3-1 アフロ、直る
朝、起きてすぐ違和感に気づいた。
首筋に髪の感触。
鏡を見ればアフロが直っていた。
「久しぶりの感覚!」
多少ウェーブがかった癖っ毛の金髪。
手櫛が髪を通る感触が懐かしい。
そして、カレンダーを見る。
爆発事故から17日目のことだった。
17!?
3の倍数ですらない。しかも素数!?
いや、待てよ。日単位じゃなくて、時間単位で考えると? ……全然わからんなあ。
「お嬢様、その頭、どうしたんですか!?」
「いや、直っただけだけど」
そして、侍女のノーラに驚かれてしまった。
かなり長いことアフロだったからな。
そのまま朝食に向かう。
「オリヴィア、どうしたの!?」
「頭が!」
お母様とお父様にも驚かれた。
いやいや、こっちの髪が初期値ですからね!
さらに、まだ幼い弟と妹まで目を丸くしていた。
どんだけ私のアフロは定着してたんだ?
それはともかく、朝食の食堂に集まった我が家族。
当然のようにお母様は白いアフロであった。
「貴女はいま流行の最先端、アフロの象徴的存在なんですよ! 貴女がアフロを止めてどうするのです!」
知らんがな。
まあ、お母様が流行の最先端で浮かれていることは知っている。
あの爆発頭で体裁を整えてくれた手前、梯子を外すのも気が引ける。
「でも、いつまでもあの頭でいる訳にはいかないでしょう? 今日も東宮サロンがありますし」
「レスター子爵夫人のサロンでも、皆さん、大きなパーティーで貴女とお揃いの髪型になるのを楽しみにしているのですよ?」
「えっ、皆さんって。いっぱい居るの?」
レスター子爵夫人のサロンはどんな事になっているのやら。
「まあ、普段は楽な髪型でも良いですけど、公式の場ではアフロになりなさい」
「ええぇ……」
普通は逆じゃないかなぁ?
これが失敗を押し通した代償か。
◇◇◇◇◇
この日は午前中は学院にて研究を。
午後は東宮へと赴いた。
と、入り口で衛兵に留められてしまった。
「失礼ですが、家名とお名前をお伺いして宜しいでしょうか?」
「ベルティエ伯爵家のオリヴィアです」
「えっ!?」
もはやアフロで識別されていたらしい。
衛兵の方々に凄く謝られてしまった。
先が思いやられる。
そして、東宮サロン。
ザワザワザワザワ……。
逆に何も言われなかった。
東宮サロンでの私の定位置は、最奥にいるアルヴェリオ殿下の隣となっている。
まだ、殿下はいらっしゃっていないので、一人ちょこんと座っていた。それを遠巻きに、皆さん怪訝な様子で窺ってくる。
しばらくで人が集まり出すと、私の周囲にも人が増える。
「えっ!?」
「あ、えーっと、こんにちは……」
「お疲れ様で……、オリヴィア様!?」
と、リシュールくんやレティシアさんを始めとした幾人かの反応だ。
そして、最後にいつもの如く洗練されたドレス姿のセレスティーナさんが現れた。
彼女は私の顔を見ると、怪訝な表情で固まった。
「あの奇天烈な髪型はお辞めになったので?」
なんともストレートな発言。
「元に戻っただけです。こっちの髪型のほうが普段の髪型なんですよ」
「それなら良かったわ。いつまでも珍妙な髪型でウロウロされると、視線が散って困っていましたもの」
うわー、キツイなあ。
でも、今後は顰蹙を買わずに済むようになったと、前向きに行こう。
そして、最後の最後にアルヴェリオ王子が現れる。
王子の反応はわかりやすかった。
「オリヴィア嬢!」
私の顔を見るなり駆け寄ってきた。
「髪が戻ったのですね」
「はい」
私の目の前に立ち、まじまじと見つめてきた。
その表情は心なしか優しい。
あれ、王子はこっちの髪型のほうが好みなのか。そっか、もともと王子は私のことを知っていたんだものな。
王子は決して稀代のアフロ好きではなかった。私としても、そのほうが良い。
「イチャつくなら二人の時にしてくださいません?」
と、二人で見つめ合っていたら、セレスティーナさんから注意された。
「いや、すまんすまん。オリヴィア嬢の普通の髪は久しぶりだったものだから」
「殿下はオリヴィア嬢のその髪型をご存知でしたので?」
「もちろんだよ」
周囲は意外そうな反応。
ともあれ、イチャつくのは終わり。
王子は私の横の定位置に。
「それじゃ、始めようか」
東宮サロンが始まった。
◇◇◇◇◇
サロンが始まり、真っ先に報告してきたのはレティシアさんだった。
騎士服姿の颯爽とした女性である。
「ノルガルド王国からの使節団は、メッシーナに滞在しています。それで、カディスを対応に残し、私のほうが一先ず報告に戻ってきました」
そう言えば、あの大きな身体のカディスくんがいない。
彼も若いのに仕事してるんだねえ。
「それから、ノルガルド王国の使節団が遅れてきた原因がおおよそ判明しました」
「どんな理由だった?」
「使節団の大使となっている方が、王族の方でした。それも、年頃の姫君です」
と、レティシアさん。
何だか含みのある視線を私のほうに向けてきた。
「とてもお美しい姫君でした」




