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「では失礼します」
黒い女はそう言うと裏口から出ていった。その動作にはよどみが一切ない。
「あの人もダフト君が作ったゴーレムなんですよね? 依頼人との仲介を担当してるんでしたっけ?」
「そうだよ。メルもダフトの作ったゴーレムだ」
「言われなきゃ全く分かりませんね。一体<ゴーレム作成>のスキルレベルいくつくらいあるんですか?」
「その辺は企業秘密だ。で? 他にも何か聞きたいことがあるんだろう?」
「はい! たくさんありますよ!」
ネモアは目を輝かせながら一つずつ質問を始めた。
「まずライシャさんはどうしてこの仕事を始めたんですか?」
「やっとかい。いつ質問されるかと思ってたんだけどね。ま、答えとしては単に需要があるからだね」
「うーん、そうなんでしょうけどしっくりこないんですよね。一度仕事をしてみたらわかるかなーって思ってたんですけど。回りくどすぎるっていうか。確かに損をした人は少ないようですけど」
ふむ。自分で考えようとする姿勢は悪くないし、何より疑問を持っている。それこそがこの娘を手元に置く理由でもある。
「まずは仕事の手順を振り返ってみようか。今回は上手くいったからね。いい勉強になったはずだよ。言ってごらん」
「誰かから依頼があれば黒い服のゴーレムで依頼人に接触する。あまりにも悪質な冒険者は依頼がなくても追放する場合もあるんですよね? ダフト君のゴーレムでアルさんを篭絡してから、トラブルを起こす。上手くいけばアルさんは自分でパーティーを抜け、駄目だった場合はこちらから追い詰める。アルさんが自分から辞めなければどうするつもりだったんですか?」
「手っ取り早いのはメルの兄や母親を登場させてメルを無理矢理田舎に連れ帰らせるふりをして、アルの庇護欲をそそったり、あるいはアルを詐欺に嵌めるふりをして借金をさせてからメルを失踪させてアルを裏切ったように見せかけるってところか」
「えぐいですねー」
「こんなもんは序の口さ。あんたにもツインスコーピオをアルたちに攻撃させて危機を演出させただろう?」
「上手く誘導出来て良かったです。吊り橋効果って奴ですか? いざとなったら助けるつもりでしたけど」
「ユッカは優秀な魔法使いだったし、アルの頭がまともならあたしが気付いたことくらいそのうち気付くと思ったさ」
ダンジョンが二つあることや、その二つのダンジョンが全く異なっていること。これらは事前に調べていたネモアからの報告ですでにわかっていた。アルの性格なら恐らく依頼を受けてユッカたちと接触することも。
「ユッカちゃんについてはどこまで知ってたんですか」
「少なくとも兄貴が馬鹿だってことは知ってたさ。アルに自身を取り戻させるには誰かを助けさせるのが一番だったからね。利用ついでに人助けだ」
ネモアは、んーと思案気な表情を見せる。
「そもそもアル君にそこまで目をかける理由は何ですか?」
「これはあたしの落ち度なんだけどね。あの子の才能は前線向きじゃなかったんだよ」
「頭が切れるってことですか?」
「そうだね。特にダンジョンや魔物の分析に長けていた」
アルの才能は予め作戦を練ったり、人を指揮したりすることに向いていた。ややまじめすぎるためグループのトップよりも参謀向きだったと言える。あえてパーティーを組まさずにギルドお抱えのアドバイザーのようなポジションが理想的だっただろう。
「つまりセクトさんじゃアルさんを使いこなせなかった。更にアルさんはいかにも冒険者らしいやり方で名を上げることに執着してしまったと」
やはりこの娘の頭はよく回る。教えたことを繰り返すだけでなく自分の中で昇華させている。
はっきり言ってアルとセクトの組み合わせは最悪だった。得意分野と役割が合っていない。立場を入れ替えたりすればまだ救いがあったがそれができるほど器用でも不真面目でもなかった。
つまり冒険者のリーダーは最も強いものがなるべきだという誤った認識を捨てることができなかった。愚かなことだ。戦士の才と軍師の才は異なるというのに。
「あたしが上手く誘導するかそもそもパーティーを組ませなきゃよかったんだがね。ちと目を離したすきにパーティーを組んじまってた」
ネモアの前任者にはきちんとアルの長所を説明したが、セクトなら使いこなすことができると判断してしまったらしい。一度パーティーを組むとそこから抜け出せなくなることはよくわかっていたはずなんだけどね。
あいつは演技も得意で頭もよかったが、人を見る目がなかった、あるいは人を信じすぎるきらいがあった。だからこそ新しくネモアを迎え入れた。
「もっと早くに解散させるつもりだったけどね。あたしが怪我したりあんたの面倒を見ていて遅れちまった。まあそのおかげで準備は色々できたよ」
「プレゼントの噂とかやっぱり仕込みだったんですね。じゃあやっぱり宿屋のおじいさんはグルですか」
「あのじじいとは腐れ縁でね」
噂を意図的に流し、伝えたり、さらに偽物の手紙を書いたり……もう今回のような共犯関係が二十年以上続いている。
ふと見ると何やらネモアは難しい表情をしていた。気に障るようなことは言っていないはずだが……?
「やっぱりあのおじいさんが最大のライバルかあ」
「なに言ってんだいあんたは」
あのじじいとあたしはそういう関係ではないし、例えそうだったとしても気にするようなことじゃないだろう。ネモアは少しの間明後日の方向へと頭を巡らせたようだが襟を正し質問を続けた。
「今回はセクトさんを悪者に仕立て上げたようなものですけど別に誰かに責任を負わせるようなことをしなくてもいいんじゃないですか?」
多分無理だと思いますけど。そう付け足したそうだが疑問に思ったことはひとまず質問するつもりなのかもしれない。
「あたしの経験上、誰か一人に悪役を押し付けた方がいいんだよ」
「人間は責任を誰かに取らせたがる生き物ですよね」
まったくもってその通り。質の悪いことに無関係な人間ほど責任の所在を明らかにしたがる。自分が責任を取らなくてもいいとなると人は攻撃的になるらしい。
「最初の質問に戻りますけど、なんで追放屋なんて必要なんですか? 普通にパーティーを抜ければいいじゃないですか」
そう。その疑問だ。それがどうしても追放屋に必要不可欠な資質。
そもそも一昔前ならパーティーを抜けるという発想すらなかったこの国の人間では、ほぼ全ての人間が持ちえない資質だった。




