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77.空虚と涙

 白い。

 一面真っ白な空間に、私は立っていた。

 周囲には何もない、ただただ空虚な空間が広がっている。


『どこ、ここ……』


 さっきまで伯爵家の書庫にいたはずなのに、どうして私はこんなところにいるのだろう?

 途方もない広い空間に、ひとりぼっち。

 背筋がぞっとする感じがして、私は思わず飛びあがった。

 高いところからなら、何か見えるかもしれない。


 しかし予想に反して、視界には何も映らない。

 怖くなって、行くべき方向もわからずがむしゃらに身体を走らせた。

 誰か、誰か、誰か。

 優しい目で私を見つめるセオルの顔が浮かんで、涙があふれた。


 涙をぬぐいながら、ただただ飛び続けた。

 変わらない景色の中、本当に前に進んでいるのかもわからないまま。


 そのとき、鼓膜が小さな物音をとらえた。


『……っ!』


 音のした方へ視線を向けると、遠くに小さな何かがあるのがわかった。

 方向転換して近づくと、白い服を着た黒髪の女の人が蹲っていた。

 その傍らで、5歳くらいの男の子が女の人の頭を撫でながら「ごめんね、ごめんね」と謝っている。


『ど、どうしたんですか?』


 思わず問いかけると、男の子が目を大きく見開いた。

 女の人は顔を上げず、ただ涙に暮れている。


「君は……どうしてここにいるの?」

『え?私、にも……わからなくて』

「迷い込んだのかな?こっちへおいで」

『え?え?』


 手招きされるまま近づくと、男の子が頭を撫でてくれた。

 小さな手のひらが温かくて、心地いい。


「あれ?君……」


 男の子が、私の髪をつまんでじっと見つめたかと思えば、女の人の頭に視線を向ける。

 不思議に思って私も女の人に目を向けると、黒髪の根元の方に、私と同じ菫色が隠れていることに気付いた。


『同じ色』


 思わず呟くと、女の人が勢いよく顔を上げた。

 零れ落ちそうなほど大きく見開かれた目は泣き腫らして真っ赤になっていて、顔もぐちゃぐちゃだったけど、それでも整った顔立ちをしていることはよくわかった。

 女の人の長く細い指先が、私に向かって伸ばされる。

 不思議と恐ろしくはなかった。


「ラナ、ダメだよ」


 男の子が女の人の手を掴んで言った。

 ラナ?ラナ……どこかで聞いたような……?


「この子の人生は、この子のものだから。君が奪ってはいけないものだよ」

「……っ、どうして」

「ごめんね……。ごめん」


 ラナの表情が絶望に染まる。

 男の子はラナを労わるように抱きしめて、あやすように囁く。


「ほら、帰り道はあっちだよ」


 男の子が指さした方向に、先ほどまでなかったはずの窓ができていた。


 このままいってしまってもいいのだろうか?

 そう動揺しながら、私は踵を返して窓へ向かって飛び出した。

 そうして窓をくぐる瞬間、確かにラナが言った。


「大事なものを絶対に間違えないで」


 私はとっさに振り向いたけれど、窓が閉じられてしまって、どんな顔をしていたのかわからなかった。

 窓の外は眩い光にあふれていて、私はその光に包まれるように意識を手放した。

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