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意地悪令嬢、転入生の世話を引き受ける

お遊び番外編ですので軽い気持ちで読んでくだされば幸い。

時系列的にはフローラが転入してくる前のお話です。

微妙に設定が違ったりすることもありますが、ただの帳尻合わせなので深く考えずにお楽しみください。

 突然だが、うちのクラスに他国からの転入生が来るらしい。

 先生の口から国の名が出たけれど、私は聞いたことのない国だった。遠い西の果ての小さな国なのだそうだ。

 そんな遠い国からなぜわざわざこの国に、と思ったらなんとあちらの国は魔法が使える人のほうが少ないんだとか。

 そんな国で、一人の女の子の魔力が暴発したらしい。

 今は魔法の包帯でかろうじて抑え込んでいるけれど、いつどうなるかが分からない。

 だから対処法が見つかるまで魔法溢れるこの国で一旦預かってほしい、そんな話なのだそう。

 そんな話をなぜ私が聞いているのか、という話なのだが、エリゼオ先生が転入生の世話役に私を選んだからだった。

 魔力量もあって成績優秀、そして面倒見がいいという理由らしいが、私を買い被りすぎである。

 だって私はただの意地悪な令嬢だもの。


「じゃあ任せたぞエレナ」


 と、エリゼオ先生が言う。


「まぁ、私でいいのなら……」


「ちなみに転入生は四人いるが、お前なら大丈夫だろう」


「四人も!?」


 無理では。なんで私なら大丈夫だと判断したの先生。


「そう長い期間ではないし、俺も出来る限り手助けする」


「あ、そうなんですか。手助けしてもらえるのなら……」


「魔力暴発の原因と対処法が分かればすぐ国に帰るらしいからな。まぁ手助けはする。俺が必要だと判断したらな」


 短期間でいいのなら、まぁいいか。あと先生の手助けがあるのなら。ただ先生の言い方が引っ掛かるけれど。必要だと判断したら……か。先生の判断が緩ければいいな。


 エリゼオ先生に転入生の話を聞いた翌朝のこと。母親にそれとなく転入生の話をしてみたところ、彼女は小さな声で『こんな時期にそんな特徴的な転入生? 知らない……ヒロインは魔力暴発なんてしてないし……』と呟いていた。例の乙女ゲームにはいなかったのだろうか?

 ゲームにいない人たちだったとしたら、謎の転入生たちに対しては意地悪を働かなくてもいいのだろうか?

 いやでも私は意地悪令嬢なのだし、隙あらば意地悪を働いてみるのもいいのかもしれない。練習的な感じで。

 ちゃんと意地悪が発揮出来ればロルスだってびっくりして私を意地悪な令嬢だと認めてくれるに違いない!

 ……とかなんとか思っていた朝の自分に言ってやりたい。「それは無理だ」と。

 なぜなら……。


「転入生の紹介をします」


 という担任の先生の言葉に、ざわついていた教室内がしんと静まり返る。

 教壇に上がったのは、エリゼオ先生が言っていた通り四人の転入生だ。魔力を暴発させたという女の子が一人と、残りの三人は男の子。

 ……エリゼオ先生、男の子が三人なんて私聞いてません。


「トリーナ・キキョウ・ブラットフォーゲルです。よろしくお願いします」


 最初に口を開いたのはアッシュグリーンの髪に紫色の瞳の女の子だった。彼女が魔力を暴発させたという女の子だろう。左手にはちょっと禍々しい包帯が巻かれている。あれが魔法の包帯か。あとでじっくり見せてもらいたい。


「ロート・キーファーです」


 次に口を開いたのは赤い髪に赤い瞳の男の子。カラーリングはエリゼオ先生と同じなのだけど、エリゼオ先生のほうが鮮やかな気がする。

 例えるなら、エリゼオ先生がルビーで、彼がガーネットといったところかな。

 あと、ちょっと……本人には口が裂けても言えないけれど、顔がちょっと怖い。いや、顔だけじゃなく……なんか、その……纏う空気? 雰囲気? 全体的に怖い。


「オッドっす。よろしくー」


 あ、次の人が自己紹介を始めていた。

 彼は金に近い茶髪で、瞳の色は髪色よりも少し濃い茶色。まぁまぁ普通の人っぽい。家名がないということは、平民なのかな?

 あと前二人に比べたら威圧感がちょっとだけ薄い。……ちょっとだけ、だけど。


「イーヴンっす!」


 四人目の男の子が口を開いたわけだけど、ものすごく背が高い。なんというか、筋骨隆々というか……本当に男の子なのか……? 男の子というより男性と言ったほうが適切なのでは?

 そんな彼の髪色は黄色寄りのくすんだ金髪、瞳の色はハニーブラウンかな。あと日に焼けているのか地黒なのかは分からないけれど他の三人に比べたら少し黒い。

 ルトガーも褐色肌だけど、同じくらいかな。

 そんなこんなで自己紹介を終えた四人は、揃って一礼をした後、先生に促されるまま教室の後ろに向かってくる。

 四人のために用意された席は、私の後ろの席。

 窓際の一番後ろとその一つ前、そしてそれぞれその隣に四人で固められた。おそらく私がお世話をしやすいように。

 四人は小さな声で少し揉めながら席を決めている。

 結局私の真後ろにトリーナさん、その隣にオッドさん、トリーナさんの後ろにロートさん、オッドさんの後ろにイーヴンさんが座ることにしたようだ。

 何を揉めることがあるのだろうとこっそり聞き耳を立てていると、「お前は後ろだろ」と、トリーナさんがロートさんに言っている。

 なぜだ、と思っていると、他の二人も「後ろ安定やろな」と言っている。

 そしてこの会話を聞いていて気が付いたけれど、トリーナさん以外の三人は訛っている。西の果ての国から来たって言ってたからだろうか、関西弁的な雰囲気だった。

 しかしこの世界に訛りなんてあるんだっけ? 私が知らないだけであるのかな?


「四人のお世話係は四人の前にいるエレナ・アルファーノに一任されているから、分からないことがあれば彼女に聞くように」


 私がそっと首を傾げていると、先生が四人に声をかけていた。

 私は先にエリゼオ先生から聞いていたから知っていたが、クラスメイトの皆はそれを知らない。

 だから「エレナ様が?」「お一人で?」と少しざわついている。


「初めまして、エレナ・アルファーノと申します。どうぞよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


 四人を代表してあいさつをしてくれたのはトリーナさんだった。

 自己紹介の時は不思議な威圧感が垣間見えた気がしたけれど、話してみたら普通の優しい女の子……みたいだな。

 とりあえず私がやらなければならないことは、学園内の案内だとか、授業内容についての説明だとか、その辺か。

 通常座学はともかくとして、選択制の魔法の授業については攻撃魔法、防御魔法、占術魔法、治癒魔法、呪文学の全部を軽く説明したほうがいいだろう。

 先生からも説明は受けていると思うけど、女子に攻撃魔法は不人気だとか呪文学は面白いのに男子女子共に興味を持っている人が少ないだとか、生徒目線の意見もあったほうがいいはずだから。


「ねえ、エレナ様って呼ばれてたみたいだけど、身分高いんですか?」


 まずはどこから説明をしようかと考えていたら、トリーナさんに声をかけられた。


「あ、わたしは伯爵家の娘です」


 私がそう答えると、トリーナさんは「伯爵……」と呟いてくるりと後ろを振り返る。

 振り返った先にいるのはロートさん。彼は小難しい顔をしてトリーナさんを睨みつけている……?


「俺が伯爵家でお前が子爵家。要するにお前はその子より下」


「おう、なるほど。あ、私元々平民で。魔力が暴発してからなんやかんやあって子爵家の養女になりまして」


 トリーナさん、爵位についてあんまり分かっていないの? そんな貴族いる? と困惑していたら諸事情を教えてくれた。元は平民だったのか。

 あとトリーナさん、私と話すときとロートさんと話すときで声のトーンがちょっと違う。


「子爵家は伯爵家よりも下……ってことは私もエレナ様って呼んだほうがいいんですね」


 ああ、やっぱり私と話すときはちょっと気を遣ってくれているみたいだな。


「いえ、エレナ様っていうのは、なんていうか、あだ名的な感じなので呼ばなくても大丈夫ですよ。この学園は身分など関係なく分け隔てなく接していいって決まりもあることですし!」


 そもそも敬語を使う必要もないのだけれど、なんだか妙な威圧感を察知してしまったせいでタメ口に切り替えるタイミングがつかめない。

 この威圧感、なんだったっけな。どこかで感じたことのあるような……?

 どこだったっけな、と思っていたところで、四人が先生に呼ばれていた。

 なんとなく四人を目で追っていると、どうやら教科書を受け取っているらしい。

 ロートさん、オッドさん、イーヴンさんの順に受け取って、トリーナさんは受け取った教科書をそのままイーヴンさんが受け取った教科書の上に重ねている。「重い」と言いながら。

 ……ナチュラルなパシリかな?


「いや、たったこのくらい自分で持てや」


「私、か弱い貴族のお嬢様だから」


「どこがやねん! っちゅーかお前ついこないだまで平民やったやんけ」


「貴族のお嬢様になったんだと思った瞬間か弱くなったのよ」


「そんなわけあるかい!」


 ……ナチュラルな漫才かな?

 そんな漫才の途中で、先生が四人に寮についての説明をしている。

 そうか、四人は寮に入るのか。そして今日の放課後は寮についての案内があるらしい。ということは、私からの学園案内や魔法の授業についての説明は明日のほうがいいのかもしれない。

 どうしようかな、なんて考えていたところで、四人が席に戻ってくる。

 そして、戻ってくるなり漫才が再開されるようだ。


「あんた座った途端ふんぞり返るのやめたら」


「癖やねんて」


 トリーナさんの言葉に、イーヴンさんが答えている。

 よく見たらイーヴンさんだけじゃなく、ロートさんもオッドさんもなんとなく座りかたが厳つい。あ、トリーナさんも普通に足を組んで座ってるな。だから威圧感が強いのかな。


「あとなんでそんな転入初日から気崩してんの。ヤンキーかよ」


 ああ……そうか。なるほど。


「いやなんか俺に合うサイズの制服なかってん。特注になるせいで間に合わんて言われてこれ借りてんけどボタンとめたらぱつんぱつんでな」


 そうかそうか、威圧感の正体が分かった。ヤンキーだ。

 この人たち、ヤンキー感が強いんだ。

 これは後でロルスに即相談しなければ。とんでもないことになった、と。


 そんなこんなで放課後。

 やっぱり今日は寮についての説明があるので、私からの学園案内や魔法の授業についての説明は明日することになった。

 なので、私は急いでロルスの元へとやってきた。


「ロルス聞いて! ヤンキーよ!」


 従者待機部屋に着くなり叫ぶようにそう言った。我慢が出来なかったのだ。


「……は?」


 ロルスは私の言葉を理解出来なかったようだ。


「とにかく帰りましょ。馬車の中で話すわ」


「はい、お嬢様」


 なんとなく困惑気味のロルスを連れて、私は急いで馬車を目指す。

 そして馬車に飛び乗ったところで、マシンガントークを始めた。


「ロルス聞いて、今日ね、転入生が来たの。四人も」


「はい」


「それでね、わたしが四人のお世話係に任命されたのよ。エリゼオ先生から直々に」


「はい」


「でもねぇ……」


 私は腕組みをしてしばし考えこむ。ロルスそっちのけで。


「お嬢様?」


「わたし、その四人にも意地悪をするべきかしら?」


 考え込んでいた時は少し心配そうな顔をしていたロルスだったが、私のこの一言を聞いた瞬間どうでも良さそうな顔になった。ロルスめ。


「……まぁ、お嬢様の好きなようになさればいいのではないかと」


「そうね。まぁ……そうなんだけど」


 あの四人から漂うヤンキーの香り……あれは少し怖いな。

 今は伯爵家の令嬢だが、元はただのゲーマーだった私がヤンキーを相手に意地悪など出来るのだろうか?

 もしも校舎裏とかに呼び出されたら絶対に太刀打ちできない。ゲームでなら勝てるけれども。

 でも今の私は意地悪令嬢なのだ。相手が誰であろうと怯むわけにはいかないのでは?

 いやでもヒエラルキー的なアレがソレで……うーーーーん。


「いや、でもあの四人に意地悪……無理かもしれない……」


「僭越ながらお嬢様、お嬢様は相手が誰であろうと意地悪などたいして出来ていないので今更心配することはないかと」


「……もうっ!」


 相手がヤンキーじゃなければ大丈夫だもん! 多分!!





 

転入生四人は年齢を鯖読んでいます。

読んでくださってありがとうございます。


私事ですが今度ちょっと長めの入院をすることになりまして、当作品は入院中の私に向けた私による私のための私が楽しいお話の予定です。

お返事出来ない可能性のほうが高いので感想欄は閉じております。ご了承ください。

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