102.折衷案
『それに、いざとなったら魔法でやっつけるから!強いセオルのことも吹っ飛ばせたし、逃げ出すくらいならできるはず』
「却下。リリーはまだ魔法に慣れてないでしょ。咄嗟に使いこなせる保証がない。仮に結界か何かで、精神体の状態でどこかに閉じ込められたらどうするの?肉体に戻れなくなったら?世の中には魔力封じの魔道具もたくさんあるんだよ?」
『……それは……うぅ』
説得どころか、完全に言い負かされてしまった。
そもそもセオルを吹き飛ばしたのだって、ただの不意打ちだ。
実際の戦闘であれば、容易に防がれていたかもしれない。
「じゃあ、折衷案」
仕方ないとでもいうように眉を下げ、セオルが言う。
意味がわからず首を傾げると、頬を優しく撫でられた。
「俺と行こ」
『え。でも』
「いっしょにいる方が安心でしょ。神殿には多分、それなりに力のあるやつもいると思う。でも俺より強いのはめったにいないはずだから、いざとなったら俺がリリーを守るよ」
『でも私の姿は視えたり視えなかったりでしょ?だからこっそり忍び込もうと思ってたんだけど』
「それはダメ。正面からいっしょに行く」
『怪しまれるよ』
「そうならないよう、両親も連れてく」
『へ?』
お義父さまとお義母さまがいるからといって、何が変わるのだろうか?
「うちがさ、毎年神殿の孤児院へ慰問と寄付を行ってるのは知ってる?」
『うん。結構な額を毎年寄付してるって』
「そう。それを明日にしよう」
『さ、さすがに急すぎない?こういうのって事前に』
「そこは札束で頬を叩けばいい」
『は?』
「多額の寄付をちらつかされて、急だからいりませんって断るやつなんていないでしょ」
さらりととんでもないことをいう。
そもそもこういうのは、セオルが勝手に決めていいことではないと思うけど。
「両親は、リリーのためだと言えば納得するよ。それに神殿側も、いつもの時期は仕事で忙しくなりそうだから前倒しにしたっていえば、変に勘ぐりはしないんじゃない?事情があって長めに領地に戻ることになった、とでも言えば深入りはしてこなさそうだし」
『そういうもの?』
「うん。何年か前にうちで大規模な災害があったときも、同じように急遽寄付をしに行ったしね。ちょっと金額を上乗せしてやれば、喜んで飛びついてくるでしょ。それに、貴族が神殿を訪問するときって、結構チェックが緩いんだよ。同行者の身元確認までは行わないし」
『不用心じゃない?』
「家門を背負って神殿に来ているのに、馬鹿な真似はしないでしょってこと。神殿からの信頼のアピールでもある」
なるほど、寄付をする貴族は神殿にとってはお得意様だ。
同行者の身元を疑うことで機嫌を損ねて、寄付を取りやめられてはたまらないということだろう。
「あとは、子爵に騎士団への探りを入れてもらおうか」
『お父様に?』
「団長とは親しいんでしょ?世間話がてら、軽くね」
『怪しまれるんじゃ……』
「大丈夫。それくらいできなきゃ、当主なんて務まらないでしょ」
ね、と言われて頷いた。
社交の場でのお父様は、確かに貴族らしい貴族だ。
腹の内を気取られずに、話を聞きだすことくらいお手の物だろう。




