2-1 薔薇の花束
祝賀会パーティーの翌日。
私は朝の微睡みの中、ベッドでごろごろしていた。
昨日は衝撃的だった。
アルヴェリオ王子に求婚された。
これ以上の衝撃があるだろうか?
そもそも王子は私のどこに惚れたのか?
以前会ったことがあるようだが、いつ、どこで?
言えないと言っているのだから、理由はあるのだろう。だけど、どこで会ったか言えないなんてある? ちょっと想像できない。
でも、まあ、悪くはないのだ。
いや、悪くないどころか極上だ。
何しろこの国で一番身分の高い王太子様だ。
顔だって綺麗なものだ。エラい整った顔の王子様だ。
性格も真摯で、ちょっと若い感じもあるけど、実際に若いわけだし。年下だし。
しっかし、このまま行くと、私は王太子妃になるのか?
ゆくゆくは王妃?
本当か?
それで良いのか、グランフェルド?
そんな徒然を考えていた時だった。
「お嬢様、大変です!!」
バタバタと侍女が寝室に躍り込んで来た。
もう、これ何度目?
最近多くない?
「どうしたの、ノーラ。そんなに慌てて」
「大変なんです! すぐに起きてください!」
長年私の世話をしてくれている侍女ノーラが、カーテンを開け、部屋を明るくする。さらにはベッドも捲り上げる勢いだ。
どうした、どうした?
昨日の衝撃を受けた私は、ちょっとやそっとのことでは驚かないぞ。
「先程、先触れがありました! アルヴェリオ王子がご挨拶にいらっしゃるそうです」
「王子が!?」
一気に目が覚めた。
◇◇◇◇◇
「オリヴィア嬢、おはよう」
そこには、巨大な薔薇の花束を持ったアルヴェリオ王子が立っていた。
不思議なもので、たったそれだけのことで、いつもの我が家のエントランスが華やいで見えた。
「おはようございます。来てくれて嬉しいです」
「私もオリヴィア嬢に会えて嬉しい」
そんな花束に負けず、私も立派なアフロで出迎えた。魔力がたっぷり含まれた私のアフロには寝癖など付かないのだ。
そんな私の頭を見て、王子がなんだか微妙な顔をしたようにも見えたが、結局髪型に触れられることもなく、巨大な花束を渡される。
薔薇の香りに包まれた。
あっ。
これ、ダマスクローズだ。
香水用の薔薇で本来は花束向きじゃない。洒落たことしてくるな。
そして、そんな花束に負けず綺麗な顔をしたアルヴェリオ王子に見つめられる。
「婚約者への挨拶と思ってね」
「婚約者……」
婚約者かあ。
私は本当にこの人の婚約者になったのか。将来この人と結婚して、そして夫婦になるのか?
想像をするとなんだか照れるな。
と、王子を見ると、彼のほうも何だか顔を赤らめていた。
王子も照れるのか。
そして、周囲から視線を感じた。
王子は一人で来たわけではない。護衛やら何やら、大勢の取り巻きを引き連れてやってきたのだ。王族ともなると、気軽に一人では動けないのだろう。
ベルティエ家のほうもお父様とお母様、それに使用人が総出で出迎えている。
そんな大勢の人たちに、私と王子は見つめられていた。
「ちょっと待ってくれ。皆、そんなにまじまじと見るものじゃない。照れるじゃないか」
アルヴェリオ王子が周囲に向かって手を振る。
そうだそうだ。
私たちは見せ物じゃないぞ。
と、王子の取り巻きの一人。年配の男性が歩み出る。
「そう照れなさいますな。我ら侍従一同、婚約者と一緒に嬉しそうにされている王子に、嬉しく思っておりますとも」
白髪の侍従代表みたいな男性が一歩進み出て、正面から応える。
王子も照れるやら何やら。
やるな、王子の付き人。
「それで、今日は王子は何をしに来られたのですか?」
「昨日のことは少し唐突だったかもしれないと思ってね。改めて挨拶を」
そして、王子は私の両親のほうに向き直った。
「ベルティエ伯。改めて、オリヴィア嬢との婚約をお許しいただきたい。必ずや彼女を幸せにすると誓います」
「殿下に選ばれるなど光栄に思います。どうぞ娘のことをよろしくお願い致します」
「不束かな娘ですが、どうぞ良しなに」
「いずれ父からも呼び出しがあるかと思います。その際はご足労をお願いします。正式な婚約の手続きはその後になると思います」
「承知しました」
そうか、婚約ともなると家同士の話にもなるのか。
その後も、アルヴェリオ王子とお父様で細々した話をしていたが、かなり大事だ。
ごめん、お父様。
いや、喜んでくれているみたいだけど。
それよりお母様、朝っぱらから孔雀みたいな格好だぞ。よくそこまで着飾れたな。
一通りお父様との相談を終えると、アルヴェリオ王子は再び私のもとに。
「ところで、明日ですが」
「明日?」
「予定は空いていますか?」
明日は普通に学院に行って、研究を再開するつもりだった。だが、別に空けられないことはない。
「とくに予定らしい予定はありませんが……」
「それでしたら、明日、遠乗りでもいかがですか?」
「遠乗り?」
遠乗りとは、馬で郊外に出かけることだ。
王都にはコマージュの丘という定番の遠乗りスポットがある。
「オリヴィア嬢を惚れさせるという約束もありますからね」
つまり、デートのお誘いだ。
二十五年生きていてデートなんて初めての体験だ。いきなりのことに私も緊張するやら何やら。
「は、はい。ぜひ……」
あんまり気の利いた返しはできなかった。
そんな私の様子に、我が家の侍女たちがニマニマしていた。
見えてるからなあ。
「では、明日、改めて伺います」
そうして王子は朝から嵐のようにやってきて、嵐のように去っていった。




