92.魔鏡
「ど、どういうこと?」
『オスカーの瞳に、私の姿がうつってたの。それがお父様にも視えたんだと思う』
「え?子爵、息子の瞳の中にリアちゃんが?」
「映ってました!リア……リア……!」
お父様の瞳から雫がこぼれるのを見て、胸がきゅっと締め付けられる。
小さな瞳越しでも、顔を見せてあげられてよかった。
「リアちゃん、今までもオスカーの瞳に君はうつってた?」
『いえ、映っていませんでした。昨日セオルの瞳に自分の姿が映っていたことを思い出して』
「なるほど、それも変化のひとつか……。ちなみにほかの人の瞳には?」
『多分、私のことが視える人の瞳には映るんだと思います』
裏を返せば、私が視えない相手の瞳には映らない。
お父様の瞳を覗き込みながら、そう実感する。
「視える条件……魔力量……」
「あ!」
「どうした、ヒンス」
「ちょっと待っててください!」
そう言ってヒンスさんが、奥の部屋へ飛び込んでいった。
しばらくガサゴソと物音がしていたが、音がやんだかと思えばヒンスさんが戻ってきた。
「これ、どうですかね」
「あ、いいかもしれないっスね」
『……これは?』
ヒンスさんの手には、箱が一つ。
蓋を開けると、中に入っていたのは――
『鏡……?』
小さな手鏡が一つ入っていた。
金で縁取りされた鏡には細かな装飾が施されていて、中央にはダイヤが埋め込まれている。
「これは魔鏡っス」
『魔鏡?』
「魔道具の鏡だよ。これ、どうしたの?」
『押収品です。魔道具の密輸を摘発したときの』
「ああ、この前の」
魔道具はその希少性から、輸出入が厳しく制限されている。
秘密裏に魔道具を仕入れる者の摘発は、騎士団と魔法省が共同で行うのだそうだ。
「騎士には魔法知識があまりないやつも多いからね。そもそも魔道具かそうでないか見極めるのも難しいし」
『これにはどんな魔法が?』
「反射の魔法っス。自分への攻撃を倍にして跳ね返してくれるんスよ」
ただ跳ね返すだけでなく、威力を倍増させることから、危険物として魔法省で保管されることになったそうだ。
そんなものをこんなに気軽に出してきていいものなのか疑問だけど。
「これなら瞳の代わりになるんじゃないかと思って」
「なるほど。試す価値はあるな。リアちゃん、手に取ってごらん」
「待って。ゆっくりね、リリー。反発とか違和感を感じたら、すぐに手を放すんだよ」
おじさまとセオルに頷いてみせてから、私は手鏡に手を伸ばした。
指先でちょん、と触れてみたが、何も感じない。
そっと持ち手を握って、顔の前に持ってくる。
『あ』
「映った!」
「リア!」
鏡の中には、しっかりと私の姿が映っていた。
「ついでにこっちも試してみようか」
そう言って、おじさまが別の鏡を私に向ける。
魔法のかかっていない、普通の鏡だ。
そこには私の姿は映っていなかったが、鏡に映る手鏡の中には、私が映っていた。
改めて、手鏡の中の自分を見つめる。
こうして鏡越しに自分を見るのは、本当に久しぶりだ。
精神体になって眠っている自分を見ることがあるけど、目を開けている自分の顔を見るのは、寝たきりになって以来初めて。
こんな顔だったな、という懐かしさを感じ……え?髪型可愛すぎない??
感傷に浸ろうとしたけれど、オスカー渾身の力作に目を引かれてしまう。
細かい編み込みがくるくると巻き付けられて、まるで花が咲いているみたい。
ところどころ髪で作られたリボンまでついている。
「どう?」
『さすがオスカー……天才』
「いや、髪型の話じゃねえんだけど」
『あ』
「ま、そう褒められたら悪い気はしないけど。……久々に見る自分の顔がどうよ?」
『なんか懐かしい……けど、髪の可愛さで全部吹っ飛んだ』
「ははっ、まじか。さすが俺!」




