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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
八章・白磁の神型

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皇帝。

原作8巻、コミックス9巻の予約が開始しております!

最新刊も大ボリュームで準備中となりますので、書籍版もどうぞよろしくお願いいたします……!


また、このラノの投票が明日で終了となります。

『物語の黒幕に転生して』も投票対象となっておりますので、ぜひご検討ください!


 そして――――現在。

 厳かな雰囲気漂う城内、レンは共に歩くエステルとの会話をつづけていた。



「クルシェラの騒動も詳しく聞いておきたいところだが、ここでは落ち着いて話せないな」


「今度、獅子聖庁で改めてにしましょうか。ちなみに、いまってどこに向かってるんですか?」



 エステルはその言葉を口にする際、より敬意をこめた様子の声音で。



「『最初の庭園』だ」



 城の敷地内にある、数える程度の者しか足を踏み入れることを許されていない庭。獅子王が一人の時間を過ごすために造られたところだ。

 レンは七英雄の伝説における『最初の庭園』を思い浮かべ、



「……俺も知ってる場所でした」



 その言葉だけを口にした。

 もうしばらく回廊を進むと、それが見えてきた。

 最初の庭園へと通じる扉の前で、数人の近衛騎士が番をしている。

 彼らはエステルが来ることを知っていたのか、驚いた様子を見せることなく彼女とレンに一礼した。



 近衛騎士が左右から扉を開くと、その隙間から徐々に暖かくまばゆい陽光が広がった。

 扉が完全に開かれた先にあるのは、レンが目の当たりにしたことがないほどの美しい庭園。全身で浴びる空気がいままでにないほど透き通り、思わず言葉を失ってしまった。



「レン?」


「――――すみません、ちょっと驚いてました」


「無理もない。ここは帝城にあって特に異彩を放つ場所なのだ」



 レンの考えを汲んだエステルが一歩前へ進んだのを見て、レンもその足取りに倣って一歩ずつ先へと進む。



 別世界のようだった。

 帝城はその規模から神が住まうような……と表現されることが度々ある。最初の庭園はまさしく、その感覚の極致とも言える。

 周りには夏の花の香りが立ち込め、陽光がとても穏やかだった。



「陛下もいつも、あの入り口から?」


「皇族専用の扉がある。私たちが通ってきたのとは別にな」


「じゃあ、陛下はそちらからいらっしゃるんですね」



 麗しい庭園を進みながら。

 獅子聖庁の長にして、レオメル最強の騎士が。



「あそこだ」



 そこに天球を思わせる形の屋根を設けた、石造りの大きく背の高い東屋があった。その周りに沿って造られた階段を上れば、庭園を見渡せるやや高いところに広場があるのが見て取れる。



「レン」



 エステルがそれまでよりさらに真摯な面持ちで、



「私が案内できるのはここまでだ」



 そう告げ、彼女は階段の傍に立ち尽くした。

 レンはこくりと一度頷き、階段に足をかけた。一段、また一段とその先へと向かうにつれて、心の中に不思議な感情が蘇ってきた。



 ……この先に、あの方が。

 ……レオメルを統べる、皇帝陛下がいる。



 記憶に残る皇帝の姿も声も、いまではひどく曖昧だった。

 七英雄の伝説において、レン・アシュトンに対しての討伐命令を下したその男。このレオメルを統べる王としての威厳と、覇気を漂わせていたような覚えがある。



 木漏れ日に目を細めて歩いていると、もう十数段上に階段の終わりが見えた。

 交差した階段から、この先へ向かう階段が二つあることが理解できる。

 ようやく最後の一段を上ったレンが見たのは、柔らかい影を落とした石造りの広場。

 中央に置かれた木製のテーブルと椅子。テーブルの上には、読みかけの本が一冊あった。



 そして、二人分のティーカップが面と向かって置いてある。



「けど……陛下は」



 レン以外の気配はなかった。

 いまから階段を下りて様子を見てくるべきだろうか? 

 疑問を覚えながらもレンは広場の周りを囲んだ石造りの手すりに近寄り、そこに手を置いて庭園を見渡した。



 涼しく穏やかな風。

 目を閉じ、風に横顔を撫でられていたら――――



「待たせてしまった」



 レンが聞いたことのない声。

 しかし、識(し)っている声。



 いままでにない邂逅だというのに、どこか既視感がある。

 それはきっと、レンがユリシス・イグナートとはじめて会ったときとも似ているように感じたからかもしれない。

 ユリシスに劣らず常人離れした存在感を纏っていることもそうだろう。

 現れた者は、レンが反応を示すより先に言葉をつづけた。



「そのままでよい。ここにおいては獅子王の他に、臣下の礼を取られるべき存在はいないのだから」


「……では、そのように」



 男性は歩きながら、その声を風に乗せた。



「昨年、獅子王大祭の折に――――そなたを知ろうとした」


「エステル様に命じて、ですか?」


「知っていたということは、ラディウスからか」



 レンは目を開けた。

 振り向いて、同じ高さに立った男性の姿を網膜にとらえる。

 二つの双眸が、そのときようやく交錯。



「茶を共にと聞き、何を思ったのか教えてくれるか」



 肩口まで伸びた銀髪。切れ上がった涼しげな目元を、嫌みなく宝飾品が添えられたモノクルで品よく彩っていた。

 凛々しく、厳格で、磨き上げられた名剣が如き鋭さ。年の頃はユリシスと同じくらいだろうか。

 男性はそのユリシスにも勝る長身に対し、腰には漆黒に染め上げた長い鞘を携える。それは飾りかと思いきや、立ち居振る舞いからレンはそうではないことを感じ取っていた。



 冷静に相手を見据える一方、レンはいまの問いへの言葉を選ぼうとしていた。



「いま、どうお答えすべきか迷っております」



 このときレンは、ユリシスと出会ったときのことを思ってしまった理由を悟った。

 なぜなら、相手はそれほどの存在なのだ。またそれが逆に、彼との接し方を知り得る糸口にもなっていた。

 レンにとっては、ある世界線で自らを討伐する命令を下した男。

 男性にとっては、数ある出来事の中でその名を何度も聞く少年。



 ――――レン・アシュトン。

 ――――ノトス・ヴィン・レオメル。

 


 少年と王の間に、風が吹き抜ける。



「気にかかる表情をしている」


「……え?」


「余を恐れているわけではない。緊張に身を強張らせているわけでもないというのに、どうしてか余にこれまでの言葉以上の存在感を感じているようだ」


「えっと……それは……」


「構わん。余にどのような感情を抱こうと気に障ることはない。ただ、珍しい表情を見たと思い、目についただけのこと」



 ユリシスと出会ったときとも違う強烈な印象を一秒、また一秒と植え付けられているような感覚がレンの心を満たしていく。

 だが、それでも意識しすぎず平静でいられたのはレンだからだろうか。

 ノトスはレンの近く、手すりの前へと足を運んでどこか遠くに視線を送った。



「そなたは、不思議な存在だ」



 皇帝はつづけた。



「名もなき村に生まれ、クラウゼルの変とも呼ばれる騒動を経て、幾度となく生死のやり取りに直面し、乗り越えてきた。そのそなたが、いまは余の前にいる」


「それは――――運がよかっただけです」


「その言葉はすでに意味をなさない。何故なら、それだけでは越えられない境界の先へとそなたは足を踏み入れたからだ」



 そう。境界。



「運などという不確定な要素のみでは、この日の邂逅はなかった」



 傾聴に尽くすレンは、ノトス以上にどこか遠くを見ていた。

 何か変なことを言っただろうかと疑問を抱いたノトスに、レンはそれから数秒もしないうちに言った。

 心の内に、数年前の景色を思い浮かべつつ。



「何年か前、似ている会話を経験しました」


「では思い浮かぶのも、そのときに似た言葉だと?」


「それは――――」



 レンはノトスに顔を向け、苦笑した。



『何故なら世界最大の大国(レオメル)を窮地に追い込むことができる個人、それが貴方ですから』



 過去、レンがユリシスとはじめて出会ったときにはこう返した。

 そのことを考えていると、やはり皇帝と侯爵はどこか似ていると思った。

 七英雄の伝説Iにおける最大級の国難に大きく関わったこの二人は、顔も性格も違っているというのに、それでもだ。



「いえ」



 言いかけたレンの頭に、当時とは違う返事が浮かんだ。



「いまは、自分の足で先へと進めたことを実感できた気がしています」



 ノトスが口にした、境界を越えた先での出会いがこのときならば、きっとそう。

 少年の答えを聞き、皇帝が新たに問う。



「余がこの席を求めた理由を、そなたはなんと心得る」


「畏くも、それをお聞かせいただけると思い、ここへ参りました」



 レンは話をつづけた。



「それでも一つ確信はありました。この日、茶のためだけにご招待いただけたわけではないはずだと」



 胆力と表現するのも違っていた。

 一切の恐れもなく、怯むこともまるで知らず、どこまでも冷静に言葉を紡ぐレンの姿は、彼がそれまで多くを成し遂げられた理由そのものだった。



「はじめに、聞かねばならないことがある」


「私にお答えできることでしたら」



 ならば、と。

 皇帝はその双眸を鋭くした。少年に向けるにしては静かな覇気に溢れていたけれど、それにもレンは目をそらさない。

 レンの目を見ながら、皇帝は問いかけた。



「禁書の持ち手《マシェリア・エル・メディル》はかの本について、そなたに何かを話したか」



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