が、すぐに私を支える。

 細い指なのに、意外なほど力強い。


 だから、病弱という話はどこに?

 壁の花だった私と違って、王子はずっと踊り続けていたというのに。


「そういえば、貴女は私を相手でも全然平静なのだね」

「いえいえ動揺してますとも」

「そうかな? 他のご令嬢たちとは、かなり態度が違う」


 と、王子と手を取り合っている間も、周囲の女性たちから痛いほどの視線が。


「それは彼女たちと違って、私には王太子妃の目なんてありませんから」

「そうかな? 全く目がないわけではないだろう?」

「ええぇ? 王子はこんな頭の妃をお望みで?」

「あっはっはっ、確かに。貴女が今日もその頭で来るとは思ってなかったよ。また爆発したのかい? 爆発の報告はなかったよ?」

「一昨日からまだ直ってないだけですぅ」


 王子の屈託のない笑顔。私は拗ねて見せたりと、端からみれば楽しそうなダンスに見えただろうか。

 それにしても、王子の笑顔が妙に近い。

 困るなあ。周囲の令嬢たちだけじゃなくて、私までいま凄く良い雰囲気と勘違いしそうだ。


 ジャン!


 楽団の音が大きく跳ね、曲が終わった。

 互いに礼をする。

 終わってみれば、あっという間だ。


 と、別れ際だった。

 王子が耳元で囁いた。


「左奥のバルコニーで待っていてほしい。貴女ともう少し話したい」

「は?」


 が、それでアルヴェリオ王子は直ぐに手を離し、去っていった。

 ダンスは私が踊ったので最後の曲だったらしい。

 そのまま王子はいったんパーティー会場から退席してしまった。




◇◇◇◇◇




 指定された奥のバルコニー。

 歓談の時間となってしばらくで、私はさりげなくそのバルコニーに出た。


 いったい王子はどういうつもり?


 疑問は尽きなかったが、とりあえずバルコニーには来た。この左端は、角度的に他のバルコニーからも死角になっている。


 と、そんなバルコニーに、外から手が出てきた。


「ひっ!」


 思わず声が漏れそうになったが、現れたのはアルヴェリオ王子だった。

 なんと王子がバルコニーの下から身軽によじ登ってきたのだ。

 ここ二階ですけど?


「お、王子。びっくりした」

「すまない。驚かせた。でも、こうでもしないと落ち着いて二人で話せないだろう? 私はどうしても目立ってしまうから」


 キチッとした王子様かと思いきや、案外大胆なことをする。


「というより、ほんとに今どうやって上ってきたんですか。掴まるようなところもないですよ?」

「なに、ほんの少し魔力で身体強化しただけさ」

「ええぇ……」


 そんなことはない。

 少なくとも、ほんの少しということはない。

 そこはさすが魔法王国の王子ということか。とんでもない魔力を秘めてるのだろう。


 まあ、それは良い。

 そんなことよりも、だ。


「そんな魔力を使ってまで来て、私とお話したかったこととは何でしょう?」


 思い当たるものがないのだ。

 私と王子の接点は先日のあの短い茶会だけ。そこでの雰囲気は悪くはなかったが、王子が興味を持つような話はなかったように思う。


「そうだな」


 私の問いに、アルヴェリオ王子が言い淀む。


「うむ、話したかったのは本当だが。しかし、何を、と言われると難しいな」


 なんなのさ!?


「すまないな。立場上、話せるものと話せないものがあってな」

「そういう話ですか」


 機密に関わるような話らしい。

 まあ、そうだ。やはり王妃候補という話ではなかったか。ちょっとは期待してたんだけどなあ。ごめんなさい、お父様、お母様。


 となれば、先日の茶会で話したのは私の研究の話くらいしかない。

 狭心症の薬に興味がある?

 まさか、王子が狭心症とか?

 それはないな。こんな二階のバルコニーまで飛び上がってくる健康優良児に、それはない。


 では、なんだろう?

 あれ、全然わからないぞ!?


「少し顔を見せてください」

「顔を?」


 と、王子の手が私の顎に。

 長身の王子に、クイッと顎を上げられる。

 別に私は小さいわけではないが、身長差があった。


 ひょっとして、私の顔が好みだった?

 私も容姿は悪くないつもりだが、貴族令嬢としては平均程度の容姿だろう。

 となると……。


 もしかして、王子はアフロが好き!?


「このアフロ、触ってみます?」

「どうしてそういう話になる?」

「王子はアフロに興味があるのかと?」

「どうして私がその珍妙な髪型に興味を持っていると思ったのだ?」

「違いましたか。でも、触ってみます? 心を落ち着ける効果があります」


 ワシワシと自分のアフロを揉んで見せる。

 と、王子も興味を引かれたのだろう。


 ワシワシワシワシ……。


「私は何をさせられてるんだ?」

「穏やかな気持ちになりませんか?」

「外国から送られてきた希少動物を撫でている時の気分だ」


 その例えは私にはわからないなあ。

 ともあれ先日と違って、今日は会話が弾まない。


「すまない。折角来てくれたのに、上手く話せなくて」

「まったくですよ。もう何日も研究が滞っているのに」


 王族相手でも怒るポーズくらいは許されるだろう。

 王子も悪いと思っているようだし。


「まあ、爆発事故を起こしたのは私の責任なんですけどね。その後始末が進められてなくて、研究を再開できていません」


 そこは本当に困っているのだ。

 実験が良いところに来ていただけに、もどかしさが半端ない。


「実のところ、その爆発した研究室、ここから見えるんですが」

「なに?」

「この離宮も魔法学院も王宮の一部ですから。ほら、あそこの建物の左側のほう。あそこが私の研究室なんですよ」

「ほう」


 バルコニーから庭園を挟んで見えるガルバンディエ魔法学院の古風な建物。

 こうして遠くから見る自分の研究室というのも乙なものだ。


「爆発したというわりには綺麗だな」

「建物に影響するような大爆発じゃないですよ」

「そうなのか」

「書類や実験器具が吹き飛んで、椅子や机がひっくり返る程度の爆発です」

「まあまあの爆発だぞ、それは」


 まあ、確かに、なかなかの大爆発ではありました。魔力のない人であれば大怪我をしかねない程度には大爆発だった。

 ただ、まあ、その後始末がこうして進められていないわけですが……。


 と、そんなことを考えていた時だった。


「オリヴィア嬢の研究室か。少し見せてもらっても良いか?」


 あれ、やっぱり研究に興味がある?


「ええ、アルヴェリオ王子がご興味あるのでしたら、いつでも。といっても研究室なんで面白いものではないですよ?」

「いや、いま」

「いま?」


 疑問に思う私に、王子が一言。


「すまない、少し無礼する」


 と、アルヴェリオ王子が私の身体を抱えた。

 いわゆるお姫様抱っこ。


「お、王子?」

「少し飛びます」

「飛ぶ?」


 と、私を抱えたまま、アルヴェリオ王子がバルコニーの手摺りに足をかけた。

 そのまま大跳躍。


「きゃあ!!!」


 突然の浮遊感。

 私は悲鳴を飲み込んだ。


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