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暗い洞窟を進む。洞窟で最も注意しなければならないことは自分と仲間の位置を確かめることだ。洞窟という閉鎖された空間で孤立することは心身ともに大きく疲弊させる。疲労を防ぐため、そしていざ戦闘になった時に隊列を崩さないためにしつこくなるほど声をかける。
出会った魔物のほとんどは光を見ただけで逃げていった。浅い階層に弱い魔物しかいないのは事実であるようだ。
洞窟型のダンジョンは狭いが入り組んでおり、探索が難航することが多い。しかし、このダンジョンはほとんど一本道で脇に鉱石採取用と思われる横穴や、人には通れない子穴があるだけだった。
探索は順調だった。襲われたのはレッドバットと呼ばれるチスイコウモリくらいで、大した強さではなかった。確かにこれならトダイでも低難度のダンジョンだと判断ずるはずだ。
しかしここからは警戒をより強くしなければならない。
今から4階に突入する。恐らくそこに何かがあるはずだ。
パーティーメンバーは一層警戒を強めている。どうもこの階層から構造が複雑になっており、一本道ではない。要救助者の探索はカズールの鼻を頼りにするしかなかった。
『ち、血の匂いがする』
そう言って先導したカズールが発見したのは血痕だった。血の状態から見て恐らく魔物に襲われた時の物だろう。
『キャ、キャリオンクロウラーのに、臭いではない』
その言葉にわずかながら胸をなでおろす。キャリオンクロウラーは独特の臭いを発するため鼻の利く冒険者なら判別が可能だ。ワーム種はあまり積極的に人を襲わないため生き延びている可能性は高くなった。
『匂いで冒険者たちを追尾できるか?』
『や、やってみよう』
『ニッキはそのまま光魔法を。ラッカーは後方の警戒を頼む』
誰一人油断していないし、お互いを信頼している。
(全く、俺にはもったいない仲間だな)
面と向かっては言えないが、そこには確かに信頼があった。ただとある共通点があるだけでパーティーを組んだ仲だったが今では盟友と呼んでもいい仲間だ。
暗く狭い道ですらない道をゆっくりと歩く。時折小さな魔物が足元を通り抜けるが一一気にしてはいられない。この階層にとどまっていればカズールが探し出してくれるだろう。だがもしも出口と入り口を勘違いしたり、魔物に追われて奥の階層に入ってしまったなら追跡は難しくなる。
『ち、近いぞ』
どうやらこの階層にいるらしい。恐らく身動きが取れない状況なのだろう……生きているのなら。
そして救助するべき冒険者たちを発見した。できるだけ音を立てず、しかしできる限りの速さで近くに寄った。途中何かを踏みつぶしたが、気にしている余裕はない。
「おい、無事か?」
二人の顔色は青いどころか黒々としていたが生きてはいるようだ。衣服はボロボロで靴すら履いていない。これなら動くに動けないだろう。
「ひ、光早く、消して」
恐怖そのものでしかない表情を浮かべながら語るが狼狽がひどい。とにかく落ち着かせなければ。
「心配するな。光魔法の光ならロックリザードもワーム種も寄ってこない」
「違う、そうじゃない。光魔法なら僕たちも試した。けど、ここの魔物は、それでも近寄ってくる」
馬鹿な。話を聞く限りではどの魔物も光に反応しないはずだ。だが事実として重い足音はどんどん近づいてきた。
「ラッカー。カズール。二人を背負え。脱出するぞ」
念話ではなく二人にもわかるように肉声で指示を出す。
負傷者を守りながら戦うのは難しい。戦いの音に惹かれて他の魔物がやってくる可能性もある。逃げるが勝ちだ。




