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103/109

103.神殿へ

 翌朝、伯爵家の馬車がやってきた。

 我が家の馬車より一回り大きく、豪奢な馬車だ。

 馬車に乗り込むと、お義母さまがほっとした顔で迎えてくれた。


「アメリアちゃんっ、元気になってよかったわ」

『このたびはご迷惑を』

「迷惑だなんて。言ったでしょう。あなたを本当の娘のように思っているって。娘の願いを聞かない母がいますか」


 そう言って、お義母さまが私の手を握る。

 そしてほうっと息をつき「本当に触れるのね」と頬を綻ばせた。

 その隣でそわそわしていたお義父さまが「どれどれ」と手を伸ばしてくる。


 バシッッッ!!


 しかしその手は無情にも、セオルの手によってはたき落とされてしまった。

 お義父さまは涙目で手をさすり「なんでぇ?!」と嘆く。


「いきなり手に触れようとするなんて、無礼にもほどがありますよ」

「あ、それはそっか。アメリアちゃん、手に触れてもいいだろうか?」

『はい、もちろん』

「ダメ」

「『へ?』」


 だめなんて言ってないけど?

 戸惑いの声が漏れたのは、お義父さまも同じだったようだ。


「え?アメリアちゃん嫌だって?おじさんの手に触れられるの、抵抗あるのかな」

『そんなことないです!ちょっと、セオル、何を』

「リリーが良くても俺が嫌。俺以外の男がリリーに触れるなんて許しがたい」

『は?意味わかんない』

「邪な心なんて一切ないけど!?心狭すぎない??」


 お義父さまが訴えるものの、セオルは冷たい眼差しを向けるだけだった。

 無言で圧をかけるのが、余計に怖い。


「そ、そんな目で見るな。わかった。わかったから。諦めるから」

「よし」

「よしって……。お前には、親を敬おうって精神はないのか?」

「今更この子にそんなもの求めたって無駄ですよ」

「威厳のある父親になりたい……」


 がっくりと肩を落とすお義父さまが不憫だけど、お義母さまも笑っているし、通常運転なのだろう。

 苦笑しながら、お義父さまの手を握る。

 セオルが抗議の声を上げたが『しーっ』と囁くと、なぜかうめき声を上げて黙ってくれた。


『お義父さまにありがとうございますって伝えて?』

「~~もう、ほんっとリリーは!……ありがとうございますだって」

「あ、アメリアちゃん~~」


 握り返してくれる手が力強い。

 視えない私からの接触を嫌がることもなく受け入れてくれる。

 それがたまらなく嬉しかった。


「あ。レイドも家を出たようだよ」


 セオルが言う。

 レイドには、昨夜のうちにセオルが追尾魔法を施していた。

 神殿内部では魔法を感知される可能性があるから、使えるのは神殿入り口までだろう。


「移動は馬か?」

「いえ、乗合馬車を使うようです」

「ならば到着はこちらよりいくらか遅くなりそうだな。神殿に不自然に長居しては怪しまれるかもしれない。少し時間をつぶしていこう」

「なら、あの湖畔に寄るのはいかがでしょう?景色も良いし、休憩によろしいのでは?」

「そうだな。そうするか」


 そう言って、お義父さまが御者に声をかける。

 神殿への道中、美しい湖の近くを通るらしい。

 セオルが幼いころは、そこでたまにピクニックをしたという。


「それで、子爵は何か情報を得られたのか?」

「いえ、団長を呼び出して話を聞いたそうですが、何も。レイドについて話題に挙げたものの、めぼしい反応はなかったと言います」

「怪しい様子もなかったと?」

「ええ。子爵からすると、少なくとも団長が裏切るとは思えないと」

「そうか」

「あと、リリーを神殿へ連れていくことに反対してました」

「それは……そうだろうなぁ……」


 そうこう話しているうちに、蹄の音がやんだ。

 馬車から降りると、すでに同行の騎士たちが敷物を広げている。

 今回伯爵家から護衛の任についている騎士たちは、みな魔力量が高く、私の姿を認識できているらしい。

 香りだけでもと、私にもお茶を用意してくれた。

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