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「ほらドルク。きちんと後片付けをしなさい」
「え?」
「え、じゃないでしょ。いつまでもぼうっとしていないで早く手伝いなさい」
「シャイナ、姉さん?」
「まったく、朝ご飯はもう食べ終わってるのにまだ寝ぼけてるの?」
ああそうか。これは夢だ。
リンクス、本名をドルクという冒険者はそう得心した。そうでなければ姉がいるはずがない。
「うんわかった。今片付けるよ」
「あら、素直じゃない。いつもはもっとごねるのに」
「そういう時もあるよ姉さん」
姉はいつでも優しかった。間違った時は叱ってくれたし、手伝いをしたときは褒めてくれた。町へ行った時に買ってくれたお揃いのペンダントは今でも手放したことがない。そんな姉がきっと大好きだった。あと少し、もう少しだけこの幸せな時間を――――
「そうそう、今日は町の会合があるからお父さんもお母さんも遅くなるわよ」
亀裂が入る。ダメだ。これはダメだ。今日何が起こるか知っている。
逃げよう、そう言おうとしても口は動かない。それどころか体が糸の切れた人形のように動かなくなっていた。さっきまでは動いていたのに?
動け、動け、動け!
何故か時間が早く進んでいる気がする。いや、気がするのではなく、誰も彼も早く動いている。彼を置き去りにするように。
そして、悲鳴が聞こえる。魔族が、来た。この日、魔族がこの村を襲った。
奪われる、斬られる、砕かれる。何もかも一切、消えていく。
続くはずだった日常が、手に入るはずだった幸せが、全て踏みにじられていく。見ているしかできない。今も昔も、無力なままだ。
「お父さん!」
父は必死で家族を連れて逃げていた。しかし、子供を担いだままでは追い付かれるのも無理はない。
「お前たちは逃げろ!」
追いすがる魔族にたった一人で父は向かっていく。とても一人で戦える数ではない。
「……! 逃げるわよ、ドルク!」
「そんな、でも……」
「いいから!」
父を置いて、走る。しかし、またしても魔族は迫って来る。父がどうなったかは考えるまでもない。
母が木の根に足をとられる。
「母さん!」
姉がおもわず母に駆け寄る。もはや逃げ切れない。
凶悪な顔をした魔族は子犬でも掴もうとするかのように手を伸ばす。
「うわああああ!」
絶叫しながら魔族に拳を振るう。父は必至で魔族に立ち向かった。だから自分も同じように、
ゴン。
魔族が拳をさっと払う。もうそれだけで勝敗は決した。もう立てない。
何の力もない子供が勝てる相手ではない。
最後に目に入ったのは魔族を止めるために足元に縋りつく姉の姿だった。
あの後なぜか俺は生き残った。死んだと思われたのか、殺す価値すらないと判断したのか、ともかくあてもなく森を彷徨っていたところをライシャさんの一団に保護された。
最終的に同じような孤児がいる施設に入り、そこを出て、冒険者になった。それからは復讐の日々だった。いつか俺の家族を殺したあの魔族を殺すと、それだけの為に生きてきた。
あいつが既に死んでいるかもしれない。それはわかっている。ライシャさんが連れてきた軍隊は魔族の軍を散々に打ち破ったらしく、その可能性は高い。
だからどうしたというのだ。いまさら安穏と暮らせというのか? 無理だ。あんな惨劇を見て、あんな屈辱を味わって、平凡な人生を送れというのか? 冗談じゃない。一人でも多くの魔族に死を。その結果俺が死んでもいい。
殺せ。殺せ。殺して回れ!
なぜ今更こんな夢を見たのか。多分あの魔物の影響だろう。それくらいはわかる。
だが、それでも俺はこのままでいいのか? 昔はいつものように見たあの時の悪夢を見ることは少なくなった。それは俺が満たされているのではないか? 許されるのか? 生き残ってしまった俺が、幸せを掴もうなどと?
血の匂いがする。誰だ? 魔族か? 仲間か? それとも――――俺か?




