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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
八章・白磁の神型

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300/309

一緒に遊びに行きたいってこと。

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■原作8巻 11月17日発売

■コミックス9巻 10月23日発売

書籍版もどうぞよろしくお願いいたします……!

 話が決まると、珍しい四人組で校門へと向かって歩きはじめた。

 制服姿の四人が補習終わりに寄り道をする、日常の風景を切り取った一場面。



「にしても、今日も馬鹿みたいに暑いな」



 ふと、カイトが欠伸を交えて。



「クルシェラは風も気持ちよかったですしね」


「だろ? 俺もアシュトンと同じこと考えてたんだ」


「そういえばレン、カイト先輩が射的でぬいぐるみを取ってあげた子がいただろ。あの子、帝都に住んでてさ」



 思い出話を聞くラディウスが興味深そうに言う。



「あちらでそんなことがあったのか」


「うん。他にも森の中で釣りをしてみたりもしたから、ラディウスのおかげで楽しく過ごせたよ」


「それは何よりだった」



 クルシェラで過ごした宿はラディウスが厚意で用意してくれたおかげで、常に快適に過ごすことができたのだ。

 もしもあの騒動がなければ、最終日までゆっくりできていたはず。



「そういえばカイト先輩、大物だ! って言いながら大きい水草釣ってましたっけ」


「あ、あのときは本当に魚だと思ったんだよ!」



 慌てて否定しながら笑うカイトを見るレンとヴェイン、ラディウスが頬を微かに緩ませた。



「ラディウス、クルシェラって最近どうなってるかわかる?」


「随分と落ち着いたと聞いている。学院長もだが、白龍姫にも様子を見に行ってもらったから、神の朧の件から問題は生じていない」


「そっか、ルトレーシェにも頼んでたんだっけ」



 レンも少し前にその話は聞いていた。

 あれほどの騒ぎだったのだし、あの二人が様子を見に行くというのも理解できる。



「その白龍姫も、そう遠くないうちに帰ってくるだろう。クルシェラを見てから、大切な私用を終えてから帝都に戻るそうだ」



 ただ、大切な私用の内容までは共有されていなかった。

 彼らが足を運んだのは、学び舎が立ち並ぶ区画からほど近い通りだ。

 そこに沿うように作られたカフェのテラス席に彼らは腰を下ろした。



「今日はレンたちだけだったのか?」


「俺たちだけ――――ああ、リシアたちは買い物に行ったからだよ。一応、帰る前に合流するつもりだけど」


「シャロが無理やりみんなを連れて行ったんです。補習が終わったらすぐに教室を出ていきましたよ」


「なるほど、ロフェリアらしい」



 クルシェラのときのように、リシアとフィオナもだ。

 ラディウスにとっても級友なのだから、彼はシャーロットの人となりもわかっている。容易にその光景を想像できたのか、ラディウスは穏やかな笑みを浮かべてみせた。



 間もなく軽食をはじめとした諸々が届き、テーブルに並べられる。

 食事を終え、口直しに季節ものの果実のデザートが届いた。



「ラディウスのって、前に話してた好きだっていうやつ?」


「ああ。気になるなら一つ食べてみるか?」


「それじゃ、一つだけ」



 切り分けられたフルーツを一つ、ラディウスがレンに皿ごと差し出した。二人がそのまま自然に言葉を交わす。



「ありがと。それで聖骸現象って、レオナール先輩とどんなこと話してたの?」


「あれに関しては七大英爵家でも対処している。聞いていなかったか?」


「一応聞いてる。それでまた何かあったのかなって」



 レンの場合、七英雄の伝説での知識での先読みだったが。



「報告書の内容だけではなく、実際に対処したレオナールたちの感覚も聞きたかっただけだ。なぜ急に聖骸現象などという現象が起こったのか、私も頭を悩ませている」


「ってことだ。ただ、俺たちが見てきたところでは動いたりしなかったんだぜ、アシュトン」



 アヴレオ法域でのことに触れたカイトの声に呼応し、今度はラディウスがレンに聞く。



「私もガルレオンの報告は目にしている。レンは何か気になることはなかったか?」



 レンは逡巡の果てに、ある言葉を心に浮かべた。



『まるで、俺を狙ってるみたいだった』



 レン自身、まだ考えを整理できていない。

 七英雄の伝説Ⅱにおける白の聖女の惨劇にも近い時期ということもあってか、レンは不用意に言葉を発することを避けていた。

 しかし、ラディウスはレンを見て、何かを感じ取った様子だ。

 彼に感じ取られたことにレンは気づくと、思わず苦笑。



 ……ここでは言いづらいのなら、今度でいい。

 ……ごめん、ありがと。



 話しづらそうにしている友人に無理強いはせず、目と目で語ったレンとラディウス。

 彼らの間でつづけられる会話はどこまでも自然だった。



「俺も状況がよくわかってなかったから、あのときは戦うことばっかり考えてたかも」


「そうは言うが、ガルレオンはほとんどレンの働きにより戦いを終えられたと言っていたぞ」


「ガーディ卿が一緒に戦ってくれたからだと思うよ。ガーディ卿、俺が見たことのない戦技も使ってたし」


「そこはさすがに近衛騎士団長だとも」



 他にもあの出来事について情報共有をしてみたけれど、目ぼしい情報はなく、聖骸現象が謎ばかりであることが強調される。

 しばらくして、ラディウスが腕時計を見た。



「すまない、私はそろそろ行かなければ」


「公務?」


「それもだが、ラグナからの手紙に返事をしたくてな」


「ラグナさん――――そうだ。俺もクルシェラのことで相談したかったんだ」


「そうだろうと思っていたが、いまは捕まりにくいかもしれん」



 ラディウスが前の出来事に触れた。



「私も先日やっと会えたんだ。こちらが途中で帝都に帰ることになってしまい、そのときの話は最後までできていないのだが……まぁ、そのことはいい。では二人とも、私は失礼する」



 ラディウスはヴェインとカイトにそう言うと、席を立とうとした。



「殿下。改めて、うちと懇意の貴族たちが――――」



 カイトが真摯な面持ちを浮かべ、声を硬くした。



「先ほども言ったが、そのことならもういい。レオナール家にも、貴族の責務としての面倒をかけてしまったな」


「それこそ、七大英爵家の者として当然のことです」


「ああ。その言葉、頼もしく思っている」



 ラディウスはそう告げて立ち上がると、レンの後ろを歩く際に二人にしか聞こえない声で呟いた。



「アスタリテは以前から聖骸現象を研究している。話してみてもいいかもしれないぞ」



 先ほど目と目で交わした会話への返事だろう。

 あれだけですべてを汲み取ってしまう親友へ、レンは「ありがと」と短く告げる。

 ラディウスが近衛騎士と共に帝城への帰路に就いてから、ヴェインがカイトを見た。



「さっきの話って、この前のですか?」


「おう。うちと仲のいい貴族……まぁ英雄派貴族だな。そこが皇族派貴族を相手にしょうもない小競り合いをしちまったから、それで殿下にちょっとな」


「……派閥争い、前よりはましでも消えてないですしね」



 二人の話を聞きながら、レンは口を閉じたまま苦笑。

 果実水の残りで彼は再び喉を潤した。




 買い物を終えた女性陣と合流した後――――。

 さらに時間が過ぎ、帰路に就く前だった。

 朱がとめどなく流れる空を、紫が交じる濃い青が移ろう。星屑の光を纏った黒が訪れる前、宵空を見上げたレンが言った。



「獅子聖庁に寄り道してもいいですか?」


「うん。私も少し身体を動かして帰りたいって思ってたから」


「いえ、今日はエステル様にお話ししたいことがあるだけなんです」


「大丈夫だけど……どうかしたの?」


「聖骸現象のことで、ちょっと相談があって」



 いままさに帰宅の途に就く民や、帰る前に食事をしていくつもりの者たち。

 あるいは買い物をしようと通り沿いの店々を前に歩く人々を横切って、レンとリシアは獅子聖庁がそびえる官庁街へと歩を進めた。



 官庁街も人で賑わうが、獅子聖庁の周辺はそれほどではなかった。

 門前に立つ、獅子聖庁の騎士。漆黒の衣に身を包んだ者たちが二人の姿に気づき、凛と硬い表情を僅かに緩めた。



「お久しぶりです。我らもクルシェラでのご活躍はお聞きしております」


「ようこそいらした。本日は訓練ですか?」



 レンとリシアも挨拶をして、レンが騎士に返した。



「エステル様と話したくて来たんですが、いまって中にいらっしゃいますか?」


「長官でしたら、執務室にいらっしゃるかと」



 それを聞いたレンは軽い雑談をしてから獅子聖庁の中に足を踏み入れると、巨大な両階段を上った。

 獅子聖庁は獅子王になぞらえて、何事にも黒を好む機関である。

 磨き上げられた漆黒の石材を用いた内装は荘厳の言葉に尽きた。底が見えないほどの黒は美しく、獅子聖庁はそれそのものが芸術だ。



 上層階の最奥に、あまりに大きな扉が鎮座していた。

 扉をノックして返事が届いた後に、レンは扉を開けてから言った。



「急に来てしまってすみません」


「誰かと思ったら、二人だったか」



 窓際の椅子に腰を下ろしていたエステルが立ち上がり、二人に近づいた。ニカッと上機嫌に笑うと、彼女はリシアの前で両腕を広げた。

 何をするのだろうかと見守ったレンの横で、偉大な長官殿は嬉しそうに白の聖女を抱擁した。

 すでに帝城で再会できていたレンと違い、リシアとはようやくの再会だ。



「エ、エステル様? 急にどうされたんですか?」


「新たな剣聖を歓迎してというのもあるが、クルシェラの件では大変だったろう。しかし見事成し遂げた。私も誇らしく思う」


「ふふっ、そう言っていただけて、私も嬉しいです」



 抱擁を終えると、エステルが「ところで」と話題を変える。



「剣を振るならここへは来ないだろうに、急にどうした。もし私に会いに来ただけなのなら、いまから仕事を放り投げて食事にも行ったって構わんが」


「いやいやいや、そんなことしたら怒られますよ」


「後先を考えて仕事を放り投げるような者がいるか。考えないようにすれば委細問題ない」



 なんて清々しい。

 ここまで堂々と言いきれる精神力があれば人生をよりよく楽しめるだろうが、レンはまだその精神力を持ち合わせていなかった。



「私がエステル様とお会いしたかったのはそうですけど、レンは相談したいことがあるみたいなんです」


「では聞こう。二人の頼みなら大抵のことを受け入れるつもりだ」


「ありがとうございます。じゃあ早速なんですが」



 頼もしい物言いにレンは安堵した。

 だが、



「アスタリ――――」


「アスタリテが関係するのなら、別の話になるが」



 レンの出鼻がくじかれるのは一瞬だった。

 しかし、エステルにもレンを邪険にする気持ちはなく、ほとんど反射的に言葉を返してからすぐに苦笑いを浮かべた。



「……で、どうしてあいつの名前が出てきた?」


「聖骸現象について聞きたいんです。この前のアヴレオ法域のこともあるので」


「ああ……やっとわかった。おおかたアスタリテのことも殿下から聞いたのだろう? であれば私も断れないではないか」



 改めてラディウスに仲介してほしいと相談することも考えたのだが、いずれにせよエステルのようにアスタリテと懇意の人物がいればありがたかった。

 懇意、というとエステルには否定されそうだが。



「私は明日城に行く。その際に話しておこう」


「ありがとうございます!」


「ただ、話をするのもすぐとはいかないかもしれん。あとで連絡するか、二人が獅子聖庁に来たときにでも返事をしよう。――――それと、せっかく来てくれたんだ。新たな剣聖殿の話も楽しませてくれ」



 純粋に楽しみな感情を隠すことのないエステルが、リシアに顔を向けた。



「剣聖になったこともそうだが、リシアもクルシェラでの働きがある。レンにしたように、聖グリムドール剣章の授与を考えねばならんが――――」



 獅子王の時代、彼に次ぐ実力を誇ったとされる騎士の名を冠した勲章だ。

 獅子聖庁は半独立機関。国が授与する勲章とは別に、獅子聖庁の長官がその権限により独自の勲章を授与できる。



「しかし、リシアが剣聖に至るためのきっかけは何だったのだ?」


「……その、お伝えするのは難しいんですが」



 それは恋心によるものだけではないのだが、強く結びついていることは否定できない。

 リシアはマシェリアと戦ったときの光景を脳裏に浮かべた。あのときの感情と思いのすべてを彼女は鮮明に覚えている。

 クルシェラから帰る途中でレンから同じ質問をされた際は、



『内緒、ってことにしておいて』



 彼にこう告げている。

 秘めていたい言葉はいまも秘めたままに、リシアは言った。



「私が立ちたい場所が、はっきりと見えたんです」



 自覚を強めてから、心は以前よりも澄みきっている。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 帰り道の帝都、夜が押し上げられきった空に星が輝く。

 二人は夏の帝都を歩いて、月明かりに誘われて空を見上げた。

 周囲を照らす街灯が地上に輝く星々。星の光に囲まれて、宇宙の中を歩いているかのような感覚がした。



 二人分の足音が強調される静けさが、二人に言葉を交わさせなかった。

 ふと――――それまで星空を見上げていたリシアが短く息を吸う。視界を満たすのは星空でも、意識はレンに向けられていた。



 自分が立ちたい場所が見えた、と口にした彼女の足は止まらない。



「あのね」



 レンの数歩前を進みながら、唐突に。



「私、明日何もすることがないの」


「はい、それなら俺もですが……」


「ええ。知ってて話してる」



 当然のように返したリシアを見るレンは、会話の意図がわからず困惑していた。リシアは彼のそんな様子を見て微笑む。



「私、明日何もすることがないの」



 リシアはレンの正面に立ち、彼を見上げて繰り返した。



「だからね、一緒に遊びに行きたいってこと」




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