6
ドルク……いや、リンクスが目を覚ますとダンジョン内のキャンプだった。
右手を握りしめながら油断なく辺りを見回す。
「起きたっすか」
「ミクトか。何があった」
「黒い煙がリンクスさんを取り囲んだ後、すぐに消えて、それからリンクスさんが見つかったっす。外傷はないみたいっすけど大丈夫っすか?」
「ああ。問題ない」
「……なんかあったっすか?」
それほど自分の顔は険しかっただろうか。多分そうなのだろう。
「悪夢……のようなものを見た。煙に毒か呪いでも仕込まれているのかもしれない」
「そっすか」
あえて何も聞かない。それもまた仲間の証だろう。ミクトはするりとキャンプから出ていった。新しく魔物を発見した場合報告義務があり、懸賞も出る。話を聞きたい気持ちはあるだろう。しかし、ミクトはそっとしてくれた。
何故か固く閉じられていた右手を開く。その手には姉とお揃いだったペンダントが握りしめられていた。無意識的に握りしめたのか、それとも誰かが右手に添えてくれたのか。
初めにライシャさんにパーティーを組めと言われた時は反発した。しかし、複数で動いた方が効率がいいのも事実だった。
ジックは弟に似ているという理由で構ってきたし、ミックは無茶を言ってもついて来てくれた。ディネアは……まあ、うん、悪い人ではない。
きっと楽しかった。未知のダンジョンや宝。苦戦したこともある。勝利に酔いしれたこともある。しかし、今が幸せであると感じるほど不安になる。俺はこのままでいいのだろうかと―――
「リンクス殿!」
ジックが血相を変えてキャンプに駆け込んでくる。ただ事ではない。
「何かあったのか?」
「上で、新米が二人殺され、一人が重態のようです。急いで戻らねば」
無言で頷く。体は動く。ここは夢ではない。
「了解した。すぐに戻ろう」
上では虱潰しに家屋の捜索が行われていた。安全なはずの階層で殺しがあったのは誰にとっても看過できないらしい。いうなれば町中で魔物に襲われるに等しいからだ。
「あんたら、ここに戻る途中で危険な魔物と出くわさなかったのか?」
当然ながら首を横に振る。行きはきちんと魔物を潰したし、帰りには全く魔物と出会わなかった。
「いったい誰が襲われたんだ?」
「新米のスファルとゼル、ヨーンだ。生き残ったのはヨーンだけだが、重傷で口がきけない。どうも毒にやられたらしいな」
思わずミクトとリンクスが顔を見合わせる。あの三人だとは夢にも思わなかった。
「毒? もしやそれは蛙に顔が張り付いたような魔物でしたかな?」
「何だそれ?」
「先ほど下層でそのような魔物に遭遇しましたが……どうも違うようですな」
「ああ。魔物は姿を見せていない。だからこうして全員で手分けして探している。あんたらも手伝ってくれ」
冒険者たちは四方に散っていったが、リンクスたちだけは足を止めていた。
「その新米たちはどこで襲われたんだ?」
「それがわかってねえんだよ。血まみれになった仲間をヨーンとかいう新米が担いでいてそれを誰かが発見したらしい」
……リンクスは考える。直感ではない。経験則としておかしい。毒にやられて、それでも二人を担いで逃げおおせるのは簡単ではない。まあ、どんな状況でも仲間を見捨てないのは当然と言えば当然だが、魔物がそれを黙って見逃すだろうか?
「……ヨーンの怪我の具合はどうだった?」
「腕や足に怪我を負ってたな。震えていたから、毒か何かだろう。うわごとを言っていた気がするな」
「腕の怪我をもう少し詳しく話してくれ」
「ああ。肘の内側辺りをこう、スパッと」
右手で手刀を作り、左手を切る仕草。――――これで確信した。
「何か、思いついたようね?」
その通りだ。
「ヨーンは今どこに?」
「ここじゃ本格的な治療ができないから、町まで連れて帰ったよ」
まずい。事態は最悪の方向に向かっている。とにかく時間が惜しい。
「今すぐヨーンを追いかけるぞ。それとロタン……いや、ライシャさんに連絡を」
走り出そうとするが、止められる。
「お、おい。どういうことだよ」
「簡単だ。ヨーンが仲間を殺した犯人だ」
ゆっくりと発せられた言葉は衝撃となってリンクス以外の顔を驚愕に変えた。




