↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
八章・白磁の神型

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

311/316

もう一度、二人で。

原作、コミックスの最新刊が予約受付中です!

■原作8巻 11月17日発売

■コミックス9巻 10月23日発売

書籍版もどうぞよろしくお願いいたします……!

 彼はすぐに。



「――――そうだ」



 いつの間にか意識を失っていたのだが、その直前までレンは二人に身体を支えられていた。何とか意識が残っていたとき、リシアのいままで目にしたことのない表情を見た気がする。

 彼女がレンから離れるとき、小声で言い残した言葉が頭の中を駆け巡った。



『ごめんね、レン』



 追い詰められたように見え、切なげで、それでいてレンを見守る優しい表情を浮かべていた。見たことがないはずなのに、不思議と覚えがあるような感覚がレンの頭を駆け巡る。



“じゃあ、そこでまた私と逢ってくれる?”

“はい。絶対に”



 思い出そうとすると頭に響くのは、やはりリシアの声だ。

 聞いたことがないはずなのに、聞いたことがある科白(せりふ)。



 胸が痛んだ。

 どうしてかわからないけれど、ここでじっとしていてはいけない。

 レンの心が叫んで、この先の空間に向かって足を動かした。

 さらに、レンは気を失うまでを鮮明に思い返した。



「リシア、あなたは……」



 すべてを終わらせるため、あの場所を選んだんですか。 

 これまでのすべて。いままでも何度かレンの頭に響いたことのあるリシアの声。何度も見せつけられた光景。

 だが、惨劇の理由へと至るためには、



「あと少しだけ、知ることができたら」



 考えながら歩くうちにも、扉を進んだ先の広間の一点に目が向いた。広間の奥、大きな台座の上に突き立てられた漆黒の長剣である。

 それも前と変わらない、濃密な魔力を周囲に漂わせている。

 魔力は色を纏った霧のように見えたわけではなかったが、それでもわかる。



 ……あんな魔力が存在するなんて。

 ……見てるだけでわかる。神の朧にも負けてない。

 ……いや、負けてないどころか凌駕してるくらいだ。



 レンが成長したことでより鮮明に。

 あの魔力は世界に存在してはならないと感じさせられるほど、桁違いに濃密だった。

 だからこそ理解もできる。

 バルドル山脈にて、当時のレンが炎剣アスヴァルを召喚できたことは異常だった。けれど、あの漆黒の長剣から力をもらっていたとすればしっくりくる。

 だが、あの剣はいったい何なのだろう。



「……いまはそんなの、関係ない」



 疑問を覚えながら、それでもレンは迷うことなく歩を進める。

 漆黒の長剣が突き立てられた台座に迫り、距離が狭まるにつれて胸が大きく鼓動を繰り返す。

 剣が漂わせた魔力はより濃密になり、オーロラに似た揺らぎを見せた。



「……何だっていいんだ」



 アスヴァルと戦ったときとほとんど同じ言葉が自然に口から出た。

 台座の前に立ち、すぐに台座に足を上げた。



 手を漆黒の長剣に伸ばせば周囲の魔力は荒々しく揺らぎ、台座の周囲ごと包む魔力が舞い上がりながらも紫電を帯びた螺旋を描く。

 レンの髪が重力に逆らうように広がり、彼の瞳が魔力の煌めきを反射。

 魔力は絶え間なく荒々しさを極め、レンを試していたが――――



 再び。

 レンの手が、漆黒の長剣を掴み取った。



「――――戦う。俺はそのために……!」



 魔力が複雑に交錯し、行き交い、駆け巡る。

 一度目に比べて遥かに膨大な魔力が、漆黒の長剣が――――魔力の粒子に変わりゆく。

 漆黒の長剣が台座から解き放たれたとき。



「はぁぁあああああああああああああああ!」



 あまりに膨大な魔力はすべて、遂にレンの身体に同化した。

 彼の背後で扉が開く。

 その先は光で溢れかえっていた。レンは一度目のときと同じように外へと向かって歩きだす。



“王の剣はまだ、死んでいない”



 レンが知らない男の声が唐突に響き渡ったのだが、彼はほとんどその声に意識を向けようとしなかった。

 いまはそれすらもどうだってよかった。

 ふと、レンが過去に思い描いた言葉が脳裏をよぎった。



『平和に生きよう。皇帝に討伐を命じられるなんて絶対に嫌だ』



 レンが生まれてすぐに抱いたその思いは、もう心の中に残されていない。頭に浮かぶことすら遠い過去のようだ。

 いまはもう違う。

 世界が彼の望まないことを望むというのなら、必ず剣を取る。



「俺は、あの運命を受け入れない」



 レンはそれを、ねじ伏せるために戻ったのだから。




 ◇ ◇ ◇ ◇



 

 白銀の魔力はさらに圧を増し、大講堂の内部を余すことなく満たしていた。

 フィオナはそれを見て、リシアが最後の最後まで無理やり自分を大講堂の中に抑え込もうとしていることを知った。

 そうすることで、リシアは自らの存在を消そうとしているのだ。



 フィオナがレンに声をかけてから、まだ十数秒と立っていなかったときだ。

 彼があの空間で過ごした時間との乖離を知らぬまま、フィオナがそのぼろぼろの身体でできることを尽くそうとした際……。

 リシアが抑えきれていなかった白銀の魔力が、大講堂から外へ飛び出そうとした。



「――――リシア様の力が……っ」



 手をかざし、どうにかレンを守ろうとしたフィオナだったが、



「……え?」



 その手を遮って、レンがミスリルの魔剣を手に立ち上がった。



「あのとき、みたいですね」



 彼はそう言ってフィオナの前に立ちはだかる。迫る白銀をミスリルの魔剣で断ち、大きく息を吸った。

 魔剣と白銀の衝突による風に触れられながら。

 黒の巫女は感情がぐちゃぐちゃのまま、無理をして立ち上がった。

 涙が、また彼女の頬に。



「……おかえりなさい、レン君」



 彼と一緒に、再び大講堂の中へと戻らなければ。

 しかし、彼はフィオナを振り向くと、その指先を伸ばしてフィオナの頬に触れた。彼女が止められなかった涙を指先で拭った。



「私も、一緒に行きます」


「いいえ」



 レンはフィオナの手を握り、満身創痍の彼女を見た。

 そのとき、遂にフィオナの身体は膝から頽(くずお)れた。すでに立っていることも難しいくらいの消耗で、気を抜けば一瞬で気を失ってしまうだろう。

 死力を尽くして、いままで耐えてきた。

 リシアを、レンを、二人を守るために命を賭して。

 そんな彼女を立たせるなんて、レンにはできなかった。



「ここからは、俺の番です」


「っ……でも!」


「俺に二人のことを守らせてください。俺だって、さっきまでずっとフィオナ様に助けてもらってたんですから」



 レンはもう一度フィオナに微笑みかけてから、大講堂を振り向いた。その先、扉を覆った白銀の壁を見て言い放つ。



「リシアを、連れて帰ってきます」



 それは、世界に抗うための言葉。 




 ◇ ◇ ◇ ◇




 大講堂の入り口を覆った、白銀の魔力――――。

 波紋が広がる水面にも似た表面を白銀の光輝が伝い、揺れ、先へと進むことを遮る。この先は神の住まう神聖な場所とでも言わんばかりに、傲慢で尊大だった。



 しかし、白銀の根底にあるのは、リシア・クラウゼルという少女の精神そのもの。

 レンに寄り添うような温かさは残っているけれど、彼を拒絶する。

 魔力にそんな意思が宿るかというと、通常はあり得ない。

 けれどもレンは、そこにリシアの感情が存在していると確信していた。



「そんなの、聞けませんよ」



 リシアの意思に返事をして、レンはミスリルの魔剣を構えた。

 力が湧いてくる。あの漆黒の長剣がもたらす力の根底が何なのか気になってしまうが、考えている時間はない

 それよりもレンは、この空間を意識して。



「――――ノクウェスの繭」



 アーヴェルがリシアに話していた言葉をレンは微かに耳にしていた。だから光の霧から二人は逃れられなかったのだろうか、と一度考えた。

 事実、ノクウェスの繭という代物が本当に展開されたかどうかは別として。



「限りなくそれに近いものだったとしても。関係ない」



 一閃。

 白銀の壁を斬りつけ、道を切り開いた。

 迷いはない。

 聖なる力に満ちた空間へと土足で立ち入ったレンが見たのは、内部がもはや別の空間へと変わった光景だ。



 ……神々しい。

 ……リシアの魔力に全部が照らされて、白銀に染まってる。

 


 淡い光に満たされた大講堂。

 歩きなれたその中の最奥――――壇上にのみ、以前と変わらない光景が残されていた。



 壇上にてレンに背を向け、膝をついた白の聖女。

 彼女は上半身を力強く抱いて俯いている。輝くクリスタルの両翼を大きく広げ、白銀の魔力を纏っていた。

 レンには見えなかったが、彼女の口元が動いた。



「来ないでって、言ったのに」



 近づいてくるレンへと、か細い声で。



「そんな声、聞いてません」



 レンは足を止めずにいた。



「わかるでしょ? 私の力で、レンとフィオナ様に伝えてたことくらい」


「伝えたからって、俺が頷くと思ったんですか」



 二人の距離は徐々に狭まる。

 白銀の魔力はいまにもレンを浄化しようとしていたが、リシアは残された意思と力を振り絞って押し留めていた。



「……お願い」



 少女は縋った。



「私から、離れて」


「いいえ。そのお願いは聞けません」


「っ……レン!」



 白銀の魔力は、レンの行く手を遮る魔力の壁へと変貌。



「お願い! もう来ないで!」



 何を言っても聞いてくれない。彼と今日まで過ごしてきたリシアは確信し、全身を襲う強制力に力を振り絞って抗った。

 強力な波動が、レンに向けて放たれる。

 彼がミスリルの魔剣で防ぎきれなかった皮膚は波動に触れるとたちまち切り裂かれ、血が舞った。



「約束、したじゃないですか」



 顔より下の肌がほとんど白磁器のように変貌したリシアが思う。

 レンの声から届く温かさ。それがこんなにも心地よく、幸せにしてくれるということを実感して涙が流れ出た。



「私……そんな……レン、私……そんなつもりじゃ――――っ」



 そして、このような状況とはいえ彼を傷つけてしまったことを恐ろしく思った。 

 もう一度上半身を抱くと、リシアは身体を震わせた。俯いた際に腰に差した白焉が視界に入ると、彼女はそれで自らの胸を貫かなければと強く意識した。

 


 しかし――――。



 彼女が生み出した壁を砕き、そして彼女の目の前にトンっ……と突き刺さったもの。何年も前にリシアがレンに贈った白銀の短剣。

 白銀の魔力の壁を砕くため、レンが剛剣の力を帯びさせて投擲したのだ。



 すでに壁は消失し、レンとリシアの間を遮るものはなかった。

 レンと目が合う前に、リシアは目の前に突き刺さった白銀の短剣を見て、手を伸ばした。

 それで、白の聖女の魔石を貫こうとしたのだ。



 ……これで、はじめられる。



 リシアが短剣を手に取ると同時に、レンは言った。



「あのときとは逆ですね」


「……何のこと?」


「俺たちがはじめて会ったときのことですよ」



 はじめて会った際に交わした言葉を、二人はいまでも覚えていた。



『勇敢ね。止められたのに剣を取ったのだから、あるいは自信の表れかしら?』


『……ん?』


『開始の合図は私からでもいい?』



 あの立ち合いのときの光景を想起して、リシアははっと顔を上げてレンを見た。



「俺が止めるって、言いました」


「……そんなの、聞いてない」


「だからもう心配してないって、リシアは言ってくれた」


「……そんなこと、言ってない」



 嘘を重ねるリシアの元へ、レンは近づいていた。

 もはや、彼女の肌は白磁に染まっていない箇所のほうが少ない。意識が遠のきそうになっていたけれど、彼の声だけが彼女を引き留められる。



「俺はずっと、リシアの前に立ちつづけます。何も怖いことなんてないと思えるくらい、いつだってリシアの先に立っています」



 あなたはどんなことがあっても、絶対に来てくれる。

 リシアはレンの声に、そして――――手にした白銀の短剣に意識を奪われた。 



「この立ち合いを断るなんて許さない。だって俺は、俺より強引に立ち合いをはじめた女の子を知っている」


「……レン、それって」



 再会した二人は、いまはじめて笑みを交わした。

 立ち合いはいま、受け入れられた。



「いまの私、きっとレンより強いわよ」


「そうだとしても、俺が勝ってみせる」



 リシアが言い、レンが言った。



「なら、本気で来て」


「ああ、俺の全てで」



 白の聖女が微笑み、物語の黒幕が微笑。

 二人がそれぞれの剣を見た。



「――――剣を取りなさい。レン・アシュトン」


「――――始めましょう。リシア・クラウゼル」



 リシア・クラウゼルが、レン・アシュトンが、言った。



 世界の分岐点は、いまそこにあった。

 りぃん、りぃん、と鈴の音が鳴り響く。

 リシアの両翼が大きく広げられ、レンが手にしたミスリルの魔剣はいままでになく色濃く魔力を纏った。



 翼からは光が放たれ、変貌した大講堂中を駆け巡る。

 リシアが短剣の代わりに手にした白焉の威容が、大きく変貌しようとしていた。

 まさか、とレンは目を見開いた。過去にもその輪郭(シルエット)しか見ることはできなかったのだが、見紛うはずもない。



 ……あの魔剣と同じ光だ。

 ……イェルククゥを倒したときの、光の魔剣と。



 まばゆい光が剣身に同化していく。

 徐々にその全貌が明らかになりはじめる中で、



「信じさせてみせます。俺たちの約束は、絶対に果たされるって」



 その先に待つのは、戦い。



「――――うん」



 それはきっと、レンにとって過去にない聖戦(たたかい)。



「信じさせてくれるって――――信じてるから」



 リシアは最後に笑い、肌が白磁で覆われ尽くした。

 白焉の様子が、一変した。

 纏っていた光が収まり、全容を浮かび上がらせる。レンがもしかしたらと思った通り、その威容はとある剣のよう。



「どうしてあなたが、そんな剣を持ってるんですか」



 リシアの返事はもうない。



 いまレンの目に映る威容は、伝承に残るかの剣のようだ。

 その剣をリシアは静かに振り上げた。

 意識を失ったリシアは両翼を大きく広げ、これまでよりも凄まじい光の波を纏う。

 コマ送りにも見えるほどの強烈な存在感に、レンは一瞬たりとも目を離せなかった。



“――――”



 物言わぬリシアは、ゆっくりと剣を振り下ろしていくだけ。



 閃光も、黄金の雷光も。

 それらが白風を纏って光芒を成す光景だって、レンは見覚えがある。

 あれはイェルククゥを消し、真価を見せた彼のマナイーターすら光の粒子へと返した煌めき。



 いまならわかる。

 光の魔剣が何故、あれほどの光を扱えたのかを。



「――――神剣」



 七つ目の、英雄装備。 

 勇者ルインが手にしていた名もなき剣。

 魔王討伐後に砕け散り、世界から消えたはずだった。それなのに、リシアの手にあるのは神剣によく似ている。



 ただの人間が扱っていいはずのない聖なる光芒が、いま。

 轟音を置き去りにした光速が、押し寄せる。一瞬でレンを浄化してしまえるだけの魔力が、ひたすら容赦なく放たれた。

 レンの目の前が、恐ろしいほどの純白に染まってゆく。



 ……眩しい。



 無抵抗にあの光を浴びれば、間違いなく存在ごとこの世界から消えてしまう。

 でも、怖くない。

 レンの脳裏に浮かび上がったのは、あのときの記憶。

 いまから、またはじめよう。



「俺たちが出会ったときみたいに、もう一度」



 再び、剣を介して。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
>>>書籍版もどうぞよろしくお願いいたします!<<<
k9t0jgcm7u679lcddexxirle65p1_15qj_m8_vl_inir
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。