68.僅差
「アメリア嬢……ううん、アメリアちゃんって呼んでいいかしら?」
『へ?え、あ、ご自由に』
「アメリアちゃんっっっ!私、ずっと娘が欲しかったの!」
『え?え?』
「セオルってば、ただでさえ可愛げのない子だったからもう、可愛い子に飢えていて」
『飢えて……』
「欲しいものは何でも買ってあげますからね」
『いや、その、お構いなく』
「謙虚っ!すっごく謙虚でいい子!!!」
えぇ?この暴走具合、すっごく既視感がある。
系統はちょっと違うけど、遺伝なのだろうか……セオルに似ている。
どうにかしてほしいと、セオルに視線で助けを求める。
あ、でもだめだ。
実の息子のくせにドン引きしてる。
なにそれ、知られざる一面見ちゃって後悔してます、みたいな顔は。
こっちだって、憧れの貴婦人の見ちゃいけないものを見ちゃった感覚なんだけど。
「――取り乱してしまってごめんなさい」
『ええ、本当に……あ』
冷静になってくれたらしいお義母さまに、思わず本音がこぼれた。
精神体って建前を維持するのが難しいから、ほんっとに困る。
『いや、その、本当にありがたいっていうか』
「あらあら、そんな気を使わなくていいんですよ。ごらんなさい。うちの子のあんなりゲンナリした顔、初めて見ました」
「わかってるならそのくらいにしてくださいよ」
「仕方がないでしょう。あなたアメリアちゃんのこと、全然うちに連れてきてくれないんですから。パーティーくらいでしか愛娘に会えないなんて、どういう拷問かしら」
『愛娘……?』
失言を責められなかったのはありがたいが、息子の婚約者から愛娘って、昇格が早すぎはしないだろうか。
困惑する私を尻目に、つらつらとお義母さまは語り続ける。
「なんだかもう最近は、針を一刺しするたびにアメリアちゃんのことを考えていたものだから、母性があふれてしまって………。怖がらせてしまってごめんなさいね。ついでに口調も砕けてしまって」
『い、いえ』
「でも、あなたの力になりたいというのは素直な気持ちですからね」
まっすぐに私を見据えて、お義母さまが言う。
「魔石も存分に使ってくれて構わなかったのだけれど」
『そ、それはさすがに、あんな高価な品を』
「あら、命よりも価値のあるものなんてあるものですか」
ね、とお義母さまが微笑む。
あぁ、だめだ。
うるりと視界が歪んだその瞬間、応接室の扉が勢いよく開かれた。
「ただいま!!!遅くなって申し訳ない!」
急いできてくれたらしく、軽く息の上がった伯爵が叫ぶ。
お義母さまは先ほどまでの優しいそうな表情から一変、眉を顰めて苦言を呈する。
「あなた。ノックもなしに失礼ですよ」
「すまんすまん。ん?セオル、アメリア嬢は遅れてくるのか?てっきりいっしょに来るものだとばかり」
「は?」
「あら」
『あぁ……』
「ん?ん?なに?」
きょろきょろと伯爵が室内を見渡す。
お義母さまは呆れたように肩をすくめ、セオルはを表情一つ変えずに言い放った。
「いえ。いい参考になりました」
「は?なに、セオル、どういう意味……まさかーー」
ようやくすべてを察したらしい伯爵は、わなわなと震えながら膝をつく。
そしてがっくりと項垂れながら、悲しみの咆哮を上げる。
「なんでっ、どうしてっ――俺には見えないんだっ!!!」
絶望する伯爵を尻目に、セオルが「母上と父上の魔力って」とお義母さまに問いかける。
お義母さまも伯爵をスルーしながら「私のほうがわずかに上ですね」と答えた。




