101.嘘をついたら
ふわりと飛び上がって自室のバルコニーへ上がる。
窓から中を覗き込めば、枕もとにセオルが腰かけていた。
まだまだ起床するには早すぎる時間だけど、セオルは憂いを帯びた眼差しでベッドに横たわる私を見つめている。
なんとなく声をかけづらくて、バルコニーから様子を窺っていると、セオルがふいに顔をあげた。
その瞬間、窓越しにばっちりと目が合う。
すぐさま立ち上がったセオルは、無言のままこちらへ歩み寄ってきた。
後ろめたい気持ちで窓をすり抜けるころには、目の前にセオルの顔があった。
『お、おはよ?』
とりあえず挨拶をする。
セオルはにこっと笑ったけれど、目が笑ってない。
でも怒る理由に心当たりはない。
『んっと、どうかした?』
「うん。どこに行ってたのかなって」
『ちょっと、朝のお散歩っていうか』
「こんな時間に?ずいぶん早起きだったんだね」
『昨日よく寝たからか、目が冴えちゃって』
「ふうん」
じりじりと距離を詰められる。
息がかかりそうなほど顔を寄せられて顔を逸らすと、顎を掴まれて正面を向かせられた。
「で、どこをお散歩してたの?」
『え、裏庭の方?』
「ひとりで?」
『……たまたま、ロザリーがいて』
「うん」
『レイドと話してた、のを……盗み聞きしてた』
「そっか」
『え?怒ってる?なんで??』
「あのさぁ」
ふーっと深いため息をセオルが吐いた。
「一人で何やってんの?のこのこついていって、何かあったらどうするわけ?」
『いや、危険はなかったし』
「どうしてそう言い切れるの?そいつらにはリリーのこと視えないけど、視えるやつを連れ込んでるかもしれないじゃん」
『で、でも、視える人がいても、その人だって私には触れられないし、手出しはできないわけじゃん?ある意味、今の状態って無敵状態っていうか』
「精神体に限った話ではね?でもここには生身の身体もあるってこと、忘れないで。それに精神体にだって、干渉できる手段があるかもしれないでしょ。実際、魔法省の結界に弾かれてたし」
『そっ、そーいえば、そんなこともあったような』
「あったような、じゃない。それに屋敷内に施してる結界も万能じゃないからね。ちょっとでも危ないことがあれば、すぐに俺を呼ぶこと。わかった?ちゃんと約束して」
『わ、わかった。ごめんって』
ずいっと差し出された小指に、自分のそれを絡める。
怖い顔で凄みながら、子どもみたいなことをするのところが、ちょっと可愛い。
約束ね、ともう一度念を押されて、こくりと頷く。
「嘘ついたら、うちに連れ帰って二度と出してあげないからね」
それはなんとまぁ、物騒と言うかなんというか。
そうならないよう善処しよう、と心に誓いつつ、恐る恐るひとつ提案をする。
『あのさ……神殿、行きたいって言ったら怒る?』
「はぁ?」
『明日、レイドが神殿に行くんだって。なんか焦ってる感じだったし、新しい情報が得られるんじゃないかなって』
「いや、俺ダメだって言ったよね?」
『それはわかってるんだけど~~っ』
一向に懐柔されてくれる様子のないセオルに内心ビビりつつ、さっき裏門で聞いた話の内容を報告する。
裏切りが騎士団全体に広がっている可能性があること、でもそれに現実味を感じないこと。
『最悪のケースを考えるなら、少しでも早く動かなきゃいけないでしょ?いくら子爵家の小規模な騎士団とはいえ、いざ全員と敵対したら』
「それは大丈夫。ここの騎士団くらい、俺一人で楽につぶせるし」
『へ?ほんとに?』
「ほんと。俺ちょー強いから安心して」
『それはすごいけど………でも、そーじゃなくて』
「チャンスを逃したくないってことでしょ?気持ちはわかるけど」
困り顔でセオルが言う。
もう一押ししたら、説得できないだろうか。




