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「ふむ。つまりアル君がダンジョンを見つけると突然裏切ったと?」
ケリーは息も絶え絶えといった様子で村に駆け込んできた彼の話を聞いていた。
「ああ。あの野郎俺たちが見つけたダンジョンを横取りするつもりだったに違いねえ。そのせいでこっちは妹まで殺されたんだ。これは報酬に色を付けてもらわねえとな」
滔々と語る彼の顔に悲嘆の色も悔恨の念も全く感じられない。あるのはただ欲望と自己の保身のみ。
「……彼はそんなことをする人には見えなかったんだが……」
「見えたかどうかじゃねーよ! 実際に何をしたかだ! いいからさっさと金を寄越せ!」
「そこまでにしてもらおうか」
背後から声をかけたのはアルだ。
その声に舌打ちを漏らしたが、彼がそれ以上に驚いたのは少女の存在だった。
「何でてめえが生き……!」
慌てて口を閉ざすがもう遅い。
「ケリー、今の言葉を聞いたか?」
「ええもちろん。聞きましたとも」
相変わらず芝居がかった動作だったが今はどうでもいい。
「こいつはオレたちを捨て駒にした。しかもオレに濡れ衣を着せようとしたみたいだな。これだけでも十分こいつを捕まえる理由になるはずだ」
「なりますねえ」
「ふ、ふざけんな! 嘘を吐いてるのはこいつだ! なんの証拠がある!」
「おや、それなら<誓約>を使いましょうか?」
ケリーの言葉にうっ、とひるむ。その時点で誰が犯人かは決まったようなものだ。
「ユ、ユッカ! お前はどうだ? 兄を疑ったりしないよな?」
びくりと身を震わせる。その目はあちこちをさまよっている。アルと目があう。
「君が決めるんだ。自分がどうしたいかを」
手も、声も、唇も、何もかも震えていたが、顔を上げ、彼女は言いきった。
「拾ってくれたことは感謝しています。……けど、もう貴方の言いなりにはなりたくありません。無理矢理お金をだまし取ったり、ダンジョンを盗掘したり……悪いことに手を貸すことは、できません!」
「ユッカァァァァ! テメ――――!???!?」
彼が言葉を言い終わることはなかった。アルの拳が顔面にめり込んだからだ。
彼の体はふらふらと回転しながら地面に倒れ込んだ。
こうなった事情を説明し、ダンジョンが二つある可能性が高いこと、ギルドに報告したほうが良いことを進言する。
「事後処理は私がしておきましょう。お二人は好きにしてください」
この娘をどうにかするつもりはないようだ。多分全責任を兄貴に押し付けるつもりだろう。はっきり言えばその方があと腐れがない。恐らくはケリーにとっても。
ケリーは立ち去ろうとしたが、一応聞いておきたいことがある。
「で? 誓約なんか使えたのか?」
「無理に決まってるでしょう?」
やはりはったりだったか。そもそもこいつの正体は何者だ? ただの行商人にしては肝が据わりすぎているが……? 気にしても藪蛇なだけか。
「ありがとうございました」
少女は折り目正しく礼を述べた。
「助かったのは運が良かっただけだよ」
「それだけじゃありません。兄さんは、きちんと裁かれるべきだってわかっていたから。私もそうなるべきなのに――――」
「無理矢理手伝わされていた人は罪には問われないよ」
あれに大犯罪をする度胸があるとも思えないから、小狡い犯罪ばかりだろうけど、それでも最悪感はそう簡単に消えてくれないらしい。
だからこそ、これからの話をするために最初にちゃんとするべきだったことをしないと。
「オレはアル。君の名前は何て言うんだい?」
「えっと、私の名前知ってますよね?」
もちろん知っている。そこで延びている男が何度も言っていたがそうじゃない。
「君の口から聞きたいんだ」
少し顔を赤らめながら彼女は答えた。
「ユッカです」
「名前を教えてくれてありがとう。それで君はこれからどうする?」
「わかりません。ずっとあの人についていくだけでしたから。もう私の居場所はありません」
「オレも今までいたギルドを辞めることになってさ、行くところがないんだ。だから――――」
これからのための言葉を口にする。やり直すとは違う。
オレは間違えてしまった。もう後戻りはできないし、してはいけない。だから新しく始めよう。上手くいかないこともあるだろう。悩むことも傷つくこともあるはずだ。
けれど失敗しながらでも前に進むことはできる。誰かと一緒なら。
「だから――――オレとパーティーを組んでくれないか?」
ユッカは泣きそうな顔で微笑んで――――




