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第4話 空気が読めないっ!

 午後の講義は、午前とは打って変わって少人数のものだった。

 どうしても人が多くなってうるさい大教室と違って、講義中でも静かでとても良い。

 ……もし、『あれ』がないなら、少人数の講義とはどんなに素晴らしいことだろうか。


「これから、このお題について話し合ってみましょう。席のここから――」


 そう、私が大の苦手とするグループトーク。これがなければ。

 人見知りで人と話すのが嫌いである私はこれに嫌な印象しか無かった。

 これがある日はできれば休みたい。そう考えるくらいには嫌いだ。

 しかし、そんな私の気持ちとは裏腹に、教授が素早い動きでグループを決めていった。

 ちなみに隣に座っていたアズとは運悪く別のグループになった。ちょっとだけ寂しい。


「よろしくね」

「よろしくー」

「……よろしくおねがいします」


 周りを見ると、他学年の人も混ざっているのか初対面の人が多かった。

 人見知りの私にとって、それは憂鬱に感じるもの。溜め息を心の中でついた。

 ……そもそも、何でグループトークなんてする必要があるのだろうか。

 哲学的難題に取り組むとかそういうわけでもないのだから、一人でやらせてほしい。

 

「というわけで、何か良さそうな意見ない?」

「…………」


 沈黙。

 そりゃそうだ。見ず知らずの人の集まりで咄嗟に意見が出てくるわけがない。


「あ、なら私からするねー。この話は――」


 この沈黙を破ったのは私の目前に座っていた、少々馬鹿っぽそうに見える女性の人。

 まあ、この状況下で口を開く積極性は評価できる。私には到底真似できない行動だ。

 しかし、彼女の意見を聞いていく内に私の顔がしかめっ面になっていった。

 ……違う。明らかに違う。

 その意見の基になる知識も不足しているし、論じる方向性もどことなくずれている。

 正直――さっきまでの講義を聞いていたのか問い詰めたくなるほど。

 これは初めの意見だし、多少の妥協は必要なのは確かだ。

 でも、意見で出てきた矛盾点は一片の曇りすら無く明らかにするべき部分で、私がこれを看過できないのも確かだった。


「だから私はこうなんじゃないかと思って――」

「それは違うよ」

「……え?」


 駄目だ。もう耐えられない。

 彼女に正しいことを言わないといけない。私は彼女をを遮るように言葉を重ねた。

 そして、自分で何言っているのかわからなくなるぐらい夢中で畳み掛けた。

 

「……と、まあ、こんな感じです」


 やっと言い終わった。それなりの量を話した気がする。

 言い切って清々しい気持ちになった私は、感想を伺おうと周りの人を見渡した。


「あ、うん。そうなんだ……」


 微かに呟かれた声。先ほどまで意見を言っていた人の顔は曇っていた。

 気づいたら、一目見るだけで分かるほど場の空気が悪くなっている。

 その光景が目に飛び込んできた後、私は心の中でやってしまった……と深く後悔した。


(原因はあんまりわからないけど、私の発言が気に触ったんだろうな……)


 それから私は議論に一切参加せず、話を聞くだけの立場に徹した。

 と、いうよりは――会話の輪に入っていけなかったというのが正しいか。


「…………」


 たくさん交わされる皆の意見に指摘したい点は山ほどあったけど、またあんな空気になったらと考えると動くことができないでいた。

 それに話すのが苦手な私にとっては、話題を切り出すタイミングを掴めない。

 まるで小学校の頃にみんなやってるんだからと無理やりやらされた大縄跳びのようで、どうしても尻込みしてしまう。

 ……辛い。どうしようもないほど心細くなって、アズの方へと目を向けた。


「うんうん、そうだね~。じゃあ、こうやってまとめてみない?」


 どうやら、アズはうまくやっているらしい。

 他のグループの人とも仲の良い雰囲気を作って会話している。

 アズはこういうコミュ力あるんだよね。私みたいな人間とも話せるくらいだし。

 それが私には羨ましく思えたと同時に、何の苦労もなく他の人たちと会話しているアズの姿を見ると、少しもやっとした気分になった。




「発表は次回です。それまで各自資料等を調べてきてくださいね」


 あれから何分経っただろうか。教授がそう締めくくり、講義が終わりになった。

 来週もあのメンバーと一緒にやらなくちゃいけないのかと考えてしまい、気が滅入りながらも退出するために自分の荷物を片付けていく。


「おーい、愛ちゃん~! あれ、元気ないね。どしたの?」


 そんなところにアズが勢いよく駆け寄ってくる。

 その顔は笑顔に溢れていて、とても……きらきらと輝いていた。

 おそらく疲れきって曇っている私の顔と対照的になるようで、とても複雑な気分だ。


「な、何でもないよ、別に」

「もしかして、また誰かとお話する時にしくじっちゃったとか?」

「……っ! う、うるさい」


 いきなり図星を突かれて狼狽えてしまった。

 普段は気が利かないのに、こういう時だけ察しが良いのは卑怯だと思う。

 憎らしそうに見つめる私を意に介さず、アズは意外にも我が子を見守るお母さんのような顔をしてゆっくり頷いていた。


「うんうん、わかってるよ。愛ちゃん」

「いや、だから……」

「もう、まったくウチがいないと駄目なんだから~!」

「…………」


 つい数時間前まで、レポートに四苦八苦していたこと、忘れちゃったのかな?

 そう思ったけど、今回に関してはアズの言う通りなので黙っていることにした。

 アズはそれを肯定と感じ取ったのか、でも、と優しい口調で言葉を続ける。


「ま、気にしなくていいと思うよ。それが愛ちゃんの個性だし!」

「……個性ね」


 そんなもの、どっかのゴミ箱に捨てておきたいくらいだ。

 この空気が読めない性格でどれだけ人生で苦労してきたことか。

 というか、逆に空気を読むことを重んじる社会の風潮自体が間違っていると私は思う。

 空気は見えない。見えないものは読めない。読めないのだから読む必要はない。以上。

 ……ま、そう割り切れていないから、こうして愚痴愚痴と言ってるんだけど。


「そーそー。私がそそっかしいのも、忘れ物が多いのも個性!」

「それは……確かにそうだね」


 私同様、マイナスにしかなってないけどね。


「ささっ、もう帰ろう! 今日は愛ちゃんの部屋で宅飲みパーティだ!」

「……面倒くさい」

「そんなこと言わずに! もちろんお酒代は私が出すから!」

「私はお酒飲まないもんね」


 こうしたアズが勝手に開く、宅飲みパーティも悩みのタネだった。

 お酒が全く飲めない私にとって、こういう催しが存在する理由が分からないから。

 根本としてお酒を飲む必要性が理解できない。

 頭が痛くなるし、変な言動をするようになるし、最悪の場合アルコール中毒で死ぬこともある。

 でも社会の大人はというと、飽きもせず飲み会をやっている……そういうイメージが有った。

 ――何というか、私は社会でやっていけそうにないな。

 中学生の頃から幾度となく頭に浮かんでくる言葉に対し、またもや憂鬱になる私だった。

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