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「あんたもこの国ではパーティーを抜けるのが難しい理由はわかるね?」
「例の建国神話ですよね? 有名な話ですから私も知ってますよ。要するに冒険者万歳ってことでしょう?」
あれを単なる建国神話だと思っているのなら認識が甘い。
あれはもはや呪いだ。
「英雄王が冒険者という存在を作ってからこの国ではずっと冒険者は素晴らしい。冒険者は仲間を裏切らない。冒険者には夢がある。そう言い続けられてきた」
「そんなの危険な冒険者って職業に人を集めるための方便でしょう?」
冒険の最中に命を落とすことは珍しいことではない。よその国では冒険者は食い詰め者のなる仕事だ。それでも必要な仕事だから何とかして人を集めなくてはいけない。そういう事情もあるにはある。
「違うんだよ。この国では本当にそう信じられていた。現実を思い知った冒険者でもそうだった」
ネモアの顔が驚きというよりは困惑に近い表情を作る。やはり外の人間でもこの国がどれだけ異常な状態かすぐには理解できないようだ。理解できる可能性があるだけましだが。
「例えばさっき言った借金を作らせる作戦。あれは一昔前じゃ通用しなかったんだよ」
同じパーティーの仲間の借金を肩代わりするくらい当たり前だと思われてたからね
密やかに、けれどはっきりと声を響かせる。
「……はい? いや……その借金って、例えば自分がギャンブルですった結果でも……ですか?」
「その通りだよ」
こめかみに手を当て、頭痛をこらえているような表情を作る。理解不能を超えて意味不明だとでも言いたいようだ。
「いやそれどう考えてもおかしいでしょう。なんでもともと赤の他人だった奴の尻ぬぐいをしなきゃならないんですか?」
「同じパーティーの仲間を助けるのは当然だろう?」
悩みぬいた表情が面白くてつい意地悪をしてしまう。あたしもまだまだ若いね。
「パーティーを抜けた奴は裏切り者扱いが当たり前。仕事はなく、下手すりゃ私刑にまで発展していたからね。だれもパーティーを抜けようなんて思わなかったのさ。場合によっては仲間に抜けられたパーティーでさえ厳しい視線に当てられることもあったそうだよ」
「そういえば最初に他のギルドに所属していたかどうか聞きますよね。どれだけ厳しいんですか。頭おかしいんじゃないですか」
その気持ちはよくわかる。
「パーティーが欠けても文句を言われないこともあったがね」
ぱっと明るい表情を作ったがすぐに消えた。
「すいません。オチが読めたのでそれ以上は
「パーティーメンバーが死んだ時だよ」
「うわあ聞きたくなかったその事実! てかそれパーティー内の殺し合いに発展してませんか!? むしろ抜けた奴を積極的に殺そうとする奴もいたんじゃないですか!?」
「いたかもね。まあ<誓約>があるから滅多なことはできないけどね」
「あーもしかして別のパーティーに嘱託殺人を依頼してたりとか……」
「ありうるね」
「さっきから何なんですか! すごく楽しそうですよ!? でもそんなライシャさんも素敵です!」
「どさくさに紛れて何言ってんだい」
ネモアはやや荒くなった息を整えながら話を纏めようとする。
「この国でパーティーを抜けるのが難しかったのはよくわかりました。今はどうなんですか?」
「だいぶましになってるね。魔族の侵攻や、ドワーフやエルフとの対立が激化したせいで他国との交流が増えてきたからだろう。それでも抜けることに抵抗感がある奴が多いけどね」
ドワーフやエルフ……いわゆる亜人と呼ばれる人々はこの国にもいて、産業の一部を担っていたが、最近は関係が悪化しているため亜人たちが作っていたものを外国から輸入せざるを得なくなっている。かなり閉鎖的だったこの国が内輪もめによって外に開かれるというのも皮肉な話だ。
「そもそも英雄王の直系が治めているからってそこまで盲目的になるんですか? 他の国では違いますよ?」
「建国神話を一歳の子供にも聞かせるような国だからね。徹底的に布教してるのさ」
「それにしたって異常ですよ……」
「あたしだって全てを理解しているわけじゃない。なんでこうなっちまったのかはわからないよ。ただまあそうだね……人間てのは結局心の拠り所が欲しいんじゃないかね」
「拠り所ですか?」
「そう。例えばあんたは自分が絶対に信用できる人間が何人いる?」
「一人だけです。ライシャさんだけですし、他には必要ありません」
即答だった。あまりにも躊躇わずに答えたものだからライシャでさえ思わず面食らった。
「あ! 今のきゅんってきましたか? 照れたりしちゃいましたか? キャー、やったー!」
「本当に口の減らない娘だね」
その辺りのずぶとさも将来有望なのは確かだ。
ごほんと咳払いしてから話を戻す。
「まあ人間が本当に信用できる他人なんて一人いれば多い方。誰一人信用できない方が多い世の中だよ」
恋人だろうが家族だろうが仲間だろうが裏切る時は裏切る。人間なんてそんなもんだ。例えどれだけ生活が豊かになったところでそれは変わらないだろう。
「だから冒険者に絶対に裏切らない象徴のようなものを押し付けてるわけですか。押し付けられてる方もそれを受け入れてしまったということですね」
ネモアは得心がいったとばかりに野暮ったい旅装束でもそれがわかってしまう大きな胸を反らす。この切り替えの早さはライシャの若いころを確実に上回っている。
「でも意外と仕事ってこないんですね。私がここにきてからこれが初めてじゃないですか」
「別に追放屋はあたしたちだけじゃない。あんたにそれとかを仕込んでいる間他に仕事を回していたのさ」
それ、とはネモアの服、つまりは変装技術のことだ。
ネモアはあまり目立たない顔立ちをしているが、だからこそ変装を生かしやすい。例えばその大きな胸を普段の店員ではわかり辛い服装にしておく。いざ変装を行った時にその胸を強調する服装にすれば愚かな男どもの視線はそこに集中するだろう。顔を気にするよりも。
決してライシャの がないからではない。昔から今まで さいからではない。決してないのである。
「まあ、これからは忙しくなるさ」
「何でですか?」
「結束祭が終わったからね」
ネモアがまたなんとも言い難い表情を作る。おおよその展開は予想できているようだ。
「あれですか。祭りが始まる時にソロだと居づらいとか、でも勢いでパーティーを組んだけどやっぱり合わないってことに気付いたパターンですか」
「後は祭りでのはしゃぎっぷりに愛想を尽かせたとかだね」
「もう離縁祭に改名したほうがいいんじゃないですか」
「違いない。あたしもその方がいいと思ってるよ」
はーやれやれ。そう言わんばかりに首を振る。
「最後に聞いていいですか?」
「何だい?」
「今回の依頼人って誰だったんですか」
「誰だと思う?」
「教える気ありませんよね?」
「わかってるじゃないか」
ライシャは不敵な笑みを、ネモアはいたずらっ子のように微笑んだ。




