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85.魔力量

「とりあえずいろいろ調べたいとこだけど」

『けど?』

「まだ夜中だからね」


 セオルの言葉に、窓の外を見る。

 今は何時なのだろうか、外は真っ暗だ。


『ご、ごめん。眠いよね』

「俺?俺はへーき。リリーのためなら睡眠なんて不要だけど」

『不要なわけないでしょ』

「えぇ?もったいないからやだよ」


 眉を寄せてセオルが言う。

 もったいないって、何が?


「いつまでリリーに触れてられるかわかんないじゃん」

『いや』


 それはそうかもしれないけど、だからと言って寝ないで身体を壊しては元も子もない。

 セオルは頬をぽりぽりと掻きながら「それになぁ」とぼやく。


『それに何?』

「いや、子爵との約束が」

『お父様と?』


 何の約束をしたのかという意味で訊ねたが、セオルはひとり考え込んだあと「まぁいっか」と呑気な声をあげた。

 

「緊急事態だしね」

『……意味わかんないんだけど』

「いや、子爵がさ、さすがに夜中に娘の部屋に入るのはよせっていうからさ、俺、今まで遠慮してたの」

『へ?』

『俺が手を出すかもって心配してるのかな?信用ないよねー。ま、出したいのは山々だけど」

『な、な、な……っ』

「じゃ、リリーの部屋に行こっか」


 そう言って微笑むセオルに、反射で『だめでしょ』と突っ込む。

 しかしセオルは首を傾げて「だめじゃないよ」なんて言う。


「肉体の方にも影響が出てるかもしれない。すぐに確かめなきゃ」

『いや、明日でも』

「一刻を争う状態だったらどうすんの?子爵に遠慮して取り返しのつかないことになるなんて、俺、絶対やだよ」

『ううっ』


 そんな風に言われてしまえば、反論のしようがない。

 せめて誰かに声をかけようかとも思ったけど、みんな寝静まってる時間だ。

 屋敷の警備のために宿直の騎士がいるけど、そこに声をかけるのも違うだろう。


 仕方なく、セオルについて自室へ移動する。

 さりげなく手を引かれているのが気になったけど、セオルの手があったかくて心地よかったので、振りほどくことはしなかった。


 セオルは私の枕元に腰かけると、スクロールを手に取った。

 検査のためにと、フィリーおじさまが魔法省から持たせてくれたもののうちのひとつだ。


 何を調べるのかよくわからないまま、セオルの手元のスクロールを覗き込む。

 セオルは生身の私の手にスクロールを握らせた。

 淡い光を発しながら広がっていくスクロールは、何度見ても面白い。

 浮かび上がった数式は相変わらず意味不明だけど、セオルはそれを目で追いながら何かぶつぶつと呟いている。


「……あれ?」


 しばらくして、セオルが困惑の声を上げた。


『どーしたの?』

「いや、外部魔力の干渉が見当たらなくて」

『そうなの?それって変なの?』

「ん~~……あ、でも」

『でも?』

「魔力が増えてる」

『魔力が?』


 人間の魔力量は生まれつき決まっていて、基本的に増えることはない。

 特殊な訓練を行ったり、病などで体質に変化が起こったりした場合、増減することはあるらしいけど、それでも増やせるのは1割程度が限界だという。


「以前の10倍くらい……いや、もっとかな」

『は?!10倍??なんで?』

「なんでだろ……《《混ざった》》から?でも、そうだとしても説明がつかないな」


 仮に本当に私とラナの魔力が混ざったとしたら、スクロール上にラナの魔力が検出されるはずだとセオルは言う。

 そもそも前提として、魔力は他人と共有できるものでなく、誰かに譲渡することはもちろん、混ぜ合わせることなどできないはずだ。

 奇跡的に魔力を混ぜることができたとしても、魔力の質は大きく変化し、それまでとは似て非なるものになるだろう。


「でもさ、増えた魔力はリリーが持っていた魔力とまったく同じ性質なんだよね。本当に、ただ増えているだけ。どーいうことかわかる?」

『わかんない』

「だよね。……ひとまず、肉体の方には異常はなさそう。魔力量以外は、前に調べたときと何も変わってないし。髪色の変化もないね」

『ん』

「詳しくは夜が明けてから調べよう。魔法省に参考になる資料があるかもしれないし」

『わかった』


 自分の身に何が起こっているのかわからないのは気持ち悪いけど、そんなの今さらだ。

 不安がないと言えば嘘になるが、ただどうしようもなく横たわって日々をやり過ごすことしかできなかった日々と比べれば、ずいぶん気が楽だった。

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