↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
八章・白磁の神型

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

295/317

夏休み、久しぶりの学院で。

 リシアはカーテンの隙間から届く朝日で目が覚めた。

 夢を見ていた気がするのだが、その内容が思い出せない。

 そんなのいままでも数えきれないほど経験してきたはずなのに、この日のリシアはどうしてか気になって仕方がなかった。



「……ただの夢なのに」



 もしかすると、昨日は夕方から少し体調が悪かったからなのかもしれない。

 急に身体が若干重くなったと思えば、神聖魔法の訓練をしようとした際にいつものように行使することができなかった。

 まるで神聖魔法が言うことを聞かないとでもいうのか、リシアが幼い頃、はじめて神聖魔法を使ったときにも似て感触が鈍かったのだ。



 ……夢見が悪いのと関係あるはずないし。

 ……それに、何度か試したらちゃんと使えたじゃない。



 思い出しながらリシアはベッドから下りる。その際にも軽い気持ちで神聖魔法を行使してみたが問題はなかった。

 窓の前に立ち、目を覚まそうとカーテンを開けて全身に朝日を浴びる。

 そのとき、彼女は朧げに夢の内容を思い出すことができた。



『――――さい』


『ご――――』



 夢の中で、しきりに何かを口にしていたような気がする。

 思い返すと、胸が張り裂けそうな痛みが唐突に駆け巡り、リシアは胸に両手を押し当てるようにして目を伏せた。

 だがそれは、徐々に落ち着いた。

 入れ替わるように心に押し寄せてきたのは、いますぐにレンの顔を見たいという感情だった。



 愛慕によるものか、別の感情によるものかなんてわからなかったのだが、彼女は身支度を終えるとすぐさま自室を飛び出した。

 制服に身を包むリシアは、同じく制服を着たレンの後ろ姿を見た刹那に心を安らぎで満たされる。



「レン! おはよ!」



 その声に振り向いたレンの顔を見たときには、もう夢のことなんて忘れていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 エレンディルに帰ったレンには、すぐにユリシスと話す機会があった。

 ユリシスはクルシェラでの出来事も相当心配していたのだが、レンが帰って早々に皇帝と話した件についても当然強い興味を抱き、それらのことを聞きたがった。

 ただ茶会が設けられただけではあるが、ユリシスにとっても驚きだったのだろう。



 そうして、エレンディルに帰ってから数日が経っている。

 エレンディルから帝都はおろか、帝都内で乗った魔導列車はいつも通学している時間帯にもかかわらず乗客の数が少ない。学生が夏休み期間だからだろう。



 夏休み中であることに変わりはないが、帝国士官学院に補習がないはずもなかった。

 レンがリシアと歩いていたのは、学院に一番近い駅の外の通りだ。



「駅を出ると一気に暑くなりますね」


「ええ。今日も大変みたいだから、無理しないようにしなくちゃね」



 リシアが慣れた手つきで神聖魔法を行使し、その光を指先から迸らせてレンに押し当てる。

 クルシェラから帰る途中で宣戦布告(あんなこと)があったというのに、リシアにはいまのところ、目に見えて大きな変化はなかった。強いて言うなら、二人の間の物理的な距離がやや狭まったくらいだ。



 朝一の補習が終わると、レンの机を囲むように何人かの生徒が集まって話をしていた。



「てかさてかさ、あんなことがあったのに補習ってどう思う?」



 今日も今日とて明るく話していた少女、ネム・アルティア。

 魔王を討伐した七英雄を祖先に持つ、七大英爵家の令嬢だ。彼女もまた、魔道具の神とも呼ばれる祖先に劣らぬ才覚を誇る。

 小柄ながら凹凸に富んだ身体つき。腰に付けたベルトには、魔道具のための工具などをいくつも携えていた。

 満開の花畑のように常に明るく、華やかな笑みを浮かべた彼女が言った。



「帰ってきたばっかりなのにさ~……いっそ休んでもよかったと思わない? ネムなんて毎日寝不足みたいな感じだし」


「補習があるのはみんな同じでしょ。あたしも、リシアもレンもね」



 仕方なさそうにそう返した少女も、七英雄の末裔の一人。

 セーラ・リオハルド。

 偉大な剣士を祖先に持つ少女で、七英雄の伝説ではメインヒロインに位置付けられていた。

 艶やかな茶髪と、凛とした顔立ち。正義感に強く努力家で、リシアとは幼い頃から剣を競い合う幼馴染だった。



「でさ、リシアちゃんとアシュトン君はどう? あの戦いの疲れ、そろそろよくなった?」


「ええ。いまから戦えって言われても大丈夫」


「俺もですね。さすがに戦いたいとは思いませんけど」


「べ、別にたとえだってば」



 リシアがむすっとした表情でレンに言えば、ネムとセーラは二人の様子が何かが違っているような気がした。

 たとえるなら。



「リシア? 何かあった?」


「何かあったって、何が?」


「言葉にするのは難しいんだけど……いつもより可愛くない?」


「それ、普段の私は可愛くないってこと?」


「ち、違うってば! だから言葉にするのが難しいって言ったの!」



 前に顔を合わせてから一週間も空いていないのに、何か違うような気がするというのもセーラはよくわからなかった。

 けれど、ネムもセーラと同じ感覚だったから、首を小さく縦に振っていた。



「それで、セーラたちはあれからどうしてたの?」


「あたしたちはレンたちより戦ってなかったから、むしろ、あのあとのほうが忙しかったくらい」



 亡国メディルの公女マシェリアによるクルシェラへの襲撃は、レオメル最大のリゾート地へと大きな傷跡を残した。

 古い道の先にあった名もなき神殿は崩れ去り、周辺の地形にも小さくない影響が刻まれた。

 それほどまでにマシェリア、そして彼女が手にしていた記憶の禁書――――神殿に眠っていた神の朧という膨大な力はすさまじかった。



「リオハルド家ができることは全部してきたつもり。いまもみんなで頑張ってるところだけど、ネムはずっと忙しかったみたい。あの戦いが終わってから、ほとんど寝ないでクルシェラの魔道具を直してたのよ」


「どう? 意外とすごいでしょ、ネムって」



 町に設置する魔道具というものがある。

 街灯ひとつとってもそうなのだが、エレンディルに存在する大時計台のように大規模なものも存在した。



「いつも大時計台も見てくれてるし、意外だなんて思ってないわよ。……でも、ほとんど寝ないでって、どんな魔道具を直してきたの?」


「あーそれはね、ほら、クルシェラの橋とか水路って覚えてる?」


「ええ。クルシェラの象徴だもの」



 レオメル最大のリゾート地であるクルシェラは、端が霞んで見えるほど巨大な湖を囲むように形成された都市だ。

 湖はもちろん、周辺にある山などの地形も巻き込むように多くの橋が架かった光景を、ここにいる誰もが覚えている。



「あの橋は施設型の魔道具なのさ。水位の調整とかちゃんと機能があるから、ネムもいろいろ見て回ってきたって感じかな」


「あの大きな橋も直してきたってこと?」


「一応ね。ネムがいじってきたのは、内部の魔道具の部分だけなんだけど」



 それにしても大規模だろうに。

 話を聞くレンもまたネムという少女の技術力に圧倒され、小さな笑みを浮かべた。




「そういえば、アシュトン君も気にしてたところも見てきたよ」


「もしかして、あの神殿ですか?」


「うんと、神殿っていうよりは、星域の門の地下にあったところかな」



 レンがマシェリアと戦うことになったきっかけでもある、あの朝に起きた神の朧の暴走。

 クルシェラの片隅にあった広場、星域の門の周囲でそれは勃発した。

 レンは星域の門付近にいた皆を守るために剣を振るうも、その際の衝撃で地下に残されていた大空間にその身を落とす。

 そこは、レンが最後にマシェリアと戦った神殿の一部分でもあった。



「アシュトン君が開けたって言ってた扉もネムが確かめてきたけど、あれはもう反応しなくなっちゃっててさ。神殿が消えたから、あそこも役目を終えたのかも」


「……神殿、俺たちが戦ってからあんなことになっちゃいましたしね」


「あはは~……もう跡形もなかったもんね。でも一応、地下に設置されてた古い魔道具はそこそこ生きてたよ」


「アルティアの技術が使われてるとこもあったのよね。あたしたちにはわからなかったけど」


「そーそー。でもいまは作ってない部品もたくさんあったから、全部は直せなかったのが残念かも。ネムだけうちの領地に寄って書庫で調べてきたけど、ほとんど素材の精製からになるかなー」



 するとネムが、あっ! と声を出した。

 彼女はすぐに懐へ手を入れると、大きめのメモ帳を取り出す。それを開き、あるページを皆に見せつけた。



「いきなりなんだけど、これどう思う?」


「……リシア、どう?」


「私にもよくわからないけど……何かの設計図とか……。ううん、調合に使う式みたいなのも書いてるみたい」



 レンの興味を引くのに十分すぎる話である。

 特にアルティア領の屋敷で見つかった品と聞けば、先日、城でアスタリテが話していたことも脳裏をよぎる。



『何かの設計図のようにも、何かの生成法のようにも見える紙でしたわ』



 魔道具かポーションの生成法(レシピ)のようなもの。七英雄の伝説Ⅱでも得られた、使い道のない重要アイテムだった。

 ネムが皆に見せたのは、関連した諸々をスケッチしたものだ。



「アルティアさん、いきなりすぎて俺たちの理解が追いついてなくて」


「そっ、そうだよね! ごめんごめん!」



 こほん、と咳払いをしたネム。



「アルティアの屋敷に寄ったとき、ちょうど少し前に見つかったんだ~って、前当主から見せてもらったわけさ」


(――――やっぱり)



 レンの予想通り、例の品の写しで間違いない。

 アスタリテから聞いて何日も経っていないとあって、特に印象深かった。

 だが、レンもリシアも、それこそセーラも、書かれているものが何を意味しているのかがわからなかった。



「でさでさ、アシュトン君はどう思う?」


「……俺もリシアと同じ感想ですね」


「そうだよねー……実はネムも同じ感覚。お爺様とかお父様も同じ状況だから、もうさっぱり何が何だか。相変わらず、ミリム・アルティアが遺した書物は解析が難しくてさー……」


「それって、ミリム・アルティアが書いたものだったんですか?」


「うん。屋敷で見慣れた筆跡だったし、このあたり……あっ、ごめんね。ネムが描きなおしてるからわかりにくいけど、図の描き方もいつもこんな風に――――」



 いくつか説明を受けたレンたちだが、やはり書かれている内容が何を意図しているのかはわからなかった。

 そもそも、アルティア家の人間にわからないものを、専門外の者に理解できるはずもない。

 アルティア家の前当主たちも調査しているそうなのだが、ミリム・アルティアが遺した書物の解析は、数年はおろか十数年、数十年かかるものも珍しくない。



「アルティア家の帝都のお屋敷に、関係してそうな資料ってないんでしょうか」



 レンがネムに聞いてみたところ、ネムは「おっ! 鋭い!」と力強く答えた。



「実はあったわけだよ。見つけられたのはアシュトン君のおかげでもあるんだけどね」


「え? 俺のおかげ?」


「うん。さっき話したクルシェラの地下のことでね」



 ネムは再び自分のメモ帳を開き、さっきとは違うページをレンに見せようとしていた。



「さっきの設計図っていうか、生成法(レシピ)? のためにミリム・アルティアが何かを調べてたことはわかったんだ。地下神殿にいまは動いてない魔道具があって……それがこれ。アシュトン君が落ちたところよりもっと地下にあったんだけど」



 金属製の檻にも似た装飾で水晶らしき石を囲んだ、ペンデュラムにも似たものがスケッチされている。

 複雑な文様が細部に施されたそれが、磨き上げられた石碑のような姿の大きな魔道具と一緒に描かれていた。



「どう思う? これ」


「存在感はすごいですけど、そのくらいしか気にならないかも」


「あははっ、だよね。ネムも最初は同じ感じだったし」



 だが、さらにページをめくるとそこに手掛かりが。



「うちの書庫にこの魔道具のことが書かれた書物があったんだ。ミリム・アルティアが、これを何に使ってたのかについてもね」


「ってことは、それがはじめのメモと関係あるんですね」


「そーゆーこと。この用途不明の魔道具は、ミリム・アルティアが魔力の反応を確かめるために使ってたものみたい。それも、特殊な魔力のね」



 それまで話を聞いていたセーラが興味を抱いて口を開く。



「特殊な魔力って、たとえば?」


「すっごく珍しい魔力とかじゃない?」



 ネムが平然と返せば、セーラがネムの額に軽く指を押し当てた。



「あたっ!? な、なんで!?」


「自分で特殊って言っておきながら、珍しいとかじゃない? っていい加減すぎるでしょ」


「だ、だってわかんないんだもん! すっごいいろんな数字を比較してみたり、性質を羅列してあったりはしたけど……現代魔法学のどこにも書いてない性質だったんだってばぁ!」


「当時と違う概念とかじゃないの?」


「そうかもしれないけど、結局のところまだわからないってこと!」



 それまで二人の会話に耳を傾けていたレンが何気なく聞いた。



「その特殊な魔力って、クルシェラの癒やしの力とかの可能性はないんですか?」



 レンたちがつい先日まで滞在していた星謳う地クルシェラは、レオメル一のリゾート地として知られていた。その地特有の癒やしの魔力は、レンもその手で触れて直接効力を確認したものだ。

 それはそれとして、レンの予想は外れた。



「ううん。クルシェラの力がその正体不明の特殊な魔力に対して、どんな影響を与えられたのかを調べてたんだと思う」



 癒やしの魔力を用いるのだから、何かを癒やすために確かめていたのだろうか。



「ミリム・アルティアがこの調査でわかった情報を活かして、よくわかんない計算を繰り返して必要な素材を割り出してたみたい。結局、あの設計図っぽいので何を作ろうとしてたのかって話なんだけど」


「素材についてはわかってるんですか?」


「そこも詳細はまだわかってないわけさ。いまわかるのは、ミリム・アルティアが計算したうえで、基幹になるのが三つの素材(、、、、、)だったらしいってことくらいだよ」



 その言葉はレンとリシアに強い印象を残した。

 三つの素材という点に、とある昔話に出てきた姫の存在を思わされたからだろうか。



「魔道具の実物さえあれば、別の方法で調べられたかもしれないけどね」


「そういうときってどうするの? いつも大時計台の修理をしに来てくれるときみたいに、少しだけ分解してみるとか?」


「そういうのとか、魔道具によっては無理やり許容魔力限界(オーバーフロー)を起こさせて反応を見てみるときもあるよ。そしたら動作がほとんど止まるからさ」


「……それ大丈夫なの?」


「少しだけなら壊れないからへーきへーき!  ご先祖様の魔道具なら特にそうだしね。ってか、逆にそういう反応をさせるための魔力を用意するほうが難しいと思う」



 たとえば大時計台ほどの大規模になると、ほぼ不可能なのだとネムは断言した。



「ご先祖様が作った都市配置型の魔道具なんかだと、許容魔力限界(オーバーフロー)するのはあり得ないくらいなんだよ」



 すると、今度はセーラが問いかける。



「ねぇネム、学院に配置されてる魔道具とかだったらどう?」


「学院にあるのだったら、無理やり暴走させることもできなくないと思うよ。それでも、とんでもなく頑張ってやっとじゃないかな」



 帝国士官学院には万が一の際に帝都の民を守れるよう、防衛用の魔道具が各所に配置されている。特に大講堂にもなれば、上位貴族の屋敷でも比肩できない堅牢さを誇ることで知られていた。



「へぇー……やっぱり学院の魔道具もすごいのね」


「もっちろん! だけど、もしご先祖様が作ったのを許容魔力限界(オーバーフロー)させようと思ったら――――」



 十数秒考え、ネムが屈託のない笑みを浮かべる。



「やっぱ無理かも。とんでもなく強力な聖遺物の魔力とかで、ちょっとだけ可能性が生まれるくらいかな~」


「あたしにはよくわからないけど、それってどっちにしろ、さっきのメモを調べるのは難しいって話?」


「微妙に現実逃避してたのに、セーラちゃんのせいで現実に戻されちゃった……」


「……ごめんってば。確認したかっただけよ」



 はぁ、とネムが脱力しながらセーラにしなだれかかった。



 つづく補習が終わったのは昼だったが、ネムは再びあのメモをじっと眺めていた。

 その姿を見て、何の気なしにセーラが言った。




「さっきのこと、学院長にも聞いてみたら?」


「セーラちゃん忘れたの? 学院長、まだ仕事で帝都に戻ってきてないんだけど」


「……あっ、特待クラスの入学試験の仕事だったかしら」


「そーそー。あとほら、クルシェラの様子を見てほしいってことで仕事つづきだってさ。一緒に剣王様も行ってるみたい。帝都に帰ってくるのは夏休み明け以降らしいよ」



 なので、聞けるとしてもそれからだろう。



「……とりあえず、これのことはまたゆっくり考えてみようかな」



 それを聞き、セーラが仕方なさそうに提案。



「アルティアのお屋敷でもう一回資料を探すでもしないと、手掛かりなんてないんじゃない? それか、今度あたしの家の書庫とかも見に来る?」


「今度っていうか、今日がいいっていうか」


「別にいいけど、ほんと急ね」


「だって気になってしょーがないんだもん! このままじゃ、ネムの夏休みが悩んでるだけで終わっちゃうよ!? セーラちゃんはそれでもいいの!?」


「はいはい。じゃあ今日でもいいわ。ヴェインも今日はいないし、ついでに泊まってく?」


「おー! いいじゃん! それもなんか夏休みっぽいし!」



 近くで会話を聞いていたレンがセーラに尋ねた。



「ヴェインって、まだ帰ってきてないんですか?」


「あたしたちと一緒に帰ってきてるわよ。ただ、勇者の末裔としていろいろ声をかけられてて。今日も忙しそうにしてたわ」


「あー……だから学院にも来てなかったんですね」



 ヴェインも忙しそうだなとレンが思っていたら、ネムが唐突に席を立つ。彼女は楽しそうにリシアの前へ足を運んだ。



「てかてか、リシアちゃんも一緒にお泊まりしない?」


「ごめんなさい。夜から家の仕事を手伝わないといけなくて」



 彼女たちが話している間にも、午後を告げる鐘の音が鳴り響く。



「じゃあさ、お昼だけでも一緒に食べていかない? 食堂、夏休み中もちゃーんと開いてるみたいだしさ。とゆーわけで、アシュトン君も行こーよ!」


「ええ。それなら喜んで」


「俺も大丈夫です。でも、先にフィオナ様のところに行ってきますね。ユリシス様にお渡ししてほしい手紙を持ってきてたので」


「あ……あー! イ、イグナート侯爵への手紙なら早くしとかないとね!」


「ええ。あたしもそう思う」



 ネムとセーラが微妙に乾いた笑みを浮かべて言った。

 レンとリシアは慣れているから関係ないが、思えばあのユリシス・イグナートという男、他派閥はもちろん同じ皇族派貴族からも恐れられている男だった。

 リシアは二人の反応を見て小さく微笑み、



「フィオナ様にお昼一緒にどう? って誘ってきて」



 レンに向けて声を弾ませた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
>>>書籍版もどうぞよろしくお願いいたします!<<<
k9t0jgcm7u679lcddexxirle65p1_15qj_m8_vl_inir
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。