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64.夢のような奇跡

 久しぶりに過ごす二人の時間は、夢のようだった。

 精神体のアメリアは本能のままに行動してしまうみたいで、一つ一つの仕草が幼気で愛らしい。

 普段のおすまししてるアメリアも魅力的だけど、思ったことをポンポン口に出して、足を揺らしている姿を見ていると、頬がゆるゆるになりそうだった。


 いろいろ大事な話をしているのはわかっている。

 わかっているけど、俺の頭の中はひたすら「可愛い」「愛しい」「大好き」でいっぱいだった。


「もしかして、俺を吹き飛ばしたのも君?」


 アメリアが普段使えないような魔法を使えるようになったと知り、念のため訊ねてみた。

 アメリアは叱られると思ったのか、慌てて言い訳をしていたが、悪いと思う必要はない。

 むしろ、とっさのことでアメリアの魔法をじっくり堪能できなかったことの方が問題だ。

 今度もう一度吹き飛ばしてもらってもいいかもしれない。


 あぁ、でも――侵入者などいなかった、その事実に安堵する。

 それと同時に、ほんの少しだけ結界を張りながら警備の薄さをネチネチ責め立てたことに罪悪感を抱いた。

 でもまぁ、アメリアの安全は何をおいても最優先されることだし、警備が手薄だったことも事実だ。

 子爵には反省もかねて、しばらく気を張り詰めていてもらってもいいだろう。


 あぁ、それにしても、アメリアを見ているといけない気分になってくる。

 上がる口角を手で覆って隠しながら、恍惚とする。


 彼女が頼れるのは俺だけ。

 彼女を見て、会話して、愛を伝えられるのは俺ただ一人。

 その事実に、仄暗い喜びが全身から溢れてくる。


 このままでいいなんて思ってはいけないとわかっているのに、この状況がなんとも理想的で、恋しい。

 生身の彼女に反応を返してもらえないのは、確かに寂しい。

 あの柔らかな肌に指を滑らせても、秘めたる場所に舌を這わせても身じろぎ一つされないのは虚しい。


 でも――でも、ほんの少しだけ、このまま致すのもありかもしれないなんて思ってしまう自分がいる。

 生身の彼女の奥の奥に触れたとき、精神体の彼女はどんな可愛い反応をしてくれるんだろう。

 恥ずかしがってやめろと叫ぶかもしれない。

 しかし、だからと言って身体にも戻れず涙目になるアメリア……いい、よすぎる。

 まさに両手に花ってやつなんじゃないか?


 いけない妄想に耽りながらも、悟られないように帰宅を促す。

 本当はこのまま連れ帰りたい。

 でも、アメリアの肉体と精神の繋がりが消えたらと思うと、そういうわけにはいかない。


『じゃあね』

「うん」

『……ばいばい』

「うん」

『……さよなら』

「うん」


 うん?

 言葉を変えて何度も別れの挨拶を繰り返すアメリアに、ふつふつと歓喜が湧いてくる。

 離れがたいと、もっとそばにいたいと、そう思ってくれているのだろうか?


「心配しなくても、ちゃんと会いに行くよ。だいじょーぶ」


 そう微笑みかけると、アメリアは否定しながらも小さく『待ってる』と呟いた。

 ちょっっと可愛いが過ぎないか?

 尊さで俺を殺しに来てるとしか思えない。


 馬車の窓から飛び出して、小さく手を振るアメリアに「おやすみ」を告げる。

 振り返らずに飛び去っていくアメリアの後ろ姿が見えなくなるまで、俺は視線を逸らさずにずっと見つめていた。


 ああ、愛しのアメリア。

 何も心配はいらない。

 俺のすべてをもって、君の力になるから。

 だからどうかしばらくは、この夢のような奇跡を堪能することを許してほしい。

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