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プロローグⅡ『英雄の子』

・今話は舞台設定の紹介を兼ねた内容となっております。

 本編のみをご覧いただきたい方は第1章001話へお進みください。

・勿論、今話も読んでいただけたらとても嬉しいです!


 君達は、どこまでも歩いて行ける。


 常世の総てを喰らい尽くし、新たに敷かれた幻創の大地。

 六柱の"(トーラー)"がそれぞれ統べる大陸は一部を除き再生と繁栄の盛りを迎えていた。

 大地に根差した民達が、血と汗と希望と夢、そして怨嗟を擁いて拓いた路は、やがて血管の如く大陸の隅から隅まで往き渡ることであろう。




 君達は、どこまでも歩いていける。


 永き時の流れを経て"豊穣の大陸"と呼ばれるまでに実ったラナリキリュート大陸では、現代に於いて三つの勢力と、一つの禁域で区切られている。




 三大勢力の筆頭。南の覇勢、ラナリア皇国。

 およそ百年前に王座を簒奪したバランガル・ホルガが、南部一帯の海洋諸島群を平定し屈強なる海洋軍と陸軍を基軸とした軍事力を以て、更なる領土拡大を求めて北上を推し進めた。


 やがて大陸全土の三割をも統治下に収めたころ、バランガル・ホルガの急死によって皇国の侵攻は勢いを減ずる。以降、定期的に小競り合いこそ起これども、勢力図を塗り替えるような大規模な戦の機会は失われていた。



 ラナリキリュート大陸は仮初の安定期に入った。


 牙を削がれたラナリア皇国では、大きく拡がった国土の守りを固めるべく武功を挙げた有力な騎士達に、特別な爵位と権限を与えて新たな領地へと封じた。



 ベルナルド・バシリオ・エデルギウスもその一人。


 彼は、"偉大なる騎士"であり、英雄であった。


 元々はラナリア皇国と敵対していたイングレス王国に所属する無価値な男爵家の嫡子にして、一介の騎士に過ぎなかったが長らく続いた平穏から腐敗の限りに至った王朝に有って希少で限られた高潔なる武人として勇名を馳せた人物となる。


 そんな彼は無辜の民の為にと願い、最前線で己の血肉を捧げ続けながらラナリア皇国陸軍と死闘を繰り広げ、後に『大戦期』と称される時代を駆け抜けた。


 然れど、為政者達からすれば体のいい捨て駒であり、異種族間の諍いが絶えないイングレス南域の忌地は彼等にとって瀉血の如く切り捨てるべき廃棄の対象。

 そうとも知らず戦い続けるベルナルドと彼が率いる騎士団および防衛部隊に、敵対するラナリア皇王バランガル・ホルガは称賛と憐憫の情を懐いた。


 死闘の果てにベルナルド隊は捕えられ、英雄という牙を失ったイングレスの為政者達は領土の割譲という条件を提示して講和を申し出た。これに対しラナリア皇国は英雄の身柄の引き渡しを条件に加えることで承諾。


 斯くしてイングレス王国は南北に分断され、南イングレスと成った領土はラナリア皇国へと編纂された。

 その一部、『グレミィル半島』と呼ばれる多種多様な種族が棲息する忌地の統治者として急死したバランガル・ホルガの孫、王座を継いだ新皇王バランガリアは英雄ベルナルドを推し、幾度かの説得と交渉を経て皇国陸軍に迎え入れたという。



 グレミィル半島は南イングレス領からは独立した侯爵領として特別な自治権を与えられることとなり、大戦期以前の為政者の大半は皇国の意向により粛清。

 須らく地盤が整えられた末に統治者として封じられたベルナルドは相応の爵位と権限を得たのである。


 彼は最初に、異種族間の諍いを沈めて領民達の生活を安定させることに着手した。

 その為に、彼は半島北部に広がるグラナーシュ大森林……通称『大森界』に自ら、独りで赴く。


 『大森界』内で暮らす種族の有力者、"妖精の氏族"に属するエルフ種の王族の娘と婚姻を結び、姻族の繋がりを足掛かりとすることで種の対立を和らげ、徐々に半島を平穏へと導くことに成功した。

 無論、これまでの歴史の中で異種族間の婚姻の事例は存在していたが、英雄ベルナルドが成したからこそ善き影響を及ぼしたのである。



 "偉大なる騎士"は、どこまでも自らの足で歩いていくことで無辜の民に平穏を(もたら)そうとした。



 そんな彼の人生の歩みと輝きは、彼の妻と共に不可解な死を以て瓦解する。

 二人の実子、双子の姉と弟を残して――




 双子の姉、ノイシュリーベ・ファル・シドラ・エデルギウス・グレミィル。

 エルフ種である母の面影を強く宿し、エルフの王族たる高貴な佇まいと魔力を受け継いだが彼女は、"偉大なる騎士"ベルナルドのようでありたいと強く願った。

 故に、家督と爵位を継承し、死した父に代わり自ら最前に立って半島の平穏を守ると誓う。


 双子の弟、サダューイン・エヌウィグス・エデルギウス。

 純人種の父であるベルナルドの面影を強く宿し屈強な肉体と武芸の才を受け継いだが、彼は貞淑にして賢姫であった母 ダュアンジーヌのように、影ながらグレミィル半島を支えたいと強く願った。

 故に、光輝く姉の翳であるかの如く、人知れず半島の民を護ると誓う。


 姉弟がそれぞれ受け継いだ風貌と才覚は、皮肉にも両者が求めてやまないものであった。

 やがて時が経つにつれて、互いに己が持たぬものを継いだ肉親への嫉妬と羨望、憎悪と畏敬という二律背反の感情を募らせ、袂を別つこととなる。



 此れより綴られしは、斯様な姉弟を取り巻くグレミィル半島の物語である。




 たとえそれが悍ましき因果に囚われた畦道であれ。

 たとえそれが醜く藻掻く宿痾の隧道であれ。

 たとえそれが、微かに灯る綺装の導きであれ。


 君達は、どこまでも歩いていける筈なのだ――


・プロローグⅡを読んで下さり、誠にありがとうございました。

 こちらがラナリキリュート大陸とグレミィル半島のイメージ図になります。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


・後ほど少しずつ語っていく予定となりますがノイシュリーベの名前に関して先じて補足させていただきます。


 ノイシュリーベは個人名、ファルは騎士名、シドラは"妖精の氏族"内での名前、

 エデルギウスは家名、グレミィルは土地に付随する爵位名となります。


 必ずしもフルネームで名乗るわけではなく、場面に応じて幾つか伏せたりすることがあります。

 例えば大領主ではなく一人の騎士として振舞う場合はノイシュリーベ・ファル・エデルギウス…となります。


・尚、エデルギウス家は元々は男爵位でしたが、現在は昇爵して子爵相当となっています。つまりノイシュリーベは爵位を二つことになります。

 何分、作者が浅学故に突っ込みどころ満載かと思いますが、そういう感じの舞台だと捉えてどうかご容赦下さいませ。

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