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緑が目に飛び込んでくる。ダンジョンに入ったが休んでいる暇はない。一瞬でも止まれば死ぬ。
彼女もちゃんと走っているが、当然のようにツインスコーピオは追ってきた。そう遠くないうちに追いつかれるだろう。それは森の中でも変わらない。
だからこそこの策に賭けるしかなかった。
息を大きく吸い込み、スキル<発声>を使う。発声は声を出すスキルでレベルが上がると本人には出せない声や耳がつぶれるほどの大声を出すことができる。
息を乱さないぎりぎりのラインを見極めて力の限りできる限りグレイウルフの遠吠えに似せて叫んだ。ツインスコーピオは意にも介さずこちらを追ってくる。だが前方に多数の影が見える。グレイウルフだ。一匹なら弱いけど群れると厄介な魔物だ。
前門の狼後門の蠍。逃げ場はない。少女の顔に恐怖が混じる。
良かった。そんな表情もできるんだ。この絶対絶命の状況でもそんなことを考えていた。
狼の群れは風のように迫り、そして――――
オレ達を完全に無視して蠍へと襲いかかった。
蠍の足に、尾に、噛みついて少しでも動きを鈍らせようとしている。蠍も負けじと一匹ずつ狼を屠っていき、魔物同士の戦いは激しさを増す。
「ぼーっとするな。今のうちに逃げるぞ」
「はっ、はい」
狼と蠍を迂回して出口へと向かう。外に出てもまだ安心できずにしばらく走り続け、ようやく足を止めたのはへとへとになって動けなくなったころだった。
「あの、どうしてグレイウルフはツインスコーピオを襲ったんですか?」
少女はずっと思っていたであろう疑問を口にした。それには順序立てて説明しなければならない。
「質問に質問を返すようで悪いけど、どうしてあそこにツインスコーピオがいたと思う」
「あのダンジョンから産まれた……はずですよね」
ダンジョンが作られるとそこから魔物が産まれる。しかもダンジョンを放置しておくとそのうち魔物は復活する。だからツインスコーピオはあのダンジョンで産まれたと思ってしまった。
「違う。ツインスコーピオは別のダンジョンで産まれたんだ。この近くに別のダンジョンがある。そこで産まれたはずだ」
あっ、と声を出す。それで大体の謎は説明できるからだ。
今入ったダンジョンからは絶対にツインスコーピオは産まれない。ダンジョンの環境からも規模からも間違いない。
だからあのツインスコーピオは別のダンジョンから産まれた。恐らくさっき出てきたダンジョンがぎりぎりあのツインスコーピオの活動範囲に入っていたんだろう。そのせいで他のダンジョンがあることに気が付かなかった。
同じダンジョンから産まれた魔物は争わないけど別のダンジョンの魔物は争い合う。もしも魔物同士が争っている場面に遭遇したら近場に二つダンジョンがある可能性を疑え、そう教えられた。
「でもどうしてグレイウルフは私たちを襲わずにツインスコーピオに襲いかかったんですか?」
「グレイウルフは縄張りに入った最も強い敵を排除する性質がある。仲間のふりをした遠吠えでグレイウルフをおびき出せば勝手に戦いを始めてくれる」
普通の狼ならそんなことはありえない。むしろ弱った獲物を優先して狙う。腹を満たすにはその方が手っ取り早いからだ。
けど魔物は普通の生物じゃない。そもそも食べ物を必要としない。一般的にはダンジョンから魔力を供給されて生きていると言われている。魔物が他の生き物を襲うのはダンジョンの核に近づかせないためだとか。
「正直に言って分の悪い賭けだったけど上手くいって良かった」
「……ありがとうございました。生き永らえたのは貴方のおかげです」
まだ終わっていない。むしろここからが重要だ。この娘を助けるためには。
彼女はさっき怯えていた。それはきっとこの娘も生きたいと思っている証拠だ。もしも助けてほしいと思っているのにそういえないのなら――――
「オレはこれから村に戻って事のあらましを説明して、君の兄を糾弾するつもりだ。君はどうする? いや、どうしたい?」
「……私は――――




