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63.ふたりきり

『視えてます?』


 ――‐上目遣いっっ!

 やばい、可愛い。

 恥ずかしいのか瞳が少し潤んでいるのがなんかもう、なんかもう、とにかく可愛い!


 突然の可愛いの過剰供給に語彙力を失ったとはいえ、アメリアを無視するわけにはいかないので、ひとまず頷く。

 自分で聞いといて、返事が返ったことに驚いてる顔も可愛い。


 心の中で悶絶していると、アメリアがハッとしたように自分の身体に近づいて何やら観察している。

 何をしてるんだろう、可愛い。

 ちょこちょこ動いているのがすっごい可愛い。


 誘われるようにアメリアに近づいて、その顔を覗き込むと、泣き出しそうな顔をしていた。

 その顔も可愛いけど……胸がぎゅっと締め付けられる。

 悲しい顔はさせたくない。


 俺はアメリアの首筋に手を伸ばした。

 子爵が何か言っていたけど、反対の手をかざして黙らせる。

 きっとアメリアが心配しているのは、これだと思うから。


『ど、どう?生きてる?死んでないよね?ね?』


 震える声で何度も問いかけるアメリアを安心させるため「脈拍は安定している」と囁く。

 アメリアはほっとした顔をしたあと、何かを考え込んで、眠っているもう一人のアメリアの上に覆いかぶさった。

 そしてそのまま、ふたりのアメリアが重なると、アメリアはひとりに戻っていた。


「ちょ、ちょっと、アメリア?アメリア??」


 名前を呼んで肩を軽く揺すった。

 アメリアの瞳はすっかり閉じられていて、規則的な寝息だけが聞こえる。

 眠っただけ?

 でも、さっきのは一体――


「ちょ、おやめください!」


 子爵に制されて、アメリアの肩から手を放す。

 

「急にどうされたのですか?」

「いえ、ちょっと」

「ちょっとって……」


 子爵が困ったように眉を下げる。


 さっきのアメリアの姿は、多分俺にしか視えていない。

 ならば子爵たちに話をしても無駄だろう。

 人は自分の視たものしか信じられない。

 きっと悪ふざけととらえられるか、あるいは気が狂ったと思われるだけだ。


 今すべきことは、別にある。


「屋敷に結界を張ります。自由に動き回る許可をください」

「結界……いや、そこまでしていただくわけには」

「何かあってからでは遅いので。許可、もらえますね?」

「……わかりました。お願いします」


 別に、これはお前らのためじゃないけど。

 正直俺は、アメリアさえ無事なら、こいつらがどうなろうと構わない。

 でも優しいアメリアは、家族に何かあったら悲しむから、屋敷全体を守ってやらなくてはならない。


 あぁ、面倒くさい。

 この部屋だけを保護できれば、本当はそれだけでいいのに。





 屋敷全体に張り巡らせるように結界を張り終えたのは、夜も更けたころだった。

 さすがに魔力も尽きてきて、疲労困憊。

 一刻も早くベッドに入って眠ってしまいたいほど疲れている。


 このまましばらく屋敷にとどまっていたら、また動くアメリアが見られるんじゃないか。

 そんな希望は儚く消え去り、気分はずいぶん沈んでいた。


 長ったらしくお礼の言葉を並べ立てる子爵夫妻に、適当な相槌を打つ。

 夫妻の隣では、イレーヌが眠たげに目を擦っていた。

 眠たいならとっとと部屋に戻ってくれて構わないけど、そう口にしてやる義理もないので、見ないふりをする。


「それでは――」


 話が途切れたタイミングで切り出したときだった。

 ふと視界の上の方で、何かが揺れた。


 何だろう。

 瞬きして見上げると、そこにはくるくると空中を飛び回る少女の姿があった。


「え、妖精……?」


 思わずこぼすと、子爵たちは不思議そうに首を傾げたが、そんなのどうでもいい。

 さっきまでの疲れが一気に吹き飛んだ。

 心なしか、魔力も回復したような気がする。


 あぁ、すっごい怪訝そうな顔してる。

 ぷくっと膨れたほっぺたが、食べちゃいたいくらい可愛い。


 今すぐ名前を呼んで捕まえに行きたいけど、触れられない彼女を拘束することはできないだろう。

 可能ならば、このまま家まで連れて帰るのに――すこぶる残念。


 振り返る間際「おいで」と口だけ動かした。

 伝わるだろうか?

 来てくれるだろうか?

 不安に思いつつも、余裕のある大人の男ぶって振り返らず馬車へ向かう。


 やばい。

 ついてきてる、めっちゃ可愛い。


 馬車に乗り込む前、子爵夫妻に挨拶をすると、その後ろにアメリアの姿があった。

 どうやらいっしょに来てくれるらしい彼女に、手を差し出す。

 しかしアメリアは手を取ることはなく、ふわりと馬車に乗り込んだ。

 つれないところもたまらない。


「やっと2人になれたね」


 自分でも驚くほど、甘い声が出た。

 普段抑え込んできた愛がとめどなく溢れてきて、自分じゃもう制御できない。

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