25 デカい上に再生なんか卑怯だ!!
巨大なホール。その中でロクドーは巨大な骸骨、ガシャドクロと相対していた。
サイズ比にしてロクドーの五倍はありそうだ。
巨大な骸骨といっても、実態は数十の骸骨が組み合っている。
そのため、体中を覆う骸骨がカタカタと顎を鳴らしながらロクドーを見つめていた。
「なんででかいのに人間の形態とるかね」
頭上からガシャドクロの拳が降ってくる。当たれば即座に地面のしみになること請け合いだ。
それをギリギリで避けると、足元に到達。
その勢いを殺すことなく振りかぶった鉄鞭を右脚の脛のあたりに叩き付けた。
ゴシャリとその部分の髑髏が砕け剥がれ落ちる。ガシャドクロの身体がぐらりと揺れた。
が、そのまま逆回転すると今度はふくらはぎ辺りの骸骨を砕く。
追撃をしようとしたが、右脚を大きく振り上げ、そのまま踏みつけた来たので、距離を開けた。
「マリナ! そっちは行けるか!」
「こっちは大丈夫です! ってか、上!!」
マリナの声。ロクドーは再度振るわれる拳を前転で避け、今度は左脚へと距離を詰めた。
が、そこでゾクリと背中に悪寒が走る。脛のあたりの骸骨が剣を持っているのだ。
反射的に距離を開ける。と、鼻先を銀光が抜けていく。遅れて鼻梁に鋭い痛みが走った。
「おいおい、まじかよ」
骸骨の内何体かが剣を装備している。
さらに、そいつらはガシャドクロの表面を器用に移動しているのだ。
まさか、ロクドーは先ほど砕いたはずの右足に視線を送る。
なんと、いなくなった骸骨部分にいつの間にか別の骸骨が入り込んでいる。
「デカい上に再生なんか卑怯だ!!」
毒吐くロクドーだが、そんなものお構いなしにガシャドクロは拳を叩きこんでくる。
「にゃろう! ならそっちいってやる!」
地面に叩き付けられた拳に、その部分の髑髏を砕きながら鉄鞭を突き立てる。
そして、自身の頭上へと戻っていくはずの拳に身を上りあがらせた。
「まぁ、女の身体に口説き文句も熱い抱擁もなく跨るなんて。わたくしそんなに軽い女じゃなくてよ」
「うっせぇよ、こちとらホネガラボディには興味ないもんでね!」
ロクドーは器用にバランスを整えると、一の腕、二の腕を駆け上がり、肩口経由で首筋に到達する。
ロクドーの持っていた鉄鞭はいつの間にか鉄槍に変化していた。
そして、その鉄槍を肩から胸に向かって突き刺そうと振り上げる。
と、太ももに鋭い痛みが走る。首筋から剣が突き出ていた。
「わずらわしい!」
攻撃先を変更。槍の柄で剣を叩き折る。
刺さったままだったのでその振動がロクドーの骨にまで届いた。
ロクドーは痛みに顔を歪めながら、肩口から飛び降りた。
と次の瞬間ロクドーのいた位置にいくつもの剣が突き刺さる。
「きれいなバラにはとげがあるものですわ」
「黙れ、今バラバラにしてやんよ!」
着地と同時に足から肩にかけて衝撃を分散させて着地する。そして、即座に態勢を整えた。
相手の反応を待つことはしない。瞬時に再度跳躍し、胸のあたりまで飛び上がる。
そして、飛翔の威力と、自身の膂力だけで胸の辺りを覆う骸骨を槍で切り裂き砕いた。
飛び散る骨片、背骨を砕かれた骸骨がロクドーのそばを落下していくがお構いなしにロクドーはその隙間に手をかける。
その隙間から見えるのはドーラであった。
「まぁ、今度はレディの胸をわしづかみなんてハレンチな」
「乳房も乳首もねぇのにどうやって楽しめってんだよ」
ロクドーは胸の隙間に潜り込もうとするが左肩が引っかかって進めない。
右手の槍でドーラを突こうとしたが、そばの骸骨がそれを止める。
「残念でしたわね。目には目を歯には歯を。なら、胸には胸を、かしら?」
ロクドーは右手を捕まえていた骸骨を振り払う。そして、潜り込んでいた身体を強引に引き抜いた。
が、一瞬遅かった。
現れたのは剣持ちの骸骨であった。
自由落下中のロクドーはそれでも逃れようと槍を振るう。
胸を狙っていたのであろう一撃は、わずかにずれた。
しかし、研がれていないであろう剣であったがそれでも威力が整えば切断が可能であった。
最初に殴打による威力でロクドーの骨が砕けた。ついで皮膚に剣が食い込む。
メチリと皮膚が裂け、そして、ロクドーの左腕が飛んだ。
「あら。まぁ先に肩をやられたから、肩には肩をってところかしらね。レディに簡単に手が届くなんて思わないことね」
ロクドーは、右手で印を組むと鉄鞭をマフラーに戻す。
それを器用に使い吹き飛んだ左手に巻き付け回収。が、そちらに気を取られ地面に背中から墜落した。
肺の空気がすべて押し出される。さらに追撃の拳が襲い掛かるが、転がって回避した。
「だ、大丈夫ぶぶぶでエスカ_?> うで;pくで腕が!!!」
「落ち着け、生きちゃいるよ。それより周り見てろ」
マリナが横から襲い掛かった男ゾンビの胸に剣をつきこんだ。
血が噴き出すよりも早く剣を抜くと、ついで、ハイキックを側頭部に叩き込む。
男ゾンビが吹き飛び、グールが数体それに巻き込まれた。
残りは十体程度にまで減っていた。
ロクドーは立ち上がるとガシャドクロの胸を確認する。砕き開いた穴はもう閉じてしまっていた。
チッと舌打つ。が、何かを思いついたのか、ニッと口に笑みを浮かべると、マリナのそばに寄った。
「どうしたんで、え!?」
ロクドーは突然マリナの胸倉をつかんだ。
そして、右腕一本を器用に使うとガシャドクロに向かって放り投げた。
ガシャドクロの胸倉へ一直線。
「マリナ! そいつの胸の内をこじ開けろ!」
マリナは、ひぇぇと情けない悲鳴を上げた。
が、しかしマリナは即座にその意図を悟ったのか体制を整える。
「あ、マリナの力じゃこじあけるのに足んねぇか?」
ロクドーは一瞬失敗の文字がよぎった。が、マリナはロクドーの予想を超えた。
空中で即座に剣を腰の鞘に剣をしまうと、ガシャドクロがぶつけてきた拳を足場に再度加速。
そして、胸の眼前まで飛ぶと鞘で刃を押さえながら抜剣。
デコピンの要領で剣を加速させる。今度はその威力を肩と腰の回転でさらに倍加。
キン、と金属のぶつかり合うような澄んだ音が響いた。
ついで、剣により切断された骸骨が崩れ落ちていく。そして、その隙間から再度ドーラが現れた。
「あら、マリナさん。ごきげんよう。でも私のこと斬れるのかしら?」
が、マリナは何もしない。
そのまま落下するマリナと入れ替わるようにその隙間に何かが投げ込まれた。
それは赤黒い血液がテラテラと流れ出している。
先ほど斬り飛ばしたはずのロクドーの腕であった。
「何よ、これ気持ち悪い」
「そういうな、俺からのとっておきのプレゼントだ」
その言葉と共にロクドーが飛び上がっていた。
そして、右手一本で胸に手をひっかける。そして、その隙間にで潜り込んだ。
「次こそ手がとど……」
ロクドーが右腕を伸ばした。が、ドーラの笑みは崩れない。
次の瞬間手首が切り飛ばされた。ガシャドクロの体内にまで剣持ちの髑髏が侵入していたのだ。
ドーラはさも面白そうに両口端を引き上げる。
「エスコートもまともにできない男に――」
ドーラは思わず息をのんだ。飛び散る鮮血、ドーラの顔に血飛沫がかかった。
が、そのショックで言葉に詰まったわけではない。
ドーラのそばに落ちていたロクドーの左腕がドーラの衣服の裾を握りしめているのだ。
「な! 私は術などかけていない!」
「術なんかじゃねぇよ。俺の左腕だぜ。俺が頑張ってんのに寝てるわけにはいかねぇって頑張ってんのさ」
ロクドーの左腕の切断面から血管が伸びた。蛇のごとくみをくねらせ、左腕同士が結合する。
「な!」
「今度こそ手が届いたぜ」
ドーラが、即座に懐からナイフを抜いた。が、それよりもロクドーの動きの方が早かった。
ドーラの首に左腕を絡ませると、自身の方に引き寄せる。
刀持ちの骸骨がロクドーの背に剣をつきこんだ。びくりとロクドーが身体を震わせる。
辺りに血の臭いが充満する。が、遠慮なくドーラの顔を自身の眼前に引き寄せた。
「止めろ、こいつも下の化け物も表の奴らもだ。じゃないとこのまま舌ねじ込んでやろうか。それとも縊り殺してやろうか」
口端に赤い泡をため、体中から血を流している。
が、悲壮感もなく唇を引き上げて卑しい笑みを浮かべている。
「化け物じみた再生能力ね…… 卑怯者」
ガシャドクロがゆっくりと崩れ落ちる。ロクドーは、骸骨のがれきの中から這いずり出た。
その手には猫を捕まえるように首後ろの襟ぐりでドーラが捕まれている。
それに慌ててマリナが寄ってきた。
「だいじょ、あれ? 腕が! なんで左手が付いてて右手がないんですか!?」
「毎朝食ってる山盛り二杯のコーンフレークのおかげだな」
ロクドーはマリナにドーラを押し付ける。マリナは、首を傾げた。そして、顔を険しくする。
「殺せというんですか? それなら……」
剣を抜いたマリナにロクドーが慌てたように手を振った。
「あの事件の犯人だぞ、殺したら利用価値がなくなる。つか、疑いが大きくなるぞ」
「私は、あの執事を殺してはいません。が、確かに私を突き出せばあなたの疑いは晴れるでしょうね」
マリナは剣を鞘に戻した。
そして、後ろ手に縛りあげ始めたのを確認すると、ロクドーは自身の右腕を探しに骨瓦礫の下を捜索し始めた。
「ドーラさん、あなたは何者なのですか?」
ドーラは優しく微笑んだだけだ。マリナがため息をつくとホールの扉が大きく開け放たれた。
「お~い、二人とも生きてる~?」
「あえ? なんですか? その恰好……」
それは、リィネであった。頭の上には金茶色をした三角の動物耳が、そして腰の後ろにはもふもふとした尻尾が生えている。
「あ、あぁぁぁぁぁ! 隠し忘れた!!!」
「何なんですか、お二人も……」
頭を抱えるリィネ。
そして、目を見開いているマリナを目の端にとらえながらロクドーは右手首を拾い上げた。
切り口面を接させると、皮膚がだんだんとなじんでいく。
それを確認すると、もう一度当たりを見渡した。
月明かりが入り込んでいた窓から、いつの間にか陽の光が入り込んできている。
マリナが切ったゾンビやグール達はピクリとも動かない。
ロクドーはひどく長く息を吐き出した。そのあとで大きくあくびをする。
「俺はもう帰る! そして、寝る!」
ロクドーはそう宣言すると踵を返すと扉に向かって歩き始めた。
リィネは嘆きながら、マリナは二人の異様な状況に疑問符を浮かべながらそれに続き、ドーラもまた抵抗するそぶりなど見せずにそれに付き従った。




