3-4 初対面
セント・ルディアの北門。
そこに王太子アルヴェリオを始めとした、王都の主要な高官が、ずらりと整列していた。ノルガルド王国からの使節団を出迎えるためである。
文官は礼服に身を包み、武官は礼装で着飾っている。
そんな、お出迎えの列の中に私もいた。
しかも、最前列のほぼ中央。
「あの、王子。私がここにいるの、変じゃないですか? まだ婚約といっても正式なものではないわけですし……」
「それは、そうなんですが。でも、ここに居ていただかないといけない理由もわかりますよね?」
「ええ、まあ……」
現状、私の肩書はベルティエ伯令嬢でしかなく、父ユリウス・ベルティエ伯もまだ王領水運整備局長に内定しているが、これもまだ未就任。
にも関わらず、私のポジションは王太子の隣となっていた。
実のところ私だけではない。
アルヴェリオ王子の左右には、私と、そしてセレスティーナ嬢が控えていた。
――アルヴェリオ王子には、女性は間に合っています。
というアピールであることは、言うまでもない。
と、そんなお出迎えの列が眺める先。
北から馬車の一団がやってきた。
カディスくんに率いられた王鷲騎士団に護衛されたその一行が、セント・ルディアの正門前で停まる。
そして、馬車から降りてきた人物を見て、私は息を飲んだ。
白い肌、白いドレス、そして白銀の髪。
まるで、お人形さんだ。
いや、お人形さんとも違う。工芸品のように整った造形美。
その容姿に我を忘れた。
ざわり……。
周囲からも声にならない声が漏れる。
ふと見れば、隣のアルヴェリオ王子ですら見惚れてしまっていた。だが、これは責められないだろう。エルヴィーラ姫の美貌はそれほどのものだった。
と、我に返った。
そうだ。
王子にはしっかりしてもらわないと。
コツン、と肘で王子の脇腹を突く。
驚いた王子が私のほうを向き、視線を交わす。
戸惑いも一瞬。王子は笑顔を返してくれた。
「ようこそ、セント・ルディアへ。長旅でお疲れでしょう」
「大勢での出迎え、恐縮です」
「グランフェルド王太子アルヴェリオと申します」
「此度のノルガルド使節団で大使を仰せつかりましたエルヴィーラと申します」
互いに名乗り合った。
美男と美女だ。
アルヴェリオ王子は長身だが、エルヴィーラ姫も女性としては長身。その二人が並び立つと、実に納まりが良かった。
納まりが良すぎて近寄り難いほどだ。
「アルヴェリオ殿下は無事に王太子に立たれたとのこと。お喜びを申し上げると共に、祝賀行事に遅れてしまったことをお詫びいたします」
「ありがとうございます。それと、遅れについては海が荒れていたとのこと。自然には逆らえません。お気になさらず」
エルヴィーラ姫が敢えて触れなかった話題。
ノルガルド側が婚姻を諦めなかった理由が良くわかる。彼女の美貌はそれほどのものだった。
もし、この場で王子がエルヴィーラに求婚したとして、この場に居合わせた人たちは納得するだろう。何より私が納得してしまう。
並び立つ二人の王子と姫に、私は圧倒された。
そして、二人から少し離れた場所で、私は立ち尽くすしかなかった。
だが――。
「あと、立太子と共に私は一つ、大きな発表をしております。聞き及んでいるかもしれませんが……」
アルヴェリオ王子はエルヴィーラ姫のもとから、私のほうに戻ってきた。
そして、痛いほどに私の肩を抱き、姫のほうを振り返る。
「私はこのオリヴィア嬢と婚約をしました」
「い、痛いって、王子……」
王子も少し緊張していたのかも知れない。
必要以上に手に力が入っていた。
「まあ……!」
と、そのお人形さんのような白いお姫様が、目を輝かせた。
楚々と私のほうに歩み寄り、手を取られた。
「貴女がオリヴィア姫でいらっしゃいますか?」
「姫?」
結婚すると王族の一員となり姫ということになるのだが、少なくとも現状の私は姫ではない。
ごほん、とアルヴェリオ王子が咳払いした。
「オリヴィア嬢との婚約はまだ正式ではないので、姫という呼び名はまだ少し早いですね」
「そうなんですね」
屈託のないエルヴィーラ姫。
が、その裏でセレスティーナ嬢の視線が王子に刺さる。それで王子も直ぐに気づいた。婚約が正式なものではないとの言質を取られてしまった。
だが、エルヴィーラ姫の態度は変わらない。
「この度はご婚約おめでとうございます。同じ女性として羨ましく思いますわ」
「あ、ありがとうございます」
青い瞳が真っすぐに私を見つめていた。
きっとこの人は、良い人だ。
私はそう思った。
◇◇◇◇◇
ノルガルド王国からの使節団は、王都で大きな話題となった。
「天女のように美しいお姫様だったんだって」
「使節団は一カ月ほどは滞在するとか。その間に一度はそんな美しい姫君を見てみたいものだ」
「本当に見たほうが良いぞ。あれは本物の天使だ」
そんな噂が実しやかにセント・ルディアに広がっていった。
それと同時に余計な噂も広がる。
「ベルティエ伯令嬢が奇天烈な髪型を止めたらしい」
「うん、それはどうでも良いかな」
いや、変に騒がれるよりは良いんだけどさ。
ともあれ、ノルガルド王国からの使節団はしばらくセント・ルディアに滞在することになった。
公的にはアルヴェリオ王子の立太子の行事に遅れて参加し損なった使節団ということになる。ここから非公式の行事にいくつか参加し、外交儀礼を尽くしたところで帰国するだろう。
普通に考えれば、そうなる。
だが、世間はそうは考えなかった。
「あれほどの美貌の姫君を、ただで帰すなんてことがあると思うか?」
そんな噂が巷で広がっていった。




