13 何のことですかね? あ・に・き
廊下には四角く切り取られただけの窓がある。
そこからわずかに光が入ってきていた。
広さとしては男が行き違うのには十分といった程度で、高さは一般的に背が高い、と言われる人間でも十分な高さがある。
そして、そこで立ちはだかるロクドーに相対するように向こうからゆっくりと一団が向かってきていた。
先頭はロクドーもよく知るチビた男、ベックであった。
その横には濃い緑色のローブを着込み、右手に細身のレイピアを握った長髪の男がいる。
その僅か後ろには赤い服を羽織った額に傷のある男と黒い服を着たチョビ髭の大男がいた。
赤い服の男は二振りの小型の斧を両手にしている。
黒い服を着た大男はロクドーを見つけると背中の矢筒に手を伸ばしていた。
「おい、ロクドー。お前か?」
チビは唸るように声を出した。
すごんでいるようだがその妙に高い声は、あまり威圧感がない。
「何のことですかね? あ・に・き」
ロクドーはそういうと刀を眼前に突き出して挑発する。
わずかに入り込んだ月明かりにより刃に鈍い銀光が走った。
「お前、俺たちに降ったろ? 面白いやつだからと思ってせっかく良くしてやろうとしてたのによう」
「やっぱ妹ってかわいいじゃないっすか。それに、無理矢理女抱くなんて、ぶっさいくな真似、教えてもらってもやるわけないじゃないですか。だからチビなんですよ、ヴァーカ」
チビの眼光が鋭くなる。
「てめぇ、吐いた唾飲まんとけよ!」
唾を飛ばしながら叫んだ。
それが合図であったかのように一斉に男たちが動き出した。
しかし、それよりも先にロクドーは動き出していた。
ロクドーの足下が爆ぜ、ついで疾風へと変わる。
ベックは慌てたように腰の剣に手を伸ばす。
が、次の瞬間、その腕が吹き飛んだ。
数瞬おいて血飛沫が舞う。
なっ、それだけ言いながらベックは膝から崩れ落ちた。
視線の先にはロクドーがいた。
その口角はひん上がりいかにもチンピラ風情だ。
「きさまぁ!」
ベックの横に立っていた長髪の男はレイピアをロクドーに向かって刺し込んできた。
それを右手甲で弾くと前進。
長髪の男は、怯えるような短い声を吐いた。
そして、後ろに後退しようとして背から壁にぶつかる。
ロクドーはさらに前進しようとしたところで突然バランスを崩したように横に倒れこんだ。
その上を矢が通過する。
ガッという鈍い音と共に長髪の胸を貫き壁に縫い付けた。
それをしり目に、ロクドーは倒れこんだ勢いを前進に利用する。
這うような低い姿勢で向かう先には弓をつがえるちょび髭の男がいた。
しかし、それを阻止せんと額の傷のある男はそれに向かって右手の斧を振り下ろす。
「じゃまぁ!」
ロクドーは刀を地面に突き立て急停止した。
速度が一瞬でゼロになる。
その鼻先を金属がかすめる。
そして、それが地面に衝突。
轟音とともに地面に埋まっていた小石が火花を上げ吹き上がる。
それに合わせるように今度はロクドーの体が伸びあがる。
傷の男が左の斧を振るったがわずかに遅い。
ロクドーは斧が届くより早く胸元に潜り込むと、左胸に刀を突きこんだ。
傷の男はガチリと歯を食いしばる。
心臓の跳ねるリズムが刀を通じてロクドーに伝わった。
止まる寸前、消えゆく炎が一瞬大きくきらめく。
しまった、ロクドーの心臓もまた焦りから跳ねる。
傷の男は両手から斧を取り落とした。そ
して、そのままロクドーに抱きつきベアハッグの体勢になる。
そして、風切り音。
ロクドーの背に鋭い痛みが走る。
ドスッ、ドスッと、計六回。
ロクドーは目を見開き、食いしばった口から苦鳴が漏れる。
傷の男の力が緩み、ロクドーはその拘束から逃れた。
背に手を伸ばすと、その音の原因を探り当てる。
グポッと嫌な音とともにそれを引き抜いた。
当然矢である。
矢じりにはどろりとした赤いものがついていた。
くそっ、と呟きながらロクドーは両ひざをつく。
「ガキに三人取られるとはな……」
ちょび髭はロクドーの奥で腕を失い、倒れこんでいたベックの元へ寄った。
ベックは、顔面にびっしょりと汗をかきながら斬られた腕の傷口を握りこんでいる。
その顔は痛みから鬼のような形相になっていた。
必死に立ち上がると、背に矢を受けたハリネズミ状のロクドーに向かってくる。
「この野郎、許さねぇぞ」
口から唾を垂らしながら叫びたい衝動を抑えているのか、その声はくぐもっていてほとんど聞こえない。
そして、蹴りつけようと右足を振り上げる。
次の瞬間、わずかに金属光が足元を走った。
ついで、それを追うように赤の煌めき。
ロクドーの右手がいつの間にか刀を振るっていた。
あん? ベックは少し首を傾げた。
軸足にしていた左脚に鋭い、しかし、ほんのわずかな痛みが走ったのだ。
左脚を見ようとして今度は前に首を傾けた瞬間、ぐらりと身体が文字通り沈んだ。
左脚が脛の部分で断たれているのだ。
そして、身体が沈んだ理由を理解したのか、ベックは今度こそ絶叫した。
「生きてたのか!?」
ちょび髭が瞬時に弓を構え、矢を放つ。
膝をつき自由に動けないロクドーの顔面をとらえていた。
避ける、不可能。
ロクドーは瞬時に判断する。
そして、それに向かって歯向かった。
ガキンと金属音が鳴り響く。
「――嘘だろ?」
ロクドーはそれを歯で噛み止めたのだ。
牙をむく野犬のような顔貌。
一瞬ちょび髭の動きが止まる。
それを見逃さなかった。ロクドーはいつの間にか拾っていた斧を、上半身だけ使い投げつける。
轟音とともに回転しながらちょび髭の首元に吸い込まれた。
「くそったれ。治るけど、痛いんだぞ?」
ロクドーはぼやきながら背に突き刺さっていた残りの矢に手を伸ばす。
肉が締まり始めており、引き抜くたびに奥歯がなくなるほどかみしめる必要があった。
「さてと、追いつくかな――」
リィネたちを追いかけようと踵を返したが、その歩が止まる。
新たな足音を認識したのだ。
ロクドーは、壁に空いた穴から空を見上げる。
月が煌々と輝いている。
「戻ってくるなよ」
小さくつぶやくと、ロクドーは再度戦闘態勢をとった。




