3-8 私の未来の夫、怖い!
コーセッド平原。
グランフェルド王国が誇る精鋭、王鷲騎士団が展開する。それを率いるのはアルヴェリオ王太子だ。
それを平原の端の天幕で見守る集団がいた。レオナール魔法王を始め、多くの文官や武官たち。
さらに――。
「此度は臨時演習にお招き頂き、ありがとうございます」
レオナール陛下の隣には、ノルガルド大使エルヴィーラ姫の姿があった。
「ようこそ、グランフェルドにおいでなさった。姫の美貌は聞き及んでいた。だが、実際に目の当たりにすると、聞きしに勝る」
「恐縮でございます」
にこやかに応対するレオナール王。
しかし、その美しい姫君の隣に視線を移すと、途端に不機嫌を隠さなくなった。
「そして、そちらは別に来なくても良かったのだがな」
「言うではないか。呼ばれなくても押しかけてやるわ」
「本当に来るからな。冗談になっていないぞ」
ノルガルド使節団の副使、老将ベルンハルトである。
間にエルヴィーラ姫が挟まっているが、実質はこの二人の会談が主となる。
臨時演習を行うので、ついでに使節団も観覧、というのは建前。本当の目的は、彼らノルガルド使節団に王鷲騎士団を見せつけることにある。
「グランフェルドの王太子は傑物と聞き及んでいる」
「自慢の息子だ。今日は目に焼き付けておけ」
かつては戦も交えたという二人だが、その後の和平から、他国の紛争では共闘したこともあったという。
何とも言えない雰囲気が、二人の間には漂っていた。
その後、ノルガルド側の外交官や、グランフェルド側の幾人かがレオナール陛下に挨拶する。
そして、今回そんな中に私の父、ユリウス・ベルティエも含まれる。
そして、そのオマケとして私も。
「この度、水運整備局長を拝命しましたベルティエ伯でございます」
「おお、ベルティエ伯か。そなたの安定した手腕には期待しているぞ」
「全身全霊をもって任に当たらせて頂きます」
「うむ。そして、そちらが?」
「ユリウスの娘、オリヴィアでございます」
スカートの裾を摘み挨拶する。
周囲からの視線が集まった。
エルヴィーラ姫が会釈してきたが、陛下の前で返す余裕がない。
目立つよね。立太子のパーティー以来の公式の場だ。
「先日は話そびれた。我が息子からの告白を受けてくれて感謝している。あの時は酷く驚いているように見えたが、あれは知らなかったのか?」
「え、あ、はい。突然のプロポーズで」
「やはりか。息子には段取りというものがあることを、キツく教えておこう」
あー、このままだとアルヴェリオ王子が怒られるっぽいけど、この場で陛下に反論なんてできないし。
でも、私に対する陛下の眼差しは優しい。
「ところで、今日はあの髪型ではないのだな?」
と、両手を頭の上で広げる陛下。
陛下の印象にまでバッチリ残ってしまっていた。
「アフロヘアーのことでございますよね?」
「ああ、アフロというのか」
「いつもあの髪型というわけではなくて、あの時は母のファッションに付き合った結果と申しますか」
「ふむふむ、マルグリット夫人だな。伯よ、今日は奥方は?」
「本日は家に残してきました。殿下の演習は少々刺激が強いですから」
刺激が強い?
なんか怖いことするのかな?
ともあれ、そんな挨拶を終えた陛下が、私のほうをまじまじと覗き込んでいた。
「奥方似かと思っていたが、こうして話してみると伯のほうに似ているか?」
「ははは、困ったことに妻に似ている部分も多くございます」
お父様、陛下の前でも堂々と話せるんだ。
私、お母様に似ているかなあ? もちろん容姿はお母様譲りなんだけど。
「破天荒な嫁が来るかと思っていたが、少し安心した。息子のことを頼むぞ。今日はアルヴェリオの晴舞台だ。ゆるりと観ていってくれ」
それで、私たち父娘は陛下の前から退席した。
あー、緊張した。
やっぱり、あの髪型は破天荒と思われていたのか。
◇◇◇◇◇
「第一小隊前へ! 防御陣形!」
遠く平原にて、カラフルな鎧の人たちが整列したり行進したりを繰り返していた。とりあえず素人目には何をしているのか、さっぱりわからない。
そんな私のような人たちに向け、天幕には騎士団の人がいま何をしているのか説明してくれる。
「いま展開されているのが並列陣です。敵の攻撃を広く受け止める陣形となります。行軍から陣形への展開の速さにご注目ください」
まあ、説明されたところで、さっぱりなわけですが。
ちなみに説明してくれているのはレティシアさんだ。このシュッとした容姿の女性騎士は、広報には打って付けだろう。本人は不満そうだったが。
「見ごたえのある魔法は演習の後半に予定されています。もう少々部隊の展開をご覧ください」
うーん、これがまだ続くのか。
私は文官たちとその家族がいる席で、のほほんと観覧していた。
盛大に欠伸をしたいくらいだが、そんなわけにもいかない。何しろ半公式ながら王子の婚約者だ。こんな時ですら周囲からの注目を浴びてしまう。
東宮侍女長ベアトリスさんに鍛えられた正しい姿勢と、キリっとした顔を維持する。
と、しばらく耐えていると、騎士団の様子が変わった。
なんか観覧席の天幕から離れたところに行ってしまった。
もう終わり?
「ここからがハイライトです。まず、第一騎団による騎乗詠唱です」
ずとどど、と騎馬隊が走りながら周囲に雷のような光をまき散らしていた。
「つづいて、重装衛団による一斉詠唱です」
こちらは重そうな盾を持った歩兵から、氷の矢のようなものが無数に放たれていた。
地面が凍りつき、心なしか観覧席にまでひんやりとした空気が伝わってくる。
「最後、アルヴェリオ殿下の魔法です。強風が吹きますので、皆さん前傾姿勢をお取りください!」
強風?
よくわからないが、周囲の人たちやお父様はわかっているらしい。さっと前屈みになっていた。
よくわからないまま真似をする。
すると、平原で爆音が響いた。
真っ赤に燃え上がる灼熱。
遅れて爆風が天幕を襲った。
「うわっ!」
「きゃ!」
熱気を帯びた風。
いままで騎士団が集団で放っていた魔法とは、根本的に異なる威力。
平原には焼けただれた大地が広がっていた。
王子の魔法は凄いとは聞いていたけど、これほどとは……。
「もう、一発来ます!」
もう、一発!?
再びの爆音。
今度は天幕の近くだ。
再び沸き起こる声と、少しの悲鳴。
天幕の前の大地が山火事のようになっていた。
「最後、大きいの、来ます!」
まだあるの!?
ズドーン!!
最後は遠くだった。
だが、最後が一番酷い。いや、凄い。
遠くの大地に火球のような光の玉が地面に着弾。そこから、光と熱が上方に立ち上ってゆく。いわゆるキノコ雲というやつだ。
こんなもの初めて見た。
さらに遅れて、大きな音、地響き、熱風と伝わってくる。
そんな強大な魔法に、観覧席からは驚き、そして畏怖の念が広がる。
怖い!
私の未来の夫、怖い!
私、大丈夫なのかな!?




