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第3話 二人の昼休み

 講義を終えて、昼食を取るために大学の食堂へ向かった私たち。

 普通に食べると少し早い時間帯だからか、人は少ないし席も空いている。

 騒がしいのが大嫌いな私にとっては有り難いことだ。


「愛ちゃん~、今日は何食べる?」

「唐揚げ丼。半熟卵付きのやつ」

「そればっかりだよねー、いつも」


 別に美味しいからいいじゃない。

 むしろ毎回来るごとに変えようとする方が無駄だと思うんだけどな。


「なら私はカレーに――いや、昨日食べたか。うーん、定食を注文するほどお腹が空いているわけじゃないし……迷うなぁ」

「早くして」

「ちょっと待って! あ、期間限定でトマトラーメンってのがあるんだ。それにしよ!」

「はぁ……」


 ちなみに、アズがこうやって長い時間悩むことは珍しい話ではなかった。

 俗に言う優柔不断という奴。というより、好奇心があちこち行ってるだけかもしれない。


「買えたよ~! お~い!!」


 そんなことを思っている間にアズが購入を終えたらしく、食券を見せびらかすように大きく手で振っていた。……恥ずかしいから辞めてほしい。

 うちの大学食堂は食券を機械で購入し、商品ができた時に食券を交換する仕組みだ。

 だから注文してから料理ができる時間がかかる。でも、この空き具合ならすぐのはず。


「席はあそこで良いよね!」

「良いと思うよ」


 ちょうど隅の空席を見つけたので、そこに座る。

 待ってる間に……あ、図書館から借りてきた本でも読んでようかな。

 そう思って本を読み始める。すると、すぐに複雑な表情のアズが目に留まった。


「……ねぇ、本って面白い?」

「面白いよ」


 そりゃ面白いから趣味で読んでいるわけだし。

 何でこんな質問をしてくるのか意図が分からず、思わず首を傾げてしまう。


「そうなんだ。でもさぁー、もうちょっとウチと話すこともしてよー!」

「本読まなきゃいけないし、面倒くさい」

「悲しいこと言わずにさぁ~」


 そんなこと言われても。

 別に話す必要がないのだから、各自好きなことをすれば良いと思うのに。

 というより、私みたいな内に引きこもってるような人間と話して何があるんだろう。


「何か話題でもあるの?」

「特には無いよ。でも世間話とか…、そういうことしない?」

「しないよ」


 私の簡素な返答に、アズは一目見て分かるくらい悲しそうな顔をしていた。


「愛ちゃんのそういう性格は元々知ってるけどさ、やっぱり寂しいよ……」

「う、うぅ……」

 

 そういう顔をされて、そこまで言われたら……流石の私も思うところがある。

 でも本当に何を話せば良いのか。意味のない会話をするのが苦手だから難しい。

 そう悩んでいると――モニターに私たちの食券の番号が書かれてることに気づいた。


「あ、来たみたいだよ」

「え、ほんとだ。取りに行こうか、愛ちゃん」


 料理ができたみたいなので取りに行った。

 私の手元には唐揚げ丼。唐揚げとマヨネーズの組み合わせが最高。

 カロリーが気になるけど、私は食べても太らない体質みたいだから大丈夫。

 ……そのことをアズに言ったら、凄い恨めしげな顔で見られたのは今でも覚えている。

 そして、私が密かに気になっているのはアズのトマトラーメン。

 ラーメンなのに赤色のスープで何か違和感を感じるし、トマト独特の匂いもすごい。


「いっただきま~す!」

「いただきます」


 とりあえず、いただきますの挨拶をして食べ始める。

 私のは……うん、やっぱり美味しい。いつもの美味しさだ。

 肝心のアズは赤みがかかった麺をスープと共に口に運んで――顔が歪んだ。


「あんま美味しくなかった……」

「でしょうね」




 お腹が膨れた私たちは、講義までの時間を図書館で過ごすことにした。


「うわ~。いつ来ても頭が痛くなるよ」


 何度も言うように私とアズの嗜好はまったく違う。

 なので、一日ごとに交代で相手の趣味に合わせることにしている。

 今日は私の番。私が居られる場所なんて図書館しか無いので、いつもここだ。

 大量の本に対して頭を抱えてるアズに、海岸の砂粒ほどの罪悪感を感じること以外は静かで落ち着いていて、私にとって居心地が良い場所になっている。


「――、――、――、――、――!!」

(ああ、うるさくて仕方がない……)


 でも、今日はまったく違っていた。

 理由は分からないけど、今日の利用者は一段と多かったから。

 その中には、普段は利用しないような生徒も含まれていて……場所が場所にも関わらず、所々で話し声が聞こえてくる。

 もちろん大声ではないけれど、微かな音だとしても耳障りには違いない。


「うわー。今日は騒がしいね」

「……そうだね」


 アズも同じようなことを思っていたのか、しかめっ面をしていた。

 この場所から一刻も早く逃げ出したいけど……。でも、その後はどうしよう。

 行く場所なんてあったかな、と頭の中で思考を巡らせる。すると――


「あ、そういやさ」


 掌の上に拳をぽんと乗せる、といった古典的な動作をしてアズがそう呟いた。


「この前、人の寄り付かない静かな場所を見つけたんだよね~」

「あ、穴場?」

「うん。2号館の端っこ。変なサークルが活動しているっていう噂以外は問題なさそうだし」


 確かに……その辺りは人が少ない印象がある。

 そこなら騒がしさはないはず。2号館はあまり行ったことのない場所だから若干の不安はあったけど、この場所よりはマシだし……それに、アズがいるから大丈夫だろう。

 私が肯定の意志を示すように小さく頷く。それを見たアズは、予想と反してちょっと悩んでいるような仕草をした。


「ただ、それこそ空き教室しか無いからやることないんだよねー」


 ……それがあったか。確かに空き教室で過ごすんじゃ暇すぎるよね。

 さっきみたいにご飯を待つまでという短時間ならともかく、それなりになる時間を何も考えずに各自で好き勝手やっているだけというのは、私もどうかと思うし。

 どうしようかと考えると、不意に良い案が浮かび上がってきた。


「じゃあ……アズ、そこで一緒にレポート作ろうか?」

「えっ?」


 そういえば、違う講義でもレポートの提出を求められていたはず。

 量は多くないものの、付け焼き刃で終わらせられる代物ではない。

 なら時間がある今の内にやってしまおう。ついでにアズのも協力してあげようかな。

 しかし、肝心のアズはというと、いかにも面倒くさいから断りたいと思ってるような様子で、目線を斜め下へと向けていた。


「う、ウチは、別にいいかな~って。一夜漬けで何とか――」

「何とか、なったことある?」

「……なったことなかったです。はい」


 正直でよろしい。アズのそういう素直なところは好感が持てる。

 まあ、アズもアズで一夜漬けで頑張る理論がいかに無謀な策であるかを自身の人生で幾度となく思い知っていたんだろうけど。

 そんなわけで、私たちは次の講義まで2号館の空き教室でレポート制作をしたのだった。

 ……集中できないアズを頑張らせるのに苦労したのは言うまでもない。

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