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2-P

 ラクトは父ラーグを殺した鬼に復讐するために生きている。


 それは今から数えれば五年も前の話だ。同じ悲劇にあった人間でも、傷も癒え、新しい出発を迎えている者もいる。

 だがラクトはそうでは無かった。今でも目を閉じれば思い出すのだ。

 機体の背中に損傷を負い、動けなくなっているラーグ機。それを見下ろすように立ちはだかる黒鬼。その片目からは血が流れ、残った目は真っ赤に燃えてラーグ機を狙う。


 ――やめろ!

 

 当時のラクトと、今のラクトの心の声が重なる。黒鬼が金棒を振り上げるのを見て、焦燥感が声として迸る。が、それが結果を変えはしない。

 振り下ろされた金棒はラーグ機を粉砕し、そのコクピットまでをも叩き潰した。


 その後、黒鬼がラクトの方を向いた、というのは思い込みかもしれない。が、いずれにせよ彼はラクトを襲うことなくその場を後にした。

 その時にラクトが感じたのは自身の命が助かった事への安堵では無かった。

 ――憎悪であった。


「殺してやるっ!」


 自身が死んでいたかもしれない、という恐怖を塗りつぶす程の憎悪。実力が足りずその時の自分では追いかけて仇を取る事すら、いやそれ以前に父ラーグの手助けに入る事すらできなかったことへの悔恨。そしてそれ故に生まれた殺意。


 父を殺した黒鬼を殺す。

 ラクトはその後の人生をただその為だけに歩み続けている。

 足りない実力を伸ばし、足りない情報をかき集め、足りない実績を積み上げてきた。そしてそれを邪魔するものは排除してただひたすらに突き進んできた。

 それは復讐の旅路。

 ラクトの芯を支え、奥底で燃え盛り、身体を動かす原動力。それは復讐に他ならなかった。


 ――――そして今、ラクトの手元に仇の黒鬼の情報が転がり込んできた。


 ラクトはこの五年、自身の実力を伸ばし実績を積むと同時に、片目の黒鬼の情報を収集してきた。が、その行方はようとして知れなかった。

 今なら分かるが、恐らく彼の基本的な行動範囲の外だったのだろう。それ故、ラクトの活動範囲での情報が集まらなかった。また、鬼の社会は人間のそれとは異なるが故に、情報が入りにくい。結果としてラクトは、鬼の関わる事件とあらば少しでも首を突っ込み、情報の欠片を探すという事を続けてきたのである。


 そして今回、それが実ったのだ。父親を殺した片目の黒鬼の情報が、ついにその手に。

 であればその後のラクトの行動は決まっている。いつもの活動拠点にしているヴァルガドに戻り、ロイドに向かっての直談判である。

 ラクトとて鬼の脅威は分かっている。一人で太刀打ちできるとも思っていない。しかし、ロイドがいれば話が違う。彼がいれば軍が動かせる。そして他の鬼を抑えてもらっている間に、ラクトが黒鬼を殺すのだ。

 その事を思い浮かべるだけで口の端が吊り上がっていくのをラクトは止められない。


 ――もうすぐ、復讐ができる。


 それはこの五年願い続け、積み重ね続けてきた思いの結晶。それを邪魔する全てを排除し、ひたすらに目指したもの。

 ロイドとて上司であるラーグを殺された無念の思いは同じだ。

 ラクトは自分のその願いが受け入れられると思い疑っていなかった。


 ――――が。


 ロイドの隣にいる眼鏡の副隊長オランドが、ロイドが何かを口にするよりも先に、冷静な声で言い放った。


「軍は出せませんね」

「なんだとっ!?」


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