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65.魔石

※今回からまたアメリア視点に戻ります。



 両親にすべてを打ち明けてから、私の生活は一変した。

 お父様もお母様も、朝にはおはよう、夜にはおやすみの挨拶をしてくれる。

 おでこや頬に口づけをされるのは、幼い子どもに戻ったようで少しくすぐったい気持ちになるけれど、どうしたって嬉しかった。

 両親の突然の変わり身にマリアは困惑していたけれど、今はその変化を素直に喜んでくれている。


 私から遠ざけられていたイレーヌも頻繁に遊びにきてくれるようになり、懸命に話をしてくれるのが愛おしい。

 イレーヌにはまだ詳しい話はしていないけれど、お母様から「お姉様は眠っているけれど、お話は聞こえているかもしれない」と伝えてくれたそうだ。

 屋敷の庭園で作ったらしい花冠を嬉しそうに掲げた姿は、控えめに言って天使そのものだった。


 そしてもう一つ変わったこと。

 それは、2日に1回のペースで魔法省へ赴くようになったこと。

 セオルの出勤についていく形なのだけど、それを聞いたお父様は自分の馬車に乗っていけばいいと言っていた。

 でもお父様は私のことが視えないし、話もできないからとセオルに一蹴されてしまった。


『わぁあ、きれーい』


 魔法省のセオルのデスクの上に置かれた、虹色に光る石を見て、感嘆の声が漏れた。

 魔法省には、今まで見たことのない素材や道具がそこら中に転がっていて、すごくおもしろい。


「アメリアには負けるけどね」


 横から何か言っている。

 通常運転のセオルを無視して、隣にいたラントに『これ、何なんですか?』と訊ねる。


「これは魔石っスね」

『魔石?でも、今まで見たことがあるのは』

「火の魔石なら赤、水の魔石は青――みたいに、単色だけっスか?」

『はい』

「一般的にはそうなんスけど、まれに複数の属性が混じった魔石が出ることがあるんですよ。大体2属性なんスけど、これは超珍しくって、火・水・風・土・光・闇の6つの属性が混ざりあってるんです」

『じゃあ――』

「ええ。めちゃくちゃ高価な品っスね。こんな雑に置いてていい品じゃないんスけど」


 そう言ってラントが、セオルをチラリとみた。

 しかしセオルは気にした様子もなく、なぜか私のことをガン見している。

 そんなに見られたら穴が開く。


『で?この魔石は何に使うんですか?』

「えっと……何に使うんスか?」


 私に問いかけられたラントが、セオルに訊ねる。


「これはうちの家宝なんだけどね」

「え?」

『は?』

「リリーのためならって、父上も母上も迷いなく差し出してくれたよ」

『待って待って、怖いんだけど』

「俺も怖いっス」

「怖くないよ。ただこれを粉砕して、魔道具に作り替えるだけ」


 何でもないことのようにセオルが言う。

 え、粉砕?

 粉々にするってこと?家宝を???


『待っっっっって!!!!』

「ぅわっ、声でかっ」

『家宝はね』

「うん」

『大事にしなきゃダメ』

「うーん……リリーの方が大事だから仕方なくない?」

『ちなみにどんな魔道具にするの?』

「治療薬」

『治療薬……?』

「うん。治療薬ってどうやって作るか知ってる?」

『確か薬草を使うんだよね?』

「そう。薬草の種類や質によって、効果や効能が変わってくる。でも、そこに魔石の粉末を加えると属性に応じた効果を付与することができるんだ」


 属性による効能は多岐にわたるが、魔法攻撃による外傷の治癒に高い効果を発揮するという。

 火の魔石なら凍傷、水の魔石なら火傷や毒、などという風に。


『でもそれなら、それぞれの属性の魔石を用意すればよくない?わざわざ家宝を使うまでもないじゃない』

「さすがリリー、賢いね。でも、複合属性の魔石が特別なのには理由があるんだよ」

『理由……』

「あ、それはっスね」

「ランス。今、俺がリリーに話をしてるんだけど」

「す、すんません」


 せっかく説明してくれようとしたのに、なんて失礼な。

 そう思いつつも、痛いくらいの独占欲は嫌じゃなかった。


『で、理由って?』

「うん。複合している属性の数に比例して、効果が高くなるんだ。2種類なら5倍、3種類なら25倍って感じでね」

『え、じゃあ6種類にもなると?』

「1.5兆倍くらい?さすがにそんだけの効果があれば、リリーも回復するんじゃないかと思って」

『……はぁ?』


 まさに途方もない数値すぎて、あんぐりと口を開ける。

 つまり、とんでもないレベルのお宝ってことじゃないの?


『絶対嫌』

「え?いや?って?」

『そんなもの私に使ったら許さないから』

「えぇ?な、なんで?だってリリーは俺の婚約者だし、次期伯爵夫人でしょ?使ったって何の問題も」

『……そんな高いものを使ったら』

「使ったら?」

『ストレスで胃に穴が開く』

「えぇ~~……?」


 理解できない、みたいな顔をしているけど、理解できないのはこっちの方だから。

 何より今のところ私は生きているし、動けないけど健康らしいし、一刻を争うような状況でもない。


「胃に穴が開いても、すぐに治してあげるよ?」

『そういう問題じゃない』

「ん~~?」

『それに』

「それに?」


 そして懸念点も一つ。


『もし治療薬で動けるようになったとしても、また呪いをかけられたら意味がないじゃない』


 まだ呪いの原因は判明していない。

 一時的に呪いを解いたところで、根本的な解決には至らないはずだ。


「何本か治療薬は作れるよ」

『それが尽きたら?』

「新しいのを……用意するのは、さすがに無理か」

『じゃあそれは早く家の金庫に戻してきなさい』

「今?」

『……終業後』

「じゃあ、いっしょに行こ」

『へ?』

「母上がさ、新しい枕カバーが完成したから見せたいって」


 頬をかきながら、セオルが上目遣いで私を見る。

 少し照れ臭そうな子どもっぽい仕草にぐっと来て、私はこくりと頷いた。

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