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ロタンの町にある開店前の青い紫陽花亭では連日変わらない光景が展開されていた。
「お願いします。ライシャさん。アルの行方を教えてください」
頭を下げているのはセクトとサフィだ。アルがギルドを辞めてから毎日頼みに来ている。
「しつこいね。教える理由はないよ。知りたきゃ自分で探しな」
「探しました。けど、見つからないんです。手掛かりすら見つからない」
「なら諦めるこったね。実力不足のアルをあたしが別の仕事を勧めた。アルもそれを受け入れた。それで何の不満があるんだい?」
「急すぎます! それに、アルには……」
セクトが言い終わる前に、扉が開け放たれ、メルの手を強引に引いたナナが店に入ってきた。
「ねえ、これどういうこと?」
そう言ってナナは一枚の手紙を机に叩きつけた。
「その手紙は……?」
疑問に答えたのはメルだった。
「宿屋のおじさんから受け取りました。アルさんから私宛に預かっていたものらしいです……。何日か経てば渡してほしいと。私は字が読めないからナナさんに読んでもらったんですけど……」
セクトは貪るように手紙を読むと驚愕に目を見開いた。そこにはアルがギルドを辞めた経緯が書いてあった。
「ねえ、もう一度聞くよ。そこに書いてあることは本当?」
「確かに僕はメル君にアクセサリーを贈ったけどそれは結束祭当日にアルに渡すためのものだ! 噂ではパーティーメンバーに手渡された品を贈ればいいと……」
「何それ! 私が聞いた話は結束祭の前日と当日にプレゼントを贈ると結ばれるってことだよ!?」
「二人とも落ち着きなさい! 私はそんな噂どっちも聞いたこともないわよ!」
サフィの一喝にようやく場が静まり返った。
「メル。セクト。ナナ。あんたらは誰からそんな噂を聞いたんだい」
間違いなくこの場で最も冷静なラスティに場を仕切られてようやく話し合いになり始めた。
「私は宿屋のおじさんから」
「僕もです」
「私は別のギルドの冒険者から……」
噂とは出所とは定かならぬものだ。その信憑性も同様に。それゆえに別の場所から発生した噂が異なる内容であることは十分考えられる。
「僕たちは噂に踊らされたってことなのか……?」
セクトが愕然としているとナナが怒りの表情でアルに詰め寄った。
「問題はそうじゃないでしょ! セクトが女の子に声をかけることが多すぎるのがいけないの!」
「そ、そんなつもりじゃ……僕は手助けをしようと……」
「セクトはそんなつもりじゃなくても女の子や周りの男はそうじゃないの! 何でわかんないかなあ!」
「ナナ! 言い過ぎよ! あなただってアルに何もしてあげられなかったじゃない!」
ナナはビクっと身を震わせて一歩後ずさった。
そしてしばしの間動きを止めたが、やがて出口に向かって歩き出した。
「ナナ……何処へ?」
「ごめん。あたしもうこのパーティーでやっていける自信がない。2人には悪いけどあたしもパーティーを抜ける」
その背中は細く、今にも折れてしまいそうだった。
「ナナ……ごめん」
「私も……言い過ぎました。ごめんなさい」
ナナは一度足を止めたが、それでも振り返らずに扉を開けた。
「あんたらも頭を冷やしときな」
そう言うとラスティはナナを追って店から出た。
「ナナ。待ちな」
「ラスティさん……」
ナナはどこか安堵した表情でラスティを見た。
「せめて登録抹消ぐらいしな。ここには戻り辛いだろうから別のギルドに行くんだろう?」
「……はい」
「それと、事情を書いた紹介文を渡しておく。まだ冒険者を続けるつもりなら次に行くギルドでそいつを見せな」
「でも、それじゃセクトが悪者みたいに……」
「パーティーを抜けるってことを甘く考えすぎだよ。一度パーティーを抜けた冒険者を加えたがらないギルドや冒険者は多い。納得できる事情がないとこれからやっていくことはできないよ」
「ありがとうございます……それと……ごめんなさい」
「ひとまず紙と筆がある場所に行くよ。ついてきな」
ふんっと鼻を鳴らしたラスティは近場のギルドへと歩き始め、ナナもそれに続いた。
「あの、セクトさん……私……」
メルは今にも泣きだしそうな顔で口を開いた。
「君は何も悪くないよ。でも……もう会わない方がいいと思う」
一度頭を下げると、メルもまたここから出ていき、二人だけが残された。
「みんないなくなっちゃったな。僕のせいだ……」
「大丈夫よ。まだ私がいるわ。私はずっと一緒にいる。絶対に裏切らない」
「サフィ……ありがとう」
「また、新しく始めましょう。何もかもなくなってしまったわけじゃないもの」
二人はゆっくりと抱き合い、セクトは涙を流していた。
サフィは――――唇を吊り上げていた。
まるでこうなればいいと思っていたかのように。
セクトとサフィを見送り、ラスティ一人になった店内に一人の女が現れた。黒髪黒服の無機質な人形めいた女だった。
「で? あの二人はどうなった?」
「概ね、予想通りかと。メルはもう戻しました」
そのイメージ通り、黒服の女は無機質な声でラスティと会話を続ける。じっとこちらを見つめる瞳は一度も瞬きをしていない。
「そうかい。念話で確認したけどあっちも上手くいったようだね。すぐこっちに戻って来るそうだ」
彼女たちは一体何を話しているのか。それを理解できるものはそう多くないだろう。
ゆらりと陽炎のように店内が歪むと一人の女性が現れた。尋常の手段ではない。スキル<転移>によるものだ。
そして現れた女性は旅装束に身を纏った行商人、ケリーだった。いや、そうであるはずだった。
「お疲れさま。初仕事はどうだった? ネモア」
「いやー、緊張しました。ちょっと危なかったけど上手くできましたよ!」
「ならいいさ。久方ぶりの仕事だったが、上手くいったようだ。これで追放屋"赤い紫陽花"任務完了だ」




