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トダイたちが件のダンジョンに辿り着いたのは日が暮れる直前だった。幸運にも一度も魔物に襲われなかった。
「あなた方が、救出に来てくれた、パーティーですか。あり、がとうございます」
言葉が途切れ途切れなのはこの若い冒険者が負傷しているからだろう。致命傷ではないが、放っておいていいはずはない怪我だ。運よく<念話>を習得していたため助けを呼ぶことができた。
「まずどこでどんな魔物に襲われたか聞いていいか?」
魔物の情報を全く持たずに突撃するのは駆け出し以下の冒険者しかいない。例え人命がかかっていたとしても。
「はい……巨大な、トカゲと、ミミズのような、魔物でした。暗くて、正確には、わかりません。けど、明らかに、報告よりも、強力な魔物、でした。階層は、4階でした」
「明かりは点けていたか? それと目はあったか?」
「はい、松明を点けて、いました。目は、トカゲには、無かったはずです」
しばし思案を巡らせる。洞窟に棲息する魔物には光を見ると大きく分けて三つの反応を示す。
逃げるか、近寄るか、何の反応もないかだ。
弱ければ逃げることが多く、強ければ近寄ることが多い。反応がない場合は視力を持っていない場合が多い。
光魔法や、<閃光>スキルを持つ魔物が多いと視力がある魔物も多くなる。今回の場合はやや判断が難しい。事前の情報は信用できないし、類推できる魔物なら視力はないはずだが……。
これは明かりをつけるかどうかという問題だ。<暗視>があれば最低限の戦闘はできるとはいえやはり元から暗闇に潜む魔物を相手にするには明かりがあったほうがいい。
「……明かりは光魔法を使うぞ。幻光機は持っているな?」
「もちろん持っていますよ」
ニッキはカンテラのような器具を取り出す。ここに光魔法を使うと長時間光が長持ちするようになり、町の街灯にも使用されている。松明だと臭いで魔物を引き付けてしまうこともあるため、この方法で明かりを確保する。
光魔法を使わなければならないニッキは戦闘が難しくなってしまうが、他のメンバーが暗視を使わずに戦闘できるメリットもある。一度に複数のスキルを発動するのは難しいのでそういった工夫がどうしても必要になる。
「君はここに残って俺たちを待て」
「いえ、僕も、行きます」
「駄目だ。足手まといにしかならん」
予想通りの言葉だからこそ認めるわけにはいかない。冒険者にとってパーティーの仲間は家族かそれ以上に大切な存在だから必死になるのは当然だ。しかし彼の怪我はとても戦える状態ではない。
それでも何か言おうとした青年を制して言葉を続ける。
「これ以上続けるなら、君を縛ってでもここに置いていく。それでもいいか?」
青年は項垂れながら小さな声で、よろしくお願いします、と言った。
「きゃ、キャンプは荒らされていないな」
ダンジョンの中には非常食や最低限の道具が置いてあるキャンプを設置する義務がある。これも冒険者が安全にダンジョンを探索するための制度だ。
「ここからは徹夜になる。五階まで進んで発見できなければ戻るぞ」
ちなみにここに来る前に一度仮眠をとっている。流石にあの青年の前で眠りこけるのはバツが悪すぎる。パーティー救出は任務だが、それ以上に自分のパーティーを危険にさらすわけにはいかない。酷だがこれもリーダーの義務だ。
「……さっきの奴を襲った魔物、何だと思う?」
ラッカーはこの依頼を受けてから言葉少なだ。それでも最低限の情報を共有する思考はきちんと残っている。
「トカゲはロックリザードだろう。ミミズは……ワーム種の大型か、キャリオンクロウラーだな。断定はできん」
どれも硬さと素早さを併せ持つ厄介な魔物だが、中でも面倒なのはキャリオンクロウラーだ。血の匂いに敏感で弱った生物を徹底的に追い詰める習性をもつ。こいつがいれば生存している可能性はかなり下がる。そしてそのいずれにも視力はないはずだからこそ、光魔法なら魔物を引きつけないはずだ。
『ここからは<念話>で会話するぞ』
全員が無言で頷く。ニッキとラッカーは念話が使えないので念話のオーブを借りている。もちろん代金は店主が払う。音に敏感な魔物が多い洞窟では必須の戦術だ。
こういった戦術に精通しているからこそ結束祭前日にまで働く羽目になってしまったのは皮肉だがこれも仕事だ。せいぜい早く終わらせてアレが始まるまでに戻るとしよう。




