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リンクスたちロタンから東北東にあるダンジョンに訪れると、予想以上に人が賑わっていた。このダンジョンは浅い階層はすでに探索し尽くされているため、利益を得たいなら深い階層に潜る冒険者が多い。深い階層の難易度は高いためあまり多くの冒険者が訪れることは少ないはずだが……。
「ふむ、これは如何にも祭りの気配ですかな?」
この場合の祭りとは人々の間で行われる催しではない。冒険者の隠語の一つで安全な場所から魔物が大量発生したことを指す。
「駆け出しらしき冒険者もいるわね?」
祭りは特に経験の浅い冒険者には格好のレベル上げの場であり、だからこそ失敗を犯す新米もいる。
「町から出るときはこんそんな話は聞かなかったっすよ?」
「多分、念話で連絡を取り合ったんだろう」
「昔は狩場の情報などは独占したのですが……時代とは変わるものですな」
「ライシャさんが変えたというべきだろうな」
ギルドに情報を提供することで、報酬などを提供し、他ギルド間で争うよりも相互間で情報を共有できる方が利益のある態勢を築いた。それは念話で通信能力が向上したからこそできるようになったことだ。
「私たちの目的は周辺の魔物の討伐だけど……この様子なら目標を変えた方がいいかしら?」
「少しばかり話を聞いてきましょう。皆さまはここでお待ちを」
ジックが場の中心にいる冒険者に近寄っていく。こういう時はリーダー同士で話し合った方が手早く済むはずだ。
「あら?」
「どうかしたっすか?」
「珍しい顔がいたからちょっと顔を見せてくるわ。あなたたちも来る?」
珍しい顔……というがその顔は仮面やらローブに隠れて誰一人として素顔を晒していなかった。控えめに言って怪しすぎる集団だ。
「……やめておこう」
「遠慮しておくっす」
無言で頷くとディアネは怪しげな集団の輪に加わるが、彼女は全く浮いていなかった。
「兄さんもよくわかんないとこありますけど、姉御もミステリアスっすよね」
(……あの人と同列に扱われているとは思わなかったな)
手持無沙汰になったリンクスとミクトにいかにも新米らしき緊張した三人組が話しかけてきた。
「こんにちは」
「ああ」
「うっす。祭りに参加しに来たんすか?」
「ええ。うちのギルドマスターにこれも経験だって言われて」
経験には見知らぬ冒険者に話しかけることも含まれているのだろう。今どきの冒険者、特にリーダーには誰とでも話せる能力が求められる。
「じゃあ、リンクスさん。ご教授お願いするっす」
「どうして俺が?」
「リンクスさんの方が先輩っすから」
こういうところはずる賢いというか要領がいいというか……しかし憎めない奴でもある。
「わかった。俺はリンクスだ」
「山猫? 変わった名前ですね。あ、いや変な意味じゃないですけど」
「よく言われる」
「僕はゼルです。こっちの槍使いがヨーン。軽鎧がスファルです」
「ヨーンです」
「スファル」
どうもゼル以外はあまり口数が多くないようだ。
「お前たちは祭りは初めてか?」
「そうです……というかダンジョンに潜ること自体初めてです」
完全な新米ということか。
「具体的に何をするか聞いているのか?」
「魔物を狩るということは聞いています」
ちらりとミクトを見やると目線で教えた方がいい、そう言っていた。
「正確には魔物を安全かつ効率的に狩ることができる。だからレベルは上げやすいが魔物と戦う経験はあまり積めない」
スキルと違い基本的にレベルは魔物を倒した時に上がる。だから一生町からでなければレベルは全く上がらない。
「安全って……どうやってるんですか?」
「基本的には柵や罠だ。とにかく足を止めてから仕留める。できる限り飛び道具を用意しておいた方がいい」
「え……」
「……それでレベルが上がるのか?」
困惑顔のゼルに代わって質問したのはスファルだった。新入りが感じる疑問の一つだ。
「上がる。どんな手段でも魔物を倒せばレベルは上がる。上昇の仕方は個人差があるが、いつかは上がる」
「その……なんていうか……」
「卑怯、か?」
三人の顔にははっきりとそう書かれている。いや、ヨーンだけはこちらと目を合わせようとはしなかった。
「先に言っておくが、長生きしたいのならなるべく魔物と正面から戦おうとは思わないことだ。魔物の大半は少なくとも一対一なら俺たちよりも強い。本当に死にたくないなら、不意を討て、罠を張れ、数を生かせ」
「……覚えておきます」
三人は神妙な顔で頷き、ダンジョンに潜っていった。
「あの三人大丈夫すかね?」
「さあな。警告はした。後は本人次第だ」
「もうちょい愛想よくしたらどうっすか?」
「? していただろう?」
「……まあ、そういうことにしておくっす」
ちょうどよく離れていた二人が戻ってきた。
「我々の任務はダンジョンの奥にいる魔物が上に出てこないようにとのことです。異存有りますかな」
全員何も言わない。予定より少々危険な任務になったが問題は無いだろう。




