108.敬愛
「しかし神に誓って、それはあなたを傷つける目的のものではありません。現にそのメイド……ロザリーはあなたの無事を真摯に願っております」
『なぜそう言い切れるのですか?』
「レイドは義兄ですので。その妻となる方のこともよく存じておりますよ」
『義兄?……ということは、あなたがレイドの妹さんの……って、え?!妻???』
「ええ、少々お待ちを」
そう言って、神官長が少女に目配せをする。
少女は部屋の扉を少しだけ開き「到着されています」と言った。
「それでは入ってもらいましょう」
神官長の言葉に少女が頷き、扉を開ける。
そこには、レイドとロザリーが並んで立っていた。
部屋の中に伯爵家一同がいることに気づき、二人は慌てて頭を下げる。
「さぁ、皆様にご挨拶をお願いします」
神官長に促され、ふたりが震える声で言う。
「れ、レイドと申します」
「ロザリーでございます」
騎士のレイドは若干顔を青ざめさせてはいるものの、背筋を伸ばしてしっかりと顔を上げた。
その隣で、ロザリーは小さな身体を小刻みに震わせている。
「ティール子爵家の者だな」
お義父さまが問いかける。
「はい」
「も、申し訳ございませんっ」
肯定したレイドに続いて、ロザリーが口にしたのは謝罪の言葉だった。
お義父さまは目を細めて「申し訳ないことをしたと?」と訊ねる。
「いえ、これはその」
「……も、申し訳っ」
否定しようとしたレイドの言葉を遮るように、真っ青な顔のロザリーが繰り返す。
ぼろぼろと涙を流す彼女を、レイドが庇うように背に隠した。
「ロザリー、悪いことをしていないのにそう謝るものではありませんよ。悪人だと思われてしまう」
幼い子どもに言い含めるように、神官長が言う。
「で、ですが」
「あなたの仕えるお嬢様は、そのようなことであなたを責めるほど狭量だと?」
「そんなことはありません!お嬢様はとてもお優しくてっ、敬愛すべき方です!……だから、だからこそ申し訳なくて……このような、お嬢様の大変なときに、私、私は」
はらはらと涙を流すロザリーの姿に、思わず腕を伸ばしていた。
生暖かな雫を拭って、その柔らかな頬を撫でる。
はっとしたときには、ロザリーは目をまんまるに見開いていた。
しまった、と手を引いてセオルを見ると、呆れた様子で頭を抱えていた。
窘めるような視線を向けつつも、その口角は少しだけ上がっていて、怒っているわけではなさそうだ。
「お嬢様……?」
ポツリとロザリーが呟く。
それにレイドが「こら」と小さく声を荒らげる。
「お嬢様はお屋敷で療養中だろう。なにを」
「で、でも……お嬢様の手が……」
「おい、縁起でもないことを言うな。――申し訳ありません、彼女に悪気はないのです」
そう言って、レイドがロザリーを抱え込むように腕の中に囲う。
その腕の中で、ロザリーは私の触れた頬に手を当てた。
「間違いない……。あれは、絶対にお嬢様の手だった。ふっ……うぅ、わ、私が……失敗ばかりして、泣いてたら、お、お嬢様が慰めてくださって……それで、そのわた、わたしっ」
ぼんやりとした物言いに次第に嗚咽が混じり、言葉を詰まらせながらロザリーが必死に言葉を紡ぐ。




