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93.ペンダント

「よかったですね、子爵」

「ええ、本当に……ありがとうございます。――はっ」

「どうしました?」

「家に魔鏡を置けば……いつでもリアを……?」

「いや、それはおすすめできません」


 お父様のひらめきを、おじさまが即座に叩き切る。

 お父様は顔を引きつらせて「なぜです?」と返した。


「幽霊騒ぎになりかねません」


 あぁ、シンプルかつ納得の答え。

 確かに寝たきりになっているはずの娘が鏡に映っていたら、相当怖がらせてしまうだろう。

 だからといって、屋敷のみなに事情を話すわけにもいかない。


 その代わりにと、魔法省で魔鏡を使う分には好きにしてくれていいとおじさまが言ってくれた。

 近いうちにお母様を連れてきてはどうか、とも。

 スマートな気遣いが、とてもありがたい。


「そういえば」


 そう言って、おじさまが自分の机の引き出しを開く。


「うちにも聖女の姿絵があったので、持ってきたのですが」

「うちにあるものとは違う絵ですね」

「リアちゃん。ちょっと見てもらえるかな?」


 おじさまに手招きされて、手元の姿絵を覗き込む。

 そこに描かれていたのは、桃色の髪の可愛らしい女性だった。

 やっぱり、夢で見たラナとは別人だ。


「それともう一枚。これは、先々代の聖女様だそうだよ」


 もう一枚の姿絵にも、桃色の髪の女性が描かれていた。

 しかし先に見た一枚目やうちに保管されていた姿絵とは顔立ちが異なる。


「どうかな」

『……夢に出てきた人とは、違う顔です』

「そうか」

『あのっ、聖女様って皆様桃色の髪をされているのですか?先代も先々代も、同じ色です』

「どうだろうね。書物なんかで明言されているのは見たことがないけれど……聖女の情報の多くは王家と神殿によって秘匿されているから、定かではないんだ。ただ可能性としては、ありうるかもしれない」


 聖女に関する情報を隠すのは、新しい聖女が生まれたときによからぬことを考える輩が出ないようにする意味合いが大きいらしい。

 そこから推察する限り、聖女の容姿に何らかの特徴がある可能性が否定できないだろう。


「うちにあったのも、その女の絵だった」


 私の後ろからセオルが言う。

 指さした先には、先代聖女の姿絵がある。


「こら、セオル。さすがにその言い方は」

「でも代わりに、クレイオスの遺品に気になるものがあった」

「え、無視?」


 小言を華麗にスルーされて、おじさまがため息をつく。

 いつものことなのだろうか、それ以上は追及することなく「気になるものって?」と問いかける。


「ロケットペンダント。中に入ってた肖像画が、その女じゃなかった」

「だから言い方……はぁ、まあいい。どんな人物だった?」

「女の人」

「ざっくりしすぎだろ。もう少し細かく」

「……えっと」

「セオル?」


 特徴のない顔をしている人なのだろうか?

 それにしても、年齢とか顔立ちとか、多少なりとも説明のしようはあるはずだが、セオルは困ったように言葉を濁すばかりだ。

 それを見て、オスカーが何かひらめいたように「あ!」と叫んだ。

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