3-E
「うわぁぁぁぁぁ、ジンガの兄貴がやられたっ! もう逃げるしかねぇ、撤退だっ!」
そんな声を誰が上げたのかは分かっていない。だがこれが今回の戦場に止めを刺す事になった。
ジンガという圧倒的カリスマの敗北を決定的にする情報の流布。そしてそれを聞いて混乱する鬼達に次いで響いて来る撤退という指示。鬼達は一も二もなくそれに飛びつき、総崩れとなって退却していった。
それはまだ戦おうとしていたロダであっても止められる勢いでは無かった。結局三つの戦場で戦っていた鬼達の生き残りは全員が逃げていく事になった。
オライガの守備隊は何とか守り抜けたと安堵していたが、ロイド率いるヴァルガドの兵達は逃げていく鬼達の追撃をやっているようだった。
しかしAX1を失ったラクトにできることは無い。叫びすぎて喉が枯れたラクトは、また横たわるジンガの側に立った。まだ何か恨み言を言ってやらないと気がすまない、とでも言うように。
「おい。仇、とったぞ。とってやったぞ。ざまぁ見ろ」
「……だから、お前の親なぞ……知らんと言っただろう……」
答えがあると思っていなかったラクトはビクリとし、後ろに飛ぶ。が、わずかに開いたジンガの目は既に濁っており、もうすぐ絶命する事に間違いはなかった。鬼の生命力が最後に喋らせているだけだ。
「なんで知らねぇんだよ。お前の片目を奪った男だぞ?」
「なん、だと?」
それを聞いたジンガの目が僅かに見開かれる。
「それを……先に言え。それなら覚えている。あの勿体なかった男だな……」
「覚えてたのか――って勿体無いって何だよ」
「俺と会った時……あいつは既に手負いだった。動きもおかしかった。……にも拘わらず、俺の片目を奪って見せた。万全の時に戦えていたならば、どんなに……」
「はぁっ!? 待て、お前が背中から襲ったんじゃないのか?」
「馬鹿を……言うな、そんな勿体ない事をして……どうする……」
限界が近づいてきたのかジンガの声が途切れ途切れになってくる。だが、ラクトにとっては聞き捨てならない事だった。ジンガと戦っていた時に薄々感じていた事だった。こいつの精神性はともかくとして、もし背中から攻撃していたら”ちょっと手負いになった”では済まない致命傷を受けるだろうとも。
何しろ実際、ジンガはその一撃でラーグ機を叩き潰せるだけの攻撃をできてしまうのだから。
が、それを問いただそうとするラクトの声はすでにジンガには届かない。ゆっくりとした独り言がジンガの口から洩れるのみ。
「そう考えると……お前ら親子は二代続けて、俺に面白い戦いを提供してくれた……のか。それは…………」
それがジンガの最期の言葉になった。何も言わず、そしてどこか満足したような死に顔を晒すジンガを見て、ラクトの身体がワナワナと震える。
「何だってんだ? ――一体、何だってんだよ!」
ラクトによる、ジンガへの復讐は終わった。
――ラクトの心に、一抹の疑念を残して。




