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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
八章・白磁の神型

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アヴレオ法域[前]

原作、コミックスの最新刊が予約受付中です!

■原作8巻 11月17日発売

■コミックス9巻 10月23日発売

書籍版もどうぞよろしくお願いいたします……!

 特に濃密な魔力が流れる地が、エルフェン大陸にはいくつも存在していた。

 そのうちの一つ、『アヴレオ法域』はレオメルにあった。

 その地は神が作り出した法の一つとされていた。故に秩序の神が用いた聖杖、アヴレオになぞらえて名が定められたという過去がある。



 ローゼス・カイタスにも負けじと深い峡谷に取り囲まれ、苔一つ生えない白い大橋を渡った先にその領域が広がる。

 そこはエレンディルや帝都、あるいはエウペハイム近郊に現れるような魔物たちよりも、さらに強い魔物が生息する地としても知られている。

 また、その地の特異性からもみだりに足を踏み入れることがよしとされていない地域だった。



 大橋の周囲には幾人かのクラウゼル家の騎士に加え、レオメルの騎士が十数名に、文官、さらに聖宮騎士も顔を揃える。

 彼らは近隣まで魔導船で訪れると、そこからは用意されていた馬でここに来た。

 ミスリルの魔剣を携え、橋の先をじっと見ながらレンは思った。



 ……七英雄の伝説Ⅱのときの印象が強くなってきた。



 様々な思いに駆られながら、旅支度を確かめる。

 この先に生息している魔物は強い。

 普段から戦いの前には入念な準備を心掛けるレンだが、この日は精神的な揺らぎもあり、いつもの倍以上の時間をかけて準備に努めた。

 聖宮騎士らと行動を共にする経験なんて今後一度もないかもしれない。

 珍しい状況の中、レンは迷わず歩を進めた。



 ……そういえば、七英雄の伝説で調査したのはアヴレオ法域じゃなかったっけ。



 七英雄の伝説でそうだったのは、魔物の強さが関係していたのだろうか。

 物語の進展度合いに対し、アヴレオ法域に生息する魔物は強すぎる。だから、七英雄の伝説では舞台にならなかったのだろうとレンは考えた。



 勇者の末裔ヴェインたちは今頃、帝都ととある町とを繋ぐ街道に向かっているだろう。英雄派貴族たちとのやり取りにより、彼らはレンたちと違う地域を調査しているはず。

 実際に今朝、レンが思い描いた箇所でも聖骸現象が確認されたという連絡があった。

 レンが考え事をつづけながら進んでいると、レオメルの騎士が彼に話しかけた。



「アシュトン殿はアヴレオ法域へ足を運んだことが?」


「いえ、今回がはじめてです」


「おや、それにしては迷いない足取りですが」


「地図で前準備をしてきたんです。あと、冒険者ギルドでもここのことは何度も聞いてたので、だからだと思います」



 それだけではないとも思った。

 自分で思う以上に旅に慣れてたということを、こうしていると実感する。

 異変の報が届いて森の中へ入る。それはまるで、生まれ故郷の村にシーフウルフェンが現れたときのようだ。

 しかし、当時と違いこうした探索も慣れたもので、恐れもない。



「あれは」



 聖宮騎士が口を開いた。

 彼が目を向けた先に何があるのか、誰もがいまの声とほとんど同時に気づいて足を運んだ。

 向かった先にあったのは、聖骸現象に陥った魔物である。



「間違いない。聖骸現象だ」


「白磁を彷彿とさせる体表……もはや、ただの彫刻のようだ。内部に宿る変質した魔力を処理しなければ」


「ああ。周辺に影響をもたらしてしまう前に」



 同じ現象が周囲に連鎖して生態系を破壊でもすれば、人が住む地に影響をもたらすかも。

 適切に処理すべく騎士たちが剣を抜き、聖骸現象による魔力をかき消すための魔道具の用意をはじめたところで――――



 不意に、周囲の木々が揺れた。

 騎士がすぐさま一人残らず剣を構えて間もなく、全長十メイルほどもある魔物が数体、木々の合間から猛烈な勢いで飛び出した。



『ギィ――――』



 耳を刺す声と、突然の地響き。

 馬のような見た目だが、頭部には鋭利な角が存在し、複数の長い尾が揺れていた。

 魔物たちが猛烈な勢いで疾走しながら鋭利な風を纏う。

 柔らかそうに見える体毛が全身を覆っていたが、それは魔力を帯びることで堅牢な岩石にも勝る防御力を誇る一面を持つ。

 騎士たちが数人一組で対処に移ろうとしていたが、レンは違った。



「ふっ――――!」



 彼は抜き身のミスリルの魔剣を一振り。

 微塵も動じることなく眼前に迫った魔物を斬り伏せれば、たったいま斬り伏せた個体たちより大きく、角も複雑に曲がり歴戦の力強さを感じさせる個体が姿を見せた。



「……やっぱり、アヴレオ法域の魔物は少し違うんだ」



 現れる魔物の強さへと、レンの感想は凝縮される。

 しかし、することは変わらなかった。

 現れた大きな個体がレンや騎士たちを餌とすべく動き、風魔法を行使しかけると同時。

 まだ魔力の微細な動きだけしかなかったというのに、レンは周囲の騎士たちが驚きの声を上げる間もなく駆けた。



『――――ゴォ!』



 魔物が放った風魔法は、光の粒子に還った。

 レンが剛剣技における戦技(アーツ)、星殺ぎにより魔法を断ち切ると、風魔法は瞬く間にただの魔力へと還されてしまう。



 それを受けて一際大きな個体はもちろん、他の個体もすぐさま状況を理解し、蜘蛛の子を散らすように姿を消した。

 アヴレオ法域はその特異性から人が手を加えるべきではない。ああして魔物のほうから去ってくれれば、それ以上のことはなかった。



「調査をつづけましょう」


「え……ええ」


「……では、さっそく……」



 少年の落ち着いた振る舞いに騎士たちは数秒驚き立ち止まっていたが、気を取り直して仕事に戻った。

 魔道具を用い、聖骸現象による魔力をかき消す。

 次に亡骸を砕き、騎士たちは調査に必要な部位だけを資料として鞄にしまった。



「レン殿、先ほどはお見事でした」


「そう言っていただけて、光栄です」



 軽い笑みを浮かべてから、レンは森を眺めた。

 この世界線でも暗躍をつづける魔王教の存在に対し、レンがここから遥か遠くのどこかへと意識を向けて。

 昨日も考えたことなのだが……。



(司教の動きと聖骸現象って、何か関係あったのかな)



 騎士たちの邪魔にならないよう彼らの声を聞き、作業を見ながらレンは思った。

 七英雄の伝説Ⅱに登場する敵の中で、間違いなく最大の実力者。これまで存在を現すことのなかった魔王教徒にして、司教。



「やっぱり、ヴェインにしか倒せないとか……?」



 勇者という絶対的な力を思い、考えた。

 ミセルの神殿で記憶の禁書に相対した際、アスヴァルの魔石から得た剣が覚醒に至り、新たな死闘を終えたレンだ。

 昔から研鑽を怠ることなくつづけてきた自負もあり、剣の腕もこの夏でより磨かれてきている。



 腕輪の水晶を見ても違いがわかる。

 夏休みに入る前にはわからなかった魔剣召喚術が次の位階に上がるための条件も、記憶の禁書から魔力を吸収したことで達成された。



――――――


レン・アシュトン

[ジョブ]アシュトン家・長男

[スキル] ・魔剣召喚(レベル1:0/0)


・魔剣召喚術(レベル8:深き瀬の珠玉 0/1)

 レベル1:魔剣を【一本】召喚することができる。

 レベル2:腕輪を召喚中に【身体能力UP(小)】の効果を得る。

 レベル3:魔剣を【二本】召喚することができる。

 レベル4:腕輪を召喚中に【身体能力UP(中)】の効果を得る。

 レベル5:魔剣の進化を解放する。

 レベル6:腕輪を召喚中に【身体能力UP(大)】の効果を得る。

 レベル7:魔剣を【三本】召喚することができる。

 レベル8:特定条件下において、魔剣の覚醒を解放する。

 レベル9:得られた恩恵を常時発動できる。

 レベル10:**************** 


[習得済み魔剣]

 ・大樹の魔剣 (レベル6:5275/10000)

 自然魔法(中)程度の攻撃を可能とする。

 レベルの上昇に伴って攻撃効果範囲が拡大する。

 ・ミスリルの魔剣 (レベル5:7700/8500)

 レベルの上昇に応じて切れ味が増す。

 ・盗賊の魔剣 (レベル1:0/3)

 攻撃対象から一定確率でアイテムをランダムに強奪する。

 ・盾の魔剣 (レベル2:0/5)

 魔力の障壁を張る。レベルの上昇に応じて効力を高め、

 効果範囲を広げることができる。

 ・炎の魔剣(レベル1:1/1)

 その業火は龍の怒りにして、力の権化である。

 ・水の魔剣(レベル1:1/1)

 それは水の女神が落とした力。

 ・鍵の魔剣

 (解放条件・魔剣召喚術レベル10)


――――――



 腕輪の水晶を見ると随分と遠くまで来た気持ちになるというのに、先ほど呟いた言葉が頭の中に浮かんで離れない。 



「俺も成長できたと思うんだけど」



 七英雄の伝説における聖骸現象と、そのあとにつづく物語を考えながらだった。

 レンは腕輪から目を離す前に水晶に浮かぶ文言を見た。

 魔剣召喚術が次の位階に至るために必要なのは、前回と同じで特殊な条件を達成すること。それがどこにあるどのような品なのかも、前回同様よくわかっていない。

 ついでに、新たに得られた魔剣のこともだ。



 ・鍵の魔剣



 記憶の禁書の魔石を吸収したことにより得られた魔剣だ。

 まだ召喚するための条件を満たせておらず、その威容を見ることはできていない。

 昔は鉄の魔剣にも解放の条件があったことを想起させられる。



「……どこかを開けるための力を持つ魔剣なのかな」



 安直だが、名前からそうとしか思えない。

 召喚できさえすれば見た目で何かがわかる可能性はあったが、まだしばらく条件は満たせなさそうだ。

 これらのことはすべて、クルシェラから帰る途中でリシアとフィオナにも話してある。その際に彼女たちも不思議そうにしていたのをレンはまだ覚えている。

 嘆息したレンの耳に届く、騎士の声。



「アシュトン殿! 予定していた地はこの先です!」


「わかりました! すぐ行きます!」



 騎士に答えたレンは柔らかな木漏れ日に目を細め、歩を進めた。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 夏でなければもう日が落ちていたであろう夕方に、レンは空中庭園にその足を下ろした。

 この日の調査を終え、いまから冒険者ギルドへと足を運ぶところだった。クラウゼル家の騎士たちとはここで別行動になっている。つづく探索など、まだ明日以降も予定は詰まっている。



 空中庭園を出たレンはエレンディルの大通りを歩きつつ、夕焼けを見上げて笑みを深めた。

 こうしていると、クラウゼルで過ごしていたときのような気分になる。

 当時は町の近くの森での仕事を終え、このくらいの時間に冒険者ギルドを訪ねることが多かった。

 いまはどこか、そのときのような感覚だった。



「予想してたより戦ってきた気がする」



 と、レンが思わず独り言を口にした際、彼は視界の端にリシアの姿を見つけて足を止めた。

 彼女の隣には給仕の姿もある。



「おかえりなさい。今日はどうだった?」


「予定以上に戦ってきたくらいです。あとは探索してみたり……ですね」 


「よかった。じゃあ、ちょっとこっち来て」



 言われるがままリシアの傍に行こうとしたレンだが、身体を動かしてきた帰りだ。

 移動に使った魔導船は設備が充実していた。シャワーを浴びて多少なりとも身だしなみを整えられる余裕はあったものの、それでも少し気になってしまう。

 そんなレンの感情を察してか、リシアは自分から距離を詰めてきて、



「お疲れさま。どんな感じだったのか、あとで改めて教えてね」



 神聖魔法の光を送り届ける。

 最近、こうしてもらう機会が多くなったようにレンは感じていた。



「ギルドに寄ってから屋敷に帰るので、そのあとでなるべく早くお話ししに行きますね」


「もしかして、今日相手にした魔物の素材のこと?」


「はい。空中庭園からギルドに運ぶようにお願いしてあるので、諸々のサインとかをしに行くだけなんですが」


「ねねっ、それ一緒に行ってもいい?」


「大丈夫ですよ。でも、いまからどこかに行くところだったんじゃないんですか?」


「ご安心ください。お嬢様のご公務は先ほど終わりましたので」



 だから外にいたのかと思ったレンに対し、給仕は「では」と言い頭を下げる。一緒に来るのかとレンが思っていたら違うようだ。



「お嬢様をお願いいたします」



 給仕はそう言い残し、当たり前のように屋敷に戻って行ってしまった。

 あれ? とレンが思っている間にもその後ろ姿は遠ざかっていく。



「レン、夕方はギルドも混んでるし、早くしなくちゃ」



 足取り軽く歩きだしたリシアが指先を唇に当て、ある疑問を口にした。



「ねぇ、アヴレオ法域の魔物ってどうだった?」


「帝都とかエレンディル近くにいる魔物よりずっと強かったですよ。ギルドの評価が高い魔物ばっかりでしたし」



 そうは言うが、レンに怪我をしている様子はなかった。

 彼と同じで剣聖に至ったリシアにもわかるのだが、剛剣を扱う剣聖が苦戦する場のほうが珍しい。



「ギルドの評価で思い出したんだけど、レンっていまのギルドランクってどうなってるの?」


「前にAになった連絡をもらったきりなので、変わってないですね」


「確か、夏休みになる前だったかしら。朝ご飯の途中でいきなり話してくれたのよね」


「俺の場合、もう改まって言うほど違わないですしね」


「もう。そうかもしれないけど」



 相変わらずギルドの等級にも頓着していないレンらしさに、リシアがため息交じりに笑ってみせた。



 話している間にも冒険者ギルドにたどり着き、彼らは夕方になって賑わう人々の声を聞いた。

 冒険者たちも二人を知る者は多い。

 人目を惹く容姿というわけだからではなく、どちらもその齢にして剛剣使い。それも相当の実力者となれば、注目を集めてしまうのは自然だった。



「お嬢様、アシュトン様、ようこそお越しくださいました」



 レンが受付にいたギルド職員の女性と知り合ってからだいぶ長くなった。

 彼女とはじめて多くを話したのは、レンがエレンディルに来てはじめの特殊依頼を受けたときだった。その縁でいまではラディウスと親友になっていることもあり、レンにしてみればより邪険にできない相手だ。



「本日はどうされました? も、もしかして、久しぶりに特殊依頼をお引き受けくださるなどでしょうか!?」


「い、いえ、しばらくその予定はないですね」


「……そうですよね~」



 落胆した彼女にレンが改まって話す。



「今日は俺の素材のことで来たんですが」


「素材……ああ! 先ほど届いた大量の品ですよね! あれですと個体数がだいぶ……いえ、かなり……ではなく相当多いため、もうしばらくお時間をいただくと思います」


「わかりました。それじゃ、次回来た時の受け取りにします」


「かしこまりました。では、こちらにご署名をお願いいたします」



 レンがさらさらとペンを滑らせるのを横目に、今日、彼はいったいどれほどの魔物と戦ってきたのだろう、とリシアは疑問を抱いた。



「個体数が相当多め……」


「お、襲い掛かってきた分ですよ。別に俺から進んで手を出したわけじゃないですから!」



 レンは苦笑を浮かべ、リシアの独り言に言葉を返した。




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