8
瓦礫が散らばったダンジョンを走り抜けながら説明する。
「もしも武器も何も持っていない状態で魔物に襲われて、攻撃を防がなければならない時はどうする」
「逃げるのも無理ってことっすよね? そりゃあ、何とか致命傷を避けるしかないっすよね」
「そうだ。避けられないなら防ぐしかない。武器が無いなら、腕で庇うしかない」
「何かおかしいですかな? ヨーンは腕に傷を負っていたはずでは?」
「場所がおかしい。もしも魔物に襲われたなら、腕の外側に傷を負っているはずだ」
「彼が怪我をしたのは内側だったわね? つまりあの傷は魔物がつけたのではなく、彼が自分でつけた……そういうわけね?」
「震えていたり、うわごとを言っていたのは毒にやられたと思わせるための演技だろう」
「何とも狡猾な。しかし一体なぜそのような卑劣極まりない蛮行を?」
「わからん。今はヨーンを捕えるしかない」
ようやくダンジョンを抜ける。ここからなら念話で連絡を取り合うこともできるはずだが。
「ライシャ殿と連絡が取れました。……は? 真実ですか?」
「どうかしたの?」
「それが……どうやら魔族を捕虜としてとらえていたようなのですが……その捕虜が脱走したようです」
「!」
「まじっすか」
「この件と何か関係が?」
「そこまでは何とも。とにかくヨーンを捕まえろとのことです」
誰も何も言わない。ただ、懸命に走った。
「残念ですが……すでにこと切れていますな」
ジックが死者の冥福を祈る。どうやらヨーンを連れて町へ戻ろうとしていた冒険者は皆殺されていた。しかしゆっくりと祈っている暇はない。
「まだ痕跡は残っている。追うぞ」
わずかながら血痕が残っている。自傷によるものか、ここでの戦闘によるものかはわからないが、手掛かりはある。
「多分相手は実力を隠してるっすね。新米とは思わない方がよさそうっす」
確かにこれだけの手際の良さは昨日今日殺し合いを始めた人間ではない。いや、そもそも人間ではないのかもしれない。
「相手は魔族なのかしら? スキルで変装していたのかもしれないわね」
リンクスの心に暗い炎が灯る。仲間たちはそれを敏感に察したが、誰も何も言わなかった。
森を進む。このままなら山に入るはずだが……山越えをするつもりだろうか。
決して軽装で乗り越えられる山ではない。山に慣れた人間でさえ命を落とすこともある危険な山だ。この山があるからこそ魔族は簡単にこの国に侵攻できずにいた。それは同時にこちらからも攻めにくいということでもあるが。
「山に入る前にけりをつけるぞ」
逃がす、諦めるという選択肢は初めから存在しない。
森をできる限りの速度で進む。そして、明確な証拠を発見した。
「魔物と交戦したのか……これは……ブルーベアか? 大物だな」
青い毛が辺りに散乱していることからそう考えられた。どこかで獣の咆哮が轟いた。そう遠くはない。
焦らず、だが急ぐ。
が、しかし、敵もさるもの。
やはりそう簡単には捕まるつもりはないらしい。
「ブルーベアがこっちに向かってくるな」
何らかの方法でブルーベアを撒いてこちら側に押し付けたらしい。
「……リンクス殿。先に進んで下さい。ここは我らが引き受けます」
「先に行って?」
「うっす。任せておいてください!」
「……わかった。ここは頼む」
ジックが魔法を放ち、ブルーベアを引き寄せる。その隙にブルーベアの脇を走り抜ける。
後ろで剣戟の音が聞こえるが振り返りはしない。
(俺にはもったいない仲間だ。だが……それでも俺はまぞくを許せん)
例えば、仲間が全滅したことを悔やんで冒険を辞めた冒険者がいる。
例えば、仲間同士が結ばれて新たな人生を歩み始めた冒険者がいる。
しかし、俺にはそんなことはできない。例えどんなことがあっても、魔族を殺すことを辞めることなどできはしない。
そして、
「追いついたぞ」
以前新入りとしてまみえたヨーンと目が合った。




