97.自己評価
オスカーがガシガシと頭を掻いて、セオルを指さす。
「そいつがご丁寧に牽制して回るから、リアの自己評価が変になるんだよ」
『牽制?』
「そう。リアに近づいたら厄介な奴に絡まれるから気をつけろって――常識だぜ?」
『どんな常識?!』
「そりゃ、遠目から眺めてるだけで鬼の形相で睨まれるらしいし、近づこうものなら骨が折れるんじゃないかってくらい強い力で掴まれるみたいだし?むしろ、お前が今まで気づいてなかったことの方が驚きなんだけど」
そんなことを言われても、私の隣に立つセオルはどちらかというと無表情で、誰かを睨んだり、暴力をふるったりするようには見えなかった。
そもそも、私に近づこうとする人の存在すら感じたことがないのに。
「ま、相当うまいこと猫かぶってたってことだな。俺も何度か忠告されたことあるし。だからそいつが参加してる夜会では、お前にはほとんど絡んでなかったろ」
『そ、そういえば……?』
あいさつ回りがたまってるとか、あっちに知り合いがいた、とか言ってすぐに姿を消していた気がする。
『で、でも』
「でもも何もないから。お前、自分が思ってる数倍は美人だぞ」
『いやいや』
「俺と並んで見劣りしないやつはめったにいない。胸を張って自信を持て」
『えぇ~~……?見劣りしまくってるでしょ』
「してない」
「ありえない」
「それはないだろうね」
『~~~みんなして何を』
まだ反論しようとする私を止めるようにオスカーが「とにかく」と言い放った。
「話が進まねーからそこは一旦置いとくとして、お前狙いのやつって線で犯人を絞っていってもいいんじゃねーか?セオル相手じゃ勝ち目ないから、正攻法は諦めてこんな手段を選んだんだろ。卑怯な奴」
「じゃあ、リアちゃん狙いの令息から絞っていくか。そこに該当者がでなければ、使用人や行商人なんかも当たるしかないな」
「リリーを邪な目で見ていたやつは大体覚えてる。あとでリストにしておくから」
「うちの家内にも聞いてみましょう。心当たりがあるかもしれません」
どんどん話が進んでいってしまう。
目が曇りきってるセオルや親バカ発動してるお父様はともかく、オスカーやおじさまたちまで何を言っているのやら。
しかし、いくら止めても聞いてはくれないのだろう。
仕方なく諦めて、もう一度手鏡を覗き込む。
やっぱりとびきり美人でも、とびきり可愛くもない、並の顔。
ちらりとセオルを見る。
並び立つには器量が足りない、どうしても見劣りする。
昔からそう自覚しているし、実際セオル狙いの令嬢たちにそう陰口を叩かれていることも知っている。
それでもこの身体になるまでは、一度だって婚約者の座を明け渡そうなんて考えたことはなかった。
釣り合わなくても、劣等感に苛まれても、毎日見続けるならこの顔がいいってくらいにはセオルが好みだから。
「どしたの、リリー」
『……別に』
視線に気づいたらしいセオルが、私を見て首を傾げる。
私は適当に誤魔化しながら、過去に私をこき下ろしていた令嬢たちを思い出す。
セオルに焦がれるような視線を向けていた、何人もの令嬢たち。
彼女たちは、セオルがどんな顔で、声で、私に話しかけるのか知らない。
この人が向けてくる、重い執着を知らない。
そう思うと、仄暗い優越感が湧き上がってくる。
私、性格悪いな。
そう思いながら、今晩にでもセオル狙いの令嬢たちをリストアップしておこうと心に決めたのだった。




