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今まで来た道をできる限り急いで戻る。もちろんできるだけ音を立てずに。しかし、
『トダイ! 追ってきてるぞ!?』
『わかってる! くそ! 何でこんなにしつこいんだ!?』
『もう光魔法は使っていませんよ!?』
要救助者の言葉を受けて全員が暗視に切り替えているが追跡がやむ気配はない。足音から考えて追ってきているのはロックリザードだろう。それほど好戦的な魔物ではないはずだが……?
(考えろ! 何故あいつはおそってくる!? いや、これだけしつこい魔物が何故今まで傷ついた二人を放っておいた!?)
もしもここに棲むロックリザードが並外れて執念深いなら一日以上生きた人間を放置するなどありえない。なら襲わなかった理由、たった今襲いかかってきた理由があるはずだ。
もっとも初めに考えたのは音だ。わずかな音を頼りにするならじっとしていた二人が襲われなかったことは……いや違う。もしそうなら光魔法を使っただけで襲ってくることはないはずだ。あの二人だって音をたてないように気をつけて脱出を試みたはずだ。
(なら、臭いか!?)
それなら二人が襲われなかったことへの理由にならない。
(探せ! ここにしかなくて、他にはないもの!)
急ぎながらも周囲を観察する。あるのは岩だけ。いや、もう一つあまりにも小さい魔物。思わず踏みつぶしても気にならないほどの――――
不意にトダイの頭に光が奔った。
もうこれしかない。全員が安全に離脱する方法はこれ以外考えられない。
『全員聞け! 今すぐ靴を脱いでできるだけ遠くに放り投げろ!』
『はあっ!? 気が狂ったのか!?』
皆が狂人を見る眼付でこちらを睨むが議論してる暇はない。
「急げ! 全員で助かるにはそれしかない!」
トダイの剣幕に押されたのか全員が急いで靴を脱いでどこかに投げた。するとロックリザードと思しき魔物の足音は遠のいていった。
『何が起こったんだ?』
ラッカーも、ニッキも、カズールも、助けた冒険者二人も大きく目を見開いている。……まあ暗闇なのでそんな気がするだけだが。
「大したことじゃない。あの魔物は臭いにつられて動いていただけだ。」
小声で話したのは<念話>ができない二人も会話に加えることと、もう安全であることを示すためだ。洞窟ではストレスこそが最大の敵になる。
「ですが何の臭いに?」
「お、おれたちに何か妙な臭いがついていたとは、お、思えない」
この中で最も鼻のいいカズールがそういうなら間違いないだろう。しかしトダイは知っていた。
「世の中には人間には決して嗅ぐことのできない臭いがあるらしくてな。どれだけ鼻が良くても人には嗅げないらしい」
「ロックリザードはその臭いを嗅ぐことができたのか? けど、いったいいつそんな臭いがついたんだ?」
「あいつだよ」
トダイが指差したのは小型の、足元をちょろちょろしていた魔物だった。
「多分、あいつを踏みつぶすと魔物しかわからない臭いを出すはずだ。それにつられて他の魔物が近寄ってくる」
「なるほど。僕たちはいつの間にかあの魔物を踏みつぶしてしまったんですね? 急いでいれば気付かないか」
「そ、そしてあの小さな魔物は、ひ、光によって来る性質があるのかもな。そ、それなら目の見えない魔物が、ひ、光に集まるのも理解できる」
「だからあの魔物の臭いが付いていた靴を遠くへやったのか。……トダイ、よく気付いたな」
仲間たちが尊敬のまなざしで見つめてくるが、ほとんど博打だった。救助しに来た冒険者が靴を履いていなかったこともヒントになった。
「魔物の死体はすぐに消える。だからそうなれば臭いも消えるはずだ。もう少し待ってから脱出するぞ」
仲間も、疲労困憊の二人も重々しく頷いた。
「念のために言っておくが……あれは絶対に踏むなよ?」




