3-5
「ラクトはんっ!」
「行かせねぇって言ってるだろ?」
AX1の片足がもぎ取られたのを見て、イーシャが焦りの声を上げ駆け付けようとするも、視線の先にブラスが割り込んできてイーシャに張り手を繰り出してくる。
速度については僅かにイーシャの方が速い為、イーシャはその突き出された腕を横合いから弾こうとする。だが裏拳と共に流し込んだ筈の勁力はブラスの腕を動かすには足りず、逆にイーシャの拳の方がはじき返される事になった。
「ちっ――」
「捕まえ――って逃げるの速いな」
ブラスの体勢を全く崩せないと分かった瞬間、イーシャは後ろに飛ぶ。勁術の一つ、軽巧と呼ばれるもので、その身軽さをとらえきれずブラスは舌打ちをした。
その体格からイーシャの目からはやや鈍重に見えるものの、それは決して付け込む隙には成ってくれない事はイーシャも良くわかっていた。敵の攻撃を避ける事ができても、こちらの攻撃を当てる事ができない。それどころか当たってもダメージを与える事ができないのだ。
(勁力が決定的に足りない――)
勁力とは単純に言えば、武術による筋力や体重移動による力と勁術による霊体同期を掛け合わせた上で出す事ができる力の事である。
勁術を修める事ができれば武侠と呼ばれるが、それは決して勁術を極めたという事にはならない。むしろそこから一生、勁力を高めていくという修行が続いていく事になるのだ。
イーシャはホウライで勁術を修めた後は、勁力を高める修行もそこそこに仙術を習う為にコンロンに登ってしまった。そしてコンロンも早期に降りてしまったために、イーシャはそこからは武侠としての勁力の鍛錬ではなく、ギルドメンバーとしての実戦の積み重ねをしていく事になった。
勿論、実戦で得た経験は確かに自分の実力ともなっているし、仮に勁術を修めたあの日からただ勁力を高める鍛錬に明け暮れたとしても、その自分と今の自分とが戦えば勝利を収める自信はあった。
だがしかし、仮に鍛錬を続けていればこそ得られた勁力があれば、もしかしたらなんとかなったのかもしれないし、それでも立ち向かえない程の壁があるのかもしれない。
そうイーシャが絶望する程度には、ブラスとの実力差はあるように思えた。
イーシャの勁術ではどうあっても敵わない。では、その後に求めた仙術では対抗できるのだろうか?
そう自問したイーシャは、即座に答える事もできなかった。なにしろイーシャは、結局の所、仙術を修める事が出来なかったのだ。
仙術とは自分の霊体の方に肉体を委ね、大自然との融合すら果たす事ができる神秘の術である。イーシャは自分が水との相性が良い事から、水を司る仙人である水仙を師と仰いで修行する事としたのだが、師は自身の身体を水へと変じ、通り抜ける事が困難な狭い隙間でさえ通り抜けてみせてくれた。
まるで花の名前のような呼称を持つ師の下でイーシャは修行に励んだが、初歩の術を少し学んだ段階で師がイーシャに言い放った言葉が”仙骨が無い”であった。
これは仙人流の言い回しであり、意味合いとしては”才能が無い”という事だった。
武術は例え才能が無くとも努力を積み重ねる事で一定の領域へたどり着く事ができる。
勁術は才能が無いと習得するのは難しいが、しかし努力で補う事ができる。
だが仙術は才能が無いと努力をする土台すら持たせてくれない、圧倒的に才能がものを言う領域だったのだ。
仙術としての初歩を少しだけ扱う事ができる、というのがイーシャの才能の限界だった。それを思い知らされたイーシャは仙術を習う事を諦めコンロンを離れる事になる。
故に、イーシャは仙術が決め手になると言い切る事などできない。練度を高めるというレベルですらなく、まだまともに習得しきれていないのがイーシャにとっての仙術なのだ。その威力のレベルを高めるどころか、発動させることさえハードルが高いのだ。
(せやけど……やるしかないか。一か八かってのは、性分や無いんやけど――)
一つ息をついてから、イーシャは構えた。両の掌をブラスの方に伸ばす。右手はやや伸ばし気味に、左手は肘を曲げて体の近くに。そして腰をやや落として、意識を集中する。その両手から仙術を発動する為に。
「なんだ? 新しい技か?」
興味深そうな目でブラスがイーシャを見てくる。そこには侮りもあったし油断もあった。だが、それを是とする程の実力差があるのは両者とも分かっていた。それが故にブラスの顔に笑みが浮かぶ。面白そうな事をしてくれそうだな、と。
「せや――行くで」
イーシャが地面を蹴り、ブラスへと向かう。一方のブラスは先ほどまでと同じく、平手をイーシャへと繰り出す。先ほどまでイーシャがいくら全力を叩き込んでも、軌道を逸らす事すらできなかった攻撃がイーシャに迫る。
「――<水透掌>」
イーシャは右腕を引きつつ、代わりに前に出す左手で、迫りくるブラスの手首を掌底でかち上げた。直前までの繰り返しであれば動きが変わらない筈のその腕。が、突如その手首の少し先が破裂し、血が噴き出した。
「なっ!?」
<水透掌>。それは対象の水や液体の流れに干渉して威力を伝搬させる事を可能とする仙術の一つである。師などは川の下流を叩くことで、対岸の辺りを破裂させて見せてくれた。
そんな師であれば手首を叩く事で対象の身体の中心を破裂させる事すらできたのかもしれない。が、イーシャでは打った場所から少し奥の血流を暴走させて手首を破裂させるのが精一杯である。
それに破裂させたと言っても、千切り飛ばす事が出来たわけではない。精々が体内から勢いよく出血をさせることができた、という程度に留まるだろうし、痛みはあっても回復できない程のダメージを与えられた感触は無い。
そもそもが未熟な技なのだ。
――だが。
「せやけど、透せないなら近くでやればいいだけの話や!」
ブラスの腕に繰り出した<水透掌>は前述の通り決して大きなダメージを与えられた訳ではない。しかし想像すらしていなかったブラスの驚きを引き出す事、そして痛みによりわずかに攻撃を逸らすという結果をもたらす事には成功していた。
イーシャはその僅かに空いた隙に身体を潜り込ませる。残った右腕はブラスの胸へと一直線に伸ばされる。
「――<水透掌>っ!」
ブラスの胸に触れたイーシャの掌は、決してその胸部に傷つけるような鋭さはない。が、そこから注ぎ込まれた力は確かに内部の液体の流れ――血液への干渉を成功させた。
ブラスの血液が震え、暴走し、四散する。大量に血液を持っていた臓器、すなわち心臓すらも破裂させて。
「ガァァァァァッ!?」
自分は直接傷ついてはいない。しかし激しい痛みが襲ってきたことに混乱したのであろう。ブラスが血を吐きながら戸惑いの叫びをあげる。イーシャは自分の攻撃が通った事を確信しつつ、急いで後ろに飛び下がった。
それを追いかけるブラスの腕の動きは鈍く。自分が吐いた血と。そして自分の胸を触りその傷の無さに、訳が分からないとばかりに視線を揺らす。
そして――大きく血を吐きながら、手を胸に当てつつ、そのまま地面に倒れ込んだ。
残心。イーシャはブラスの身体を見て、それが死んでいる事を確信したことで、漸く体の緊張を解いた。
と同時に襲ってくる脱力感。イーシャは慌てて倒れてしまいそうな自分の身体に喝を入れた。
未熟な仙術を補うように武術を使えたし、ちゃんと発動もできた。それは喜ばしい事だったが、これは著しくイーシャの体力と精神力を削った。
今にも倒れそうになる体を必死に食い止め、イーシャは汗が浮いた顔を上げる。
そしてハッとしてラクトとジンガの戦場を見た。その戦場もまた、最後の局面を迎えようとしていた。
***
「フハハハハハ、そうだ、次は何を見せてくれる? やってみせろよ!」
自分の周り。その上を飛び回るAX1の姿を目で追いながら、ジンガは高笑いを上げていた。
ジンガにとっては戦闘における熱狂こそが求めるものである。しかし自分が強くなるにつけ、それを得られなくなってきている事にジンガは自分でも気が付いていない不満を持っていた。
何しろジンガの圧倒的な力では、相手をすぐに倒してしまうか、もしくは恐怖で怯えさせてしまい勝負にもならないからだ。
それが今、自分の力を見せつけてもなおも諦めずに自分の命を狙ってくる男――ラクトがいる。ジンガにはそれが何よりも嬉しくて楽しくて仕方が無かった。
AX1は今、左腕のアンカーを使い、背の高い木と木の間を飛び回って加速しているように見えた。そしてそれはAX1に残された戦い方として賢明ではあるとジンガも思っていた。
ジンガが見た限り、AX1の特殊な所はその高機動である。勿論巨大斧も魔導機装の大きさに比べれば大きいのは気づいていたが、それであっても自分に傷をつけられないのだからどうでもいいと思っていた。
それよりもその高機動で自分の背中を狙い、命を取ろうとしてくるという動きがAX1にはあった。そしてフェイントなどを交えて後ろに回ろうとしたところ、ジンガは先ほど片足をもぎ取る事で防いだのだった。
そしてそうなると、AX1の選択肢は限られてくる。ジンガの後ろを取る、という方法はもはや取れないだろう。片足が失われている以上、先ほどやったようなフェイントすらもうできないのだから。
(となると、この高機動力を使って威力を高めた一撃が来る――!)
最後は小細工が効かない力と力の勝負になるのだと想像し、ジンガはまた笑みがこみあげるのを止められなかった。このようなひりつく勝負は久しぶりすぎて、楽しすぎて。
(だが、それもこれで終わりだ)
残エネルギーの事もあるだろうが、そもそも取り得る手段が他にないのだ。この一撃で決められなければAX1に勝機は無い。だからこそ最強の一撃が来るであろうという事にジンガは期待に胸を躍らせていたのだ。
ラクトがそうまでして自分を狙ってきてくれる理由はジンガは知らない。いや、仇だとは言われたが、人間の名前を言われても分かりはしないのだ。であればそれを恨みに思い、戦意を挫かずに殺意を向けてきてくれる事には感謝しかない。
と、AX1の動きが変わった。これまで遠心力と残された足のバネとを使いその速度を上げていたのだが、それも最高速に乗ったと判断したのだろう。AX1の左腕が木から離されると、遠心力を存分に利用したまま機体が高速でジンガの元に突っ込んできた。
更に右腕にしっかりと巨大斧を握ったまま機体を回転させた。機体自体の重量だけでなく、その回転力をも威力に上乗せしようとする姿勢。ラクトの魔力が込められた斧が輝き、銀色の閃光が空で回転して迫ってくる。
(――来る!)
「食らえやぁぁぁぁっ!!」
雄たけびと共に最後の斧の一撃がジンガに迫る。上から叩きつけられる斧に対して、ジンガは下から金棒を振り上げる事で激突した。
ガギィィと金属同士がぶつかり合い、そして込められた魔力同士が干渉して輝きをばら撒く。そしてその挙句として砕け散ったのは――金棒でも、そして巨大斧でも無かった。
片足を失ったからであろうか。AX1は左腕を姿勢制御に用いていたため、巨大斧は右腕だけに握られていた。そして最終的な一撃。ジンガを金棒ごと叩き切ろうとする巨大斧の一撃には、右腕だけでは耐えきれなかった。
AX1の右腕の手首が、肘が、肩が。関節部分が嫌な音を立てたと思った次の瞬間。バギィという大きな音を立てて右腕はへし折れ、巨大斧を握ったまま空高く砕き飛ばされていった。
「ぐぁっ!」
左脚に続いて右腕を失ったAX1が地面に転がる。勢いの大部分を金棒との接触やちぎれ飛んだ右腕が引き受けたのか、AX1は地面に激突したあまりに自壊するという事には成らなかったが、その代わり激しく地面を転がる事になった。
元々転がりやすいフォルムをしていないが故にそれほど遠くまでは転がらなかったが、それでも右腕と左脚を失った上に地面を転がされたAX1は、もはや全壊寸前に見えた。
が、それでも諦めなかったのだろう。AX1が左腕を射出する。ジンガはその行く先を目で追うことなく――。
「逃がすかよ」
AX1が姿勢を整える前に一足で機体まで寄ると、右足でAX1の腹を蹴ったまま機体を押し倒した。
左手のアンカーがギュルギュルと音を立てていたが、本体を抑えてしまえばもう動きようがない。ジンガは右足に体重をかけ、ミシミシと音を立てて崩壊していくAX1を見ながら、笑みを浮かべた。
「お前は良くやったよ。俺も久しぶりに楽しめた。……だが、もう終わりだ」
AX1は確かに弱いながらも良くやった。だが、もはや勝負はついた。高機動を支えた片足を失い、攻撃力の際たるものである巨大斧も、そしてそれを振るう右腕も失った。
左腕のアンカーを使って逃げようにも、そして残った右脚で地面を蹴って逃げようにも、ジンガに踏みつけられ体重を掛けられてしまった本体はどこにも動きようがない。
「あばよ」
ジンガがAX1を叩き潰すべく金棒を手にし、それを掲げ――。
――それを振り下ろす直前。
ジンガを恐ろしいまでの衝撃が貫いた。
***
最後の高機動での一撃が防がれた後。AX1の右腕を破壊され地面を転がされる事になった後、ラクトが左腕のアンカーを飛ばしたのは、決して逃げる為では無かった。
ジンガに吹き飛ばされた、巨大斧を掴むためにこそラクトは左腕を射出したのだった。それはラクトが計算して行ったというよりも、本能的に自分がジンガに勝つためには手放してはいけない攻撃力として巨大斧を認識しており、それを自分の安全よりも優先してしまったからに他ならない。
その人として優先順位を間違ったラクトの行動はだが、ジンガにも誤解されて地面に縛り付けられる形となった。
ジンガがこれまでのラクトの事を称えて何かを言っているようだったが、ラクトの耳には届いていなかった。それよりも。ラクトには集中すべきことがあった、やるべきことがあったのだ。
鬼によって空高く飛ばされてしまった巨大斧。それを掴むべく射出された左腕には、センサーが埋め込まれていた。それはAX1を操縦するための情報収集機能を高めるべくゴードンが仕込んだものであったが、左前腕部は射出されて自機から遠くへと行くために、右腕よりも沢山のセンサーが搭載してあった。
そしてそのセンサーから入ってくる情報を、ラクトは情報強化系魔法により精密分析していた。
(斧が空を切る音を捉えろっ)
空中には本来存在しない異物。しかも右腕に握られたまま不規則に空中で回転する斧の不自然な音が目立たない筈が無い。そう信じて音声情報、そして映像情報を駆使して探し――ついにラクトは右腕に掴まれたままになっている巨大斧を左腕からの視界にとらえた。
後はタイミングを合わせる。左腕の僅かな角度調整。そして伸びていくワイヤーの勢いの変更。そうした微調整にラクトは全集中力を賭けた。そしてついに――。
(掴んだっ!)
左腕に逆手でがっしりと巨大斧を掴む。と同時に左腕のアンカーを逆回転。左手に握った巨大斧を、自機に勢いよく引き寄せていく。
狙う必要は無い。何故ならばジンガは今、AX1に乗りかかってきてくれているのだから。
であれば後は簡単だ。ジンガがAX1に止めを刺す前に、巨大斧を引き寄せ切るのみ――。
(急げ、急げ、早く!)
左腕のアンカーを必死に引き寄せながら、同時に自分に残った全魔力を巨大斧に注ぎ込む。長距離にいるとは言え、有線でつながった左腕から巨大斧へラクトの魔力が注ぎ込まれ、魔導回路を通り、斧を銀色に白熱させていく。
自重と、アンカーを引き寄せる速度と、そしてラクトが注ぎ込んだ魔力と。それらを破壊力として身に宿した巨大斧が天から銀の流星として降り注ぎ――着弾。
巨大斧はジンガの背中から体の中心を貫き、その勢いのままAX1を貫いて地面に叩きつけられ、衝撃をあたりにまき散らした。
――それからどれくらいの時間が経ったのか、ラクトには分かっていない。が、気が付いた時にはラクトは暗い空間にいた。
どうやら自分は生きているらしい、とはそれで理解した。それに五体満足で怪我をしていないようだ、とも。ディスプレイが全部黒く無反応になっており、完全にAX1が機能停止している事が分かった。
コクピットから出ようとしてキャノピーを開けようとしたが反応してくれない。そう思った所で、照明も死んでいるのにどうして辺りの様子が分かるのだろうかと少し上を見上げたラクトはぎょっとした。
巨大斧が自分の頭のすぐ上に突き刺さり、その刃を見せていたからだ。そしてその巨大斧が切り裂いたAX1に空いた穴から、外の光が中に降り注いでいるらしいとも分かった。
後で冷静に考えて分かった事だが、ラクトが生き残ったのは奇跡に近い運の良さがあっての事であった。まず、空に飛ばされた巨大斧をちゃんと左腕が掴めた事。そして掴むまでにワイヤーが切れずに手を伸ばし切れた事も重ねて幸運な事だった。
そしてラクトが怪我無く助かった事も幸運であったと言える。バランスをとる為にAX1のコクピットが腰付近であったこと、そして左腕でアンカーを飛ばしてい為に引き戻された巨大斧がAX1の左肩あたりに着弾した事。
これらに更に幸運が重なり、ラクトは巨大斧の直撃を受けずに済んだのだった。
(何とか抜け出せないか?)
何が起きたか分からないラクトは、とりあえずシートのベルトを外し、巨大斧を押して外に出ようとする。が、重くてそうそう動かせない。どうしたものかと思っていると、外から焦った声が聞こえて来た。
「ラクトはんっ!?」
イーシャの声だった。冷静さなどかなぐり捨てた彼女の声に、ラクトはAX1に僅かに空いた隙間から手の先だけを出してちらつかせた。
と、すぐにイーシャが飛んできてその手を掴むと、隙間を広げつつ一気に引っ張り出してくれた。
いきなり広がる視界に、眼にささる光。わずかに目を細めるラクトにイーシャはワタワタとしてラクトの顔、肩、手、足を順番に触って確かめていた。
「ホンマに大丈夫? どこも怪我してない? ホンマ?」
「大丈夫……だよ。大丈夫」
「せやけど、あれ……」
あまりのイーシャの慌てっぷりに、未だに状況を理解できていないラクトは、促されて彼女の指し示した場所、自分の後ろを振り返った。
「――っ!?」
そこにあったのは完全に形を失い破壊されたAX1の姿。それに覆いかぶさるジンガ。そして、それら二つを貫き聳え立つ巨大斧の姿――。
「あれで、無傷で大丈夫やなんて……ちょっと信じられへんくて」
「そ、そうだな……」
ゆっくりとじっくりと。ラクトの心に状況がしみ込んでくる。何が起きたのかが分かってくる。
(もしかして――俺は、やれたのか?)
唐突に目の前に現れたそれに、まだ心の整理が追い付かずに言語化できない。しかしそれでも、ラクトの心の中で少しずつ理解が進んでいく。
目の前でジンガが死んでいる。ということは。……ということは?
確認しようとイーシャに向かってラクトが口を開きかけた時だった。ガラガラガラッと音を立てて動く者があった。
慌てて振り返ると、そこには立ち上がるジンガの姿――。
「ま、まだやるのかっ!?」
「っ!」
もうラクトには戦う術はない。慌ててラクトとジンガの間に分け入り、構えを取るイーシャだったが、彼女にしても限界は近そうに見えた。
ジンガはそんなラクト達の動きに最初は気づかずに、立ち上がった後にしばし自分の身体、そして貫く巨大斧を見ていた。そしてようやく事態を理解したのか、ラクト達の方を見て来た。
その視線に身体を硬直させるラクト。だが――。
「ふむ。見事だ。この戦い――お前の勝ちだ」
ジンガはそう告げると吐血し、そのまま仰向けに倒れていった。その勢いでジンガから巨大斧が抜け、代わりに血が噴き出して地面に広がっていく。
それは生命力が高い鬼であったとしても決して助からない事が分かる量で。
ラクトは。ジンガの言葉を聞いて、ようやく完全に理解した。やったのだ、と。
「は、はははははは、やった……やったんだ」
口にすれば実感がわいてくる。体が歓喜に震えてくる。
「俺は勝った。仇を討ったんだやれたんだ――」
ついに果たした目的に。言語化できない思いがラクトの口から飛び出していく。
「ウォォォォォォォ! アアアアアアアアアアア! アアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
そのラクトの獣じみた勝利の雄たけびが、その日の戦場を切り裂いて響いていった。




