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90.検証

「えっと、いつから……?」

『昨日?いや、今日?……とにかく夜からです』

「身体の方に変化は?」

「大まかに調べましたが、異常はありませんでした」


 セオルが答えると、おじさまは「そうか」と顎に手を当てた。

 そしてハッとしたように「子爵には?」と訊ねた。


「朝報告しようとしたのですが、子爵はすでに家を出ていて。夫人にだけ報告してきました」

「つまり、まだってことだよね?」

「これからやるってことです」

「それをまだだって言うんだ!おい、誰か至急子爵呼んできてくれ!」


 おじさまの指示で、扉の近くにいた人がお父様を呼びに行ってくれた。

 そしてお父様はすぐに飛んできた。

 なんでも大事な会議があったらしいが、娘より優先することはないと断言され、嬉しいやら照れくさいやら……いや、とにかくうれしい。


「そ、それで娘に何か?また意識が??」


 セオルにつかみかかりそうな勢いのお父様をおじさまが宥めて、事情を説明する。

 お父様は驚いた顔をしていたが、最後まで黙って話を聞いていた。


「つまり、娘に触れられるかもしれないということですか?じゃあ、さっそく」

「いや、待ってください」


 周囲をきょろきょろ見渡して言うお父様を、おじさまが制する。


「安全性の確認が取れるまでは、堪えていただきたい」

「しかしっ」

「まずはうちの部下で試します。爵位を持つ者として、自身を危険に晒す行動は控えるべきだ」


 低い声でおじさまが言う。

 有無を言わせない圧に、お父様はぐっと拳を握りこんだ。


「……失礼。冷静さを欠いておりました」


 お父様が謝罪し、おじさまは軽く頷いて見せた。


「セオルと愚息はアメリア嬢に触れることができました。魔力量との関連があるかもしれないので、魔力の多い者から順に試そうかと思っています。よろしいですか?」

「はい。お願いします」

「リアちゃんも構わないね?」

『は、はいっ』

「それじゃあ、爵位がなく、魔力が高い者……」

「俺っスかね?」

「そうだな。ラント、頼む」

「うっす。それではレディ、お手を失礼いたします」


 そう言って、ラントさんが手を差し出す。

 恐る恐る手を伸ばしてみると、ラントさんの手に触れる寸前で、セオルによって遮られてしまった。


「セオルさん?どうしたんスか?」


 顔を若干引き攣らせて、ラントさんが訊ねる。


「その手、綺麗?」

「は?いや、綺麗っスけど。汚れてないし」

「洗ってきて」

「へ?今っスか?このタイミングで?」

「このタイミングだからこそでしょ。汚い手でリリーに触れるな。本当は指先すら触れないでほしいのに」

「え?え?ひどくないっスか?俺バイキン扱い?!」

「まあまあ、まあまあ」


 当然の抗議をするラントさんを口先だけで宥めながら、オスカーがその背を押す。


「ちょ、え?オスカーくんも俺のこと汚いと思ってるんスか?ひどくねぇ?」

「思ってないですって。ただまあ、これじゃ話が進まないんで」

「おい。隅々までピカピカにしてこいよ」

「こっわ!――わかった、わかったっスから、そんな目で俺を見ないでっ」


 そう言い残して、ラントさんが部屋を飛び出していった。

 なんていうか、すごくいたたまれない。

 私は別に潔癖症とかじゃないし、多少汚れていても気にしないのに。


 でもそれより気になるのは――


『なんか普段より口調が荒い……?』


 セオルは普段、柔らかい言葉を使うことが多い印象だ。

 でも最後のはなんていうか、輩?みたいな。

 あんなドスの効いた話し方をするなんて、ちょっと意外だ。


「あ~~……っと、リリーに関わることだから、ちょっと過敏になっちゃった。怖かった?ごめんね」


 ちょっと無理があるような気がするが、叱られた子どもみたいな顔で見あげられたら、それ以上追及できなかった。

 そこかしこで魔法省の職員たちが「嘘だろ」とか「あっちが素じゃん」とか「別人級にかわい子ぶってやがる」とか言う声が聞こえてきたのは、多少気になったけど。

 あと前にもちょこちょこ口調が荒くなる場面を見たような気もするけど、忘れたことにしとこう。


「洗ってきたっス!!」


 勢いよく戻ってきたラントさんに手を差し出され、次はきちんとその手に触れた。

 感触はある。


 その後、手洗いを終えた職員たちに順に触れていったが、結果は変わらなかった。 

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