95.詰問
「あとひとつ不思議なことがあって……リリーの身体に関してなんだけど」
『私の身体?』
「うん。まったく劣化してないんだよね」
『劣化って……』
普通、健康な人間が寝たきりになると筋肉量が低下する。
ほかにも関節が固まって動かしづらくなったり、変形が起こることもある。
『でも床ずれだってあったし』
「それもすごく軽かったでしょ」
『そういえば』
「正直、もっとひどい状態なのかと思ってたから、想像よりはるかに軽くて違和感があった」
もっと状態がひどければ、治癒魔法を使っても痕が残っていたかもしれないそうだ。
身体に傷が……そう思うだけで、血の気が引く。
わずかに震える手をセオルが握ってくれた。
「本来寝たきりの状態から目覚めたら、満足に身体を動かすことはできない。少しずつリハビリをしながら、日常生活に戻っていく必要がある。でも多分……リリーの呪いが今解けたとしたら、以前と同じように身体を動かせるはずだよ」
『リハビリの必要がないってこと?』
「うん。リリーの身体を詳しく調べてみたら、筋肉量は貴族女性の平均値だった。体重なんかも変化なし。それで」
『待って』
「うん?どこかわからないところあった?」
『ううん。話はわかりやすかったから大丈夫』
「そう、よかった。じゃあどうしたの?」
セオルがそう言って、ちょこんと首を傾げる。
私は握られたままだった手をそっと離し、セオルの顔の方へ向かって腕を伸ばした。
そしてそのまま勢いよく、その胸倉をつかんで引き寄せる。
『体重ってなぁに?』
「え?」
『体重。勝手に調べたの?変化なし、の根拠は?』
「え?えっと……リリーのおうちの主治医から健康診断の記録を見せてもらって」
『そう。勝手に?許可もなく?』
「え?え?ひ、必要だったの?」
『逆に聞くけど、どうして必要ないと思ったの?』
にっこりと圧をかけながら笑いかけると、セオルはひゅっと息を吸って「ご、ゴメンナサイ」と細い声で呟いた。
「で、でも俺、リリーのことなら何でも知りたいし、ちゃんと記録に残しとかないと報告もできないし」
『……報告?』
セオルの言葉に、顔だけをゆっくりフィリーおじさまに向ける。
おじさまがさっと顔を逸らしたのが答えだろう。
『じゃ、歯を食いしばってね』
「へ?」
『ひとつ大事なことを教えておくね』
「う、うん」
『レディにとって体重って言うのはね、トップシークレットなの』
「でもリリーは軽いし、内緒にしなくても」
『軽いとか重いとか、そういう話じゃないの』
「ひっ!」
私は今笑いかけているはずなのに、どうしてそんなに怖がるのだろう。
青を通り越して顔が白くなってきたセオルを庇うように、フィリーおじさまが割って入る。
「ま、待ってリアちゃん。セオルも君を心配して」
『おじさまは黙っててください。おばさまに言いつけますよ』
「ひぃぃっ、そ、それは勘弁して」
おじさまはすごすごと引き下がっていった。
多分オスカーが面白半分で告げ口するんだろうけど。
『次から許可なく体重測ったりしないって約束できる?』
下から睨みつけるようにして問いかけると、目をそらされた。
約束するつもりはないらしい。
『あと余罪があるなら今のうちに白状しろ』
「えぇ、よ、余罪……」
『隠したらしばらく口聞かないから。オスカーのとこでお世話になる』
「お、うちは大歓迎~~。読書会しよーぜ」
「それはだめ!ちゃんと言う!」
『ってことは、余罪があるってことか』
「うぅ……ちょっと……ちょーっと、あの、身体のサイズを測り……ました……」
『サイズ?どこの?』
「こ、腰回りとか……あと胸元とか」
ゴッッッッッ!!!
渾身の力でお腹に拳を繰り出す。
令嬢の力では心もとないので、こっそりと身体強化をしたのはご愛嬌。
ぐぇっ!と情けない声を出して、セオルがその場に蹲る。
私は悶絶するセオルの前にしゃがみこんで『約束』と呟いた。
「や、約束?」
『許可なく体重もサイズも測りません』
「え」
『や、く、そ、く』
「わ、わかった ごめんなさい」
『じゃあ、体重に関する記憶は抹消しといてね』
そう言うと、セオルはコクコクと頷いた。
視界の端で、おじさまも高速で首を縦に振っているのがみえた。




