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105/110

105.大聖堂

 神殿の正門に、迎えの神官が待っていた。

 恭しく挨拶をした彼には、どうやら私の姿は視えていないらしい。

 すぐに神殿長室へと案内される。


 国で一番大きな神殿なこともあり、中はずいぶんと広い。

 洗礼式のときにも広い場所だと思ったけれど、大きくなった今でも同じ感想を抱くとは思わなかった。


 神殿長室の扉の前には、少年がふたり立っていた。

 彼らは神殿長の側仕えらしく、孤児院から召し上げられているそうだ。

 まだ10にも満たない子どもが?と思ったが、運が良ければこのまま神官として出世コースに進むこともできるらしい。

 また将来市井へ出ることも禁じられてはおらず、神殿に残る子は半分程度だという。


 招き入れられた部屋の中には、温和な顔をした壮年の男性がいた。

 彼が神殿長らしく、お義父さまに歓迎と感謝の言葉を述べ、握手を交わす。

 神殿長の隣には、扉の前にいた子どもたちよりも少しばかり大人びた少女の姿があった。


 目が合うと微笑まれたので、どうやら彼女には私が視えているらしい。

 ちなみに、神殿長にはおそらく視えていない。

 だって、まったく目が合わないし。


 とりあえずお茶でも、という神殿長の申し出をお義父さまが断る。

 出されたカップの数で、私の存在を怪しまれないようにするためだ。

 寄付金の額が書かれた小切手を渡してから、連れ立って大聖堂へ向かう。

 神に祈りを捧げてから孤児院へ慰問に向かうのが、通常の流れらしい。


 大聖堂。

 洗礼式では、5歳になった子どもたちが一堂に会し、祝福を賜る。

 一種の通過儀礼だ。

 子どもの健康と成長を願うための行事で、何か特別な力を授かるというわけではない。

 ただ洗礼式は貴族の義務の一つで、洗礼式を迎えると正式に貴族の一員として認められることになる。


 そういえば、あの日は虹がかかっていたっけ。

 直前に雨が降っていたわけでもないのに、不思議に思ったことがふいに蘇ってきた。


『……何?』


 気づくと、じっとセオルが私を見つめていた。

 何かを懐かしむような、何かに焦がれるような、よくわからない目つきで。


「ううん。ちょっと昔のことを思い出してただけ」

『洗礼式のこと?』

「うん。俺の運命が決まった、特別な日だから」


 洗礼式が?

 何か特別なことがあったのだろうか?

 気になったけれど、あまり長々話をしていては怪しまれるので口を結ぶ。


 膝をついて、祭壇へ首を垂れる。

 久しぶりだから少し不安だったけれど、身体がおぼえていたのか、自然に身体が動いた。


 どうか神様、この状況を解決できるよう御力をください。


 神頼みでどうにかなるものでないことは理解している。

 それでも、厳粛なこの空間の中で、神に祈らずにはいられなかった。


「……は?」


 間の抜けた声を上げたのは、誰だったのだろう。

 下げていた頭を上げる。


『へ……?』


 次に聞こえた情けない声は、間違いなく私の口からこぼれていた。

 しかしそんなことを気に留める余裕もないまま、私は目を見開いた。

 祭壇から眩い光の雨が降り注いでいる。

 それはまぎれもなく、私だけを包み込んでいた。

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